光城 悠人氏インタビュー 世間のルールを疑って、新しいルールをつくるほうが楽しそうだと思いません?~みんな「就活しんどい」と思いすぎている説~

「就活(シューカツ)」という言葉が世間に定着して久しく、多くの若者がその時期を迎えると、自己分析、企業・職種選び、説明会、会社訪問、ES提出、筆記・面接試験という、一連の活動に身を委ねます。学生たちは不安を抱えて就活に臨み、特にコロナ禍においては深刻な生きづらささえ感じる学生が少なくないようです。
京都で飲み屋を営みながら学生の就活相談にのる光城悠人さんは、人生を楽しむ達人でした。「就活は楽しかった」と振り返る光城さんに、学生が自分の大学生活に自信を持ち、前向きに将来を捉えながら就活を考えるヒントになるようなお話を伺いました。

インタビュイー

京都『猿基地』酔いどれ相談係
光城 悠人氏

プロフィール
Twitter

聞き手

全国大学生協連
学生委員会 委員長

角田 咲桜

全国大学生協連
学生委員会

鳥井 和真

全国大学生協連
学生委員会

齋藤 薫

全国大学生協連
中国・四国ブロック学生委員長

加藤 有希

(以下、敬称を省かせていただきます)

全国大学生協連が実施する第57回学生生活実態調査によると、就活に対する不安は21年度より減少していますが、まだまだ不安の声が大きいです。特に20年度に入学した3年生からは、コロナ禍の大学生活しか経験していない中で「自分は学生時代に何を頑張れたのだろうか」「このまま社会に出て、“コロナ世代だから”とマイナスイメージで見られないだろうか」などと悩む声が多く寄せられています。
このインタビューでは特に就活をテーマに、学生が自分の大学生活に自信を持ち、前向きに就活を考える機会を実現したいと考えています。光城さんの著書やブログ等、学生に向けた就活に関する発信を拝見し、私も就活を捉え直すきっかけになりました。「学生が就活を楽しむ」という価値観をもとに、現在の大学生が持つべき就活に対する意識などについてお伺いできればと思います。

光城悠人です。超就活氷河期の中、エン・ジャパン㈱という人材系の会社に入社して、大手企業やベンチャー、立ち上げ前の会社の新卒採用に関わっていました。エン・ジャパン退職後は、京都で『猿基地』という飲み屋をやっています。そこで日常的に学生と就活の話などもしながら、日々感じたこと・考えたことをブログに書き続けていたら、それが800本を超えて本として出版することになりました。ただの飲み屋のおっさんが、就活の本を書きましたという感じです(笑)。そこからの派生でセミナーをやったり、それ以外のお仕事も頂いたりしています。

やりたいことに貪欲だった学生時代~就職まで

疾走する中で感じた挫折と転機

光城さんの大学時代のエピソードを教えていただけますか。

今思うと、自分でもよくもこんなにやっていたなと思うくらい、いろいろなことをやりました。
大学入学後、最初に入ったのは経済系の学術サークルで、そこでの1年4カ月の活動を通して論文3本10万字くらい書きました。和歌山の白浜での夏休み合宿は、海まで歩いて15秒というロケーションなのに、2泊3日延々と勉強会をしたり論文を書いたりするサークルでした。そのサークルは20歳になると、ある政党の下部組織に入らなければならないのと、せっかくの大学生活で狭いコミュニティに居続けるのも違うかな、と考えて2年生の夏休みに辞めました。

その後、2年生の後半では地球温暖化防止京都会議(COP3)が京都で開催されるのに向けて、学生を巻き込みながら、街全体で盛り上げていくための活動をする学生団体に参加しました。平安神宮を2日間借りて、企業から何千万円単位で協力費を頂いてイベントを運営しました。

3年になってからは、一般的には就職に有利なゼミに入る人が多いのですが、僕は「自分が好きなこと、面白いと思うことをやりたい」と考えて、「乗っ取れたりしないかな?」と。それで、2年間で知り合った面白い友人10人くらいに声をかけて、ある教授のゼミにみんなで入って、やりたいことをガンガンやらせてもらいました。そんなことが、いわゆる「大学生っぽい」ところの大学生活です。

そうした真面目な部分とは別でいえば、紅茶にはまった時期、ダンボール細工にはまった時期があったり、姉の英語サークルの手伝いで二畳ぐらいある屏風に龍の絵を描いたり、夜の小学校に侵入してサッカーをやったり……。大学4年間で、本は1000冊くらい読みました。そんな大学生活でした。

すごく楽しい大学生活が伝わってくるお話でした。就活もそんな感じだったのですか。

就活は全然ダメダメでした! 話すのが下手で、本当にばかみたいな話しかできないので、そんなに上手くはいかなかったです。

その後、社会人になって変わったきっかけはありましたか。

社会人3年目が一番大きかったと思います。エン・ジャパン㈱に就職して2年半ぐらい営業をやっていたのですが、全然成績が上がらず、下の中くらいのレベル。月に180時間くらい残業をしても商談件数が目標達成できなくて、全然だめでした。仕事自体は面白かったし楽しかったけれど、これ以上は会社や上司に迷惑をかけられないと思って上司に辞職を伝えたところ、制作・クリエイティブの部署に異動になりました。そうしたら、そんなに頑張らなくても仕事ができるようになってしまって、そこから自分の思っていること、考えていること、伝えたいことを、普通に話せるようになったと思います。あとは、この飲食業を始めてからかもしれないですね。

