中元さんのアイドル時代は周りに仲間がたくさんいらっしゃって、コミュニティもあったかと思うのですが、その中であまり他人に頼りづらかったというところ、今の考え方との違いみたいなところは、どんなところにあったのでしょうか。
確かに、私がいまインタビューで話していることと、過去に自分が陥っていたことは、本当に真逆のような関係性にありますね。人がいたにも関わらず、心から頼りにできず心を開けていなかったと思います。一つにはやはり仲間であり、ライバルであるというところがありました。私の場合は10代から一緒に活動していたので部活のような温かさがありながらも、やはり仕事仲間であり、どこかで全部は言えない、特に自分にとって弱みや、体調が悪いみたいな話はあまりしたくないと思っていました。あと単純にみんなといる時は楽しい時間にしたいも思っていて。当時は「ひめたん」という愛称で呼ばれていましたが、「ひめたん」というキャラクターは明るい子で、いつもニコニコして見られたいという気持ちもあったので、意識的に「しんどい」という言葉はあまり口に出さなかったような気がします。
ただ、いま振り返ってみると、みんなは確かに私が休業する数か月ぐらい前からちょっとずつ異変には気付いたようで、声をかけてくれていたのですが、私自身が自分一人で自分を守ろうという自負が強すぎて、みんなの「支えるよ」という声が自分の中まで入ってきていませんでした。結果的によりしんどさが増して休業し、適応障害という診断につながったのだと思います。この私の反省を皆さんに伝えるのだとしたら、自分自身を自分で守らなければという気持ちもすごく理解できるけれど、一方で誰かが自分を気にかけてくれる声がけを正面から受け止めて、悩んでいることの100%じゃなくてもから、50%・20%でも「ちょっと、しんどいかも」とお話すると、実は親身になって話を聞いてくれたり、何か温かさを分けてもらえたりすることがあります。なので、当時悩みを話すのは人にすることではないと思っていたけれど、実はそうでもない。逆に自分の仲間が何かしんどい気持ちになっていることに気づいたら、きっと自分も声かけをするでしょうし、そんなふうにお互いに支え合っていく関係性も悪くないのではないかなと、当時の私自身の反省も生かして皆さんに共有できたらと思っています。
当時の率直な気持ちなどもお話しいただけて、すごく参考になりました。もちろん人から見られるお仕事だからということもあったとは思いますが、大学生でも例えば部活やサークルでメンバーに選ばれるために頑張らないといけない場面などで、相談しづらい状況もあるのかなと思ったので、多くの人の参考になると思います。
コミュニティの中でいろいろな人に相談することが大事だというのは納得しつつも、誰に相談したらいいのか、どこから声をかけたらいいのか分からない、信用しきれてないと感じて、それでもつらい時にどういう動きをしたらいいのか、どういう方に相談したらいいのかも改めてお聞きできればと思うのですが。
当時、メンバーや高校の友達に悩みを話すことで“内容が誰かに伝わってしまうのではないか”“それが自分の評価に直結してくるのではないか”と思ってしまいなかなか話す気になれませんでした。ですがカウンセラーさんを紹介していただいた際に「守秘義務があるので、ここでお話ししたことがスタッフさんや外部の誰に伝わることもないので、ここだけの話と思って安心してください