中元 日芽香 氏インタビュー

心の健康を守るために

周囲とゆるくつながり続ける

コロナ禍が明けて、カルト教団や宗教団体による勧誘などが増えてきたとか、ブラックバイトへ身代わりのような感じで勧誘されることもあると聞きます。のめり込みやすい人、その要因、そうならない解決策や、日頃から心がけておくべきことなど、あれば教えていただきたいです。

一つにはやはり知識不足とか、経験不足があるのかもしれないです。勧誘してきた人がすごく上手に説明してくれるのかもしれないですし、それについて判断をする力がまだないことも要因の一つとして考えられえます。あとはその「心の揺れ」とか「迷い」みたいなことが、普段ならやらないと判断できることも「なんか今いいことないし、この話乗ってみるか」のように思ってしまうことも要因なのかもしれない。複数あるとは思いますが、それらと「孤独」というものが掛け合わさった時に、より発生してしまうのではないでしょうか。

解決策としては、友達や先輩、家族や先生など、周囲の色々な人たちとゆるくつながり続ける。このつながりは大事なのかなと思います。直接会話をすることも大事ですけれど、そうでなくても「この話に自分が乗って取り返しがつかなくなった時に、この人たちが悲しむかもしれない」という顔が浮かぶ人とそうでない人で「その話は止めておく」と言えるのかどうかが多少変わってくると思います。

あとは何か良くないと薄々感じているけれど、目の前にいる人との人間関係も絶ちたくないと思ってしまいどちらが正義か分からなくて、自分の心がぶつかるというか、迷ったりすることがあると思うのです。そういった時は立ち止まって一人で考える時間を持っていただきたいと思います。

やはり違うなと思ったら引き返すのは勇気がいることですけれど後々の人生を考え、いずれ仕事にも影響するかもしれない、家族にも迷惑をかけるかもしれないと思った時には引き返す。やはり心にブレや迷いがあると、正しい判断も浮かばないのではないでしょうか。

何かあった時に相談できる人がいるというのはやはり大事だと思います。それは私たち心理カウンセラーだけではなくて、同じサークルで時々話す人や研究室の先輩・先生とか、とにかくいろいろな人とゆるいつながりの網を張っておくということ。そして迷いが生じた時は、一人になって考える時間というのも設けていただきたいと思います。

自分自身のペースを大切に

大学生が心身ともに健康的に過ごすためには、どのような環境が必要だと思われますか。またその環境だけではなくて、学生自身がどのようなことに気をつけていくべきでしょうか。

環境としては、“何かあった時にはこの人を頼ればいい”“ここへ行けばいいんだ”というような、非常事態の際にパッと浮かぶ安心安全な人や場所を一人ひとりが持つことができたら、本当はすごく助かるのだろうなと思いました。お互いに顔を合わせるような間柄ならば、少しいつもと違うように感じる時「いつでも相談にのるからね」と一声かけてあげる。そうすることで“自分には味方がいてくれる”“気にかけてくれる人がいる”と思えるだけで心強いはずです。お互いにそういう環境づくりをしていくことで、仲間うちみんなが健康に過ごせればと思います。

学生自身が気をつけることとしては、友達とでなければ共有できない時間や体験、会話などたくさんあるし、大学生活ならではの楽しみの一つだと思うので、そこは大事にしていただきたいです。一方で、疲れを感じても誘われたから行かなければと無理をすることなく、一人になって自分自身を労わってあげる時間というのも意識して取っていただきたいです。心身が回復することで、また友達との楽しい時間に戻っていけるので、そういった一人になる時間というのも確保してあげてほしいなと思いました。

バイトをする・しないとか、就活を始めるタイミングとか、特にスタートのタイミングは一人ひとり違うので、周りとの違いが気になることが多い時期だと思います。ですが一番は自分自身のペースというものを大事にできたら、より大学生活が豊かになるのではないでしょうか。

確かに大学生だからこそ、悩みを仲間と一緒に話し合うこと自体が楽しいことだと思う反面、人によっては一人でいたい時間もあると思うので、そういうオンオフを大学生活で学んでいくことも社会人になる上での一つの経験になるのかなと思いました。

一人の時間が落ち着くか、みんなといることが落ち着くかというのを、今のうちから考えて自分を知っておくと、後々社会人になった時に、より生きやすさが高まるかもしれないですね。

ハラスメントへの心構え

私事にはなるのですが、来年度から社会人になります。やはり社会人になると職場での人間関係に悩むこと、もしくはパワーハラスメントなどのハラスメント関連のことは多いのでしょうか。

やはり人間関係についてはよく聞きます。学生時代と何が違うのか考えた時に、より縦の関係性が強調されるのかなと。上司の立場が明確に上であり、年齢差も学生時代にはなかった10歳以上だったりすると、価値観が少し違ってくることもあると思います。
最近はハラスメントに対する世間の意識が変わり、社内研修が充実していたりと上司としても「この言動はいいのか?」とか「このアプローチは今の時代に合っていないのではないか?」など、自分が育てられてきた時とは違う価値観の変容を心がけている方もたくさんいらっしゃるように思います。やはりそれぞれの時代で良いとされてきたこと、これが良いと言われて経験を積んできたところから変わっていくのは、決して簡単なことではないのですが、これからの時代には必要なことだと感じています。

実際にハラスメントで心を病んで「本来ならもっと仕事がしたかったけれど、やむを得ず退職してしまった」とか「研究を断念してその先のアカデミックな仕事ではなく就職活動をせざるを得なかった」など自分自身が原因ではない人間関係の問題だと悔しい気持ちもあるかと思います。ハラスメントに関する世間の認識は変わり始めていますが、まだ全国共通で浸透している概念とも言い切れない。その中で皆さんがどこへ相談すればよいのか、第三者機関などの情報を持つことも、自分を助けてくれることにつながるのではないでしょうか。