コロナ禍はチャンス。まず行動しよう

大学生に視点を移すと、講義はオンラインから対面に戻りましたが、今更新たにサークルに入るのもなぁ、という感じで、大学生活の重点は勉強という、これまでの世代の学生とは少し違う感覚の学生が多いのかと感じています。光城さんは、当時の学生とコロナ禍にオンラインで過ごしてきた大学生とで、求められることの違いは感じられますか。

求められているものは、根本的には変わらないと思います。採用面接で、企業はサークル活動やアルバイト経験については当然、聞きます。それは「あなたはどういう人間で、どういうことを頑張れますか?」を知りたいわけなので、学生は何に対してどんな頑張りをするのかということを普通に話せばいいだけです。それに関しては、コロナ前だろうがコロナ後だろうが、本質的には変わっていないと思っています。

そもそも就活をする学生がコロナに振り回されることがよく分からない、むしろチャンスと捉えたらいいのに。世の中が暗い方向に向いているからこそ、大変だよね、しんどいよね、と深刻になる人よりも、前向きな思考ができる人の方が企業的にもいいと思います。
それこそ日本の戦後の貧しく厳しい時代を支えてきた本田宗一郎や井深大や松下幸之助だってそう。もっと昔の話では、ニュートンはヨーロッパでペストが大流行して、大学が休校になったときの1年半で「万有引力の法則」「微分積分法」「光の分析」の三大業績の着想を得たわけです。大変な時期だからこそ企業としても、流されることなくできることを考えていける人を採りたいと思われるのではないかと思います。

マイナス思考に走る人が多い中で、そういうふうに考え方が変わるきっかけも必要なのかと思います。気持ちの持ち方を変えるアドバイスを教えてください。

大きくは三つあります。正解探しをしないこと、失敗にビビらないこと、自分でやってみること。
正解っぽいものを探し続けてしまうと、動けなくなる。正解っぽいけど失敗したら怖いからやらない、それによって動きにつながらない。情報があまりにも多すぎて、正解がどこかにありそうだと思ってしまい、正解っぽいと思ったのに本当にうまくいくのかな、失敗する確率があるかもしれない……それで怖くなってしまって動けない。それが、この三つをやってみることによって動き出すことができるのではないかと思っています。

雑な言い方になりますが、これから野球を上達したいと思った時に、大谷やイチローにホームランの打ち方やヒット量産の仕方を教えてもらったからといってうまくいくでしょうか? それよりもまずは、基本的なバットの振り方を普通に練習してみることの方が大事だと思います。やらなきゃ分からない。だって、僕らは思ったところにバットを振ることさえできないのですから。同じバッターでも、イチローとメジャーリーグの南米系の選手ではフォームが全く違います。自分はどれが合っているのかなんて、自分でやってみないことにはわからないじゃないですか。その人なりの正解はみんな違うので、「まずバット振ってみる」ほうが早いと思います。

大学時代に挑戦したこと。

光城さんは学生時代、冒険心あふれるワクワクするような生活を送られましたが、それらのチャレンジの背景にも正解探しをしない、失敗にビビらない、自分でやってみるという三原則のマインドがあったのでしょうか。

時代的な背景もあるのかもしれませんが、「自分が体験したほうが楽しいじゃん?」という感覚が大きかったと思います。
僕は大学時代、「人間はチョコレートと水と塩だけでどのくらい生きていけるか」ということを試してみました。DHAが大切だとか、タンパク質が大切だとか、ビタミンが必要だとか言われているけれど、昔の人はそんなこと考えて食べていなかったじゃないですか。でも生きていたわけですよね。じゃあ、ある程度のカロリーと塩分と水分があれば生きていけると思って、実際に1年生の夏休みにチョコと水と塩だけでどこまで生きていけるのか試してみました。

日常のふとした疑問を、調べるよりも自分で試した方が楽しいと確かに思いますし、経験にもなりますよね。その経験は、光城さんが一人でやったのですか。友達と一緒にやったのですか。

一人でやっていました。14日続けてみたら、15日目の朝起きると、全身に真っ赤なすごくきれいな発疹が出て、「あ、これはやばい、栄養価の高いものを食べなければ」と思って、特上鰻重を食べに行きました。今考えると発疹が出ただけで体調は悪くなかったので、あと3日くらい頑張れたのではないかと思います(笑)。
紅茶にはまった話では、もともと茶葉の産地も多岐にわたるし、イギリスと日本とでは水も違うじゃないですか。フォートナム・アンド・メイソンというブランドも、日本で売られているものとイギリスから直輸入されるものとでは、ブレンドが違うはずです。日本の軟水で入れた場合と硬水で入れた場合、100℃で入れた場合と60℃で入れた場合……それを自分の舌で、鼻で理解してみた方が楽しくないですか? 正解を知識としてもらうよりも、自分なりの感覚で得た方が楽しいと思います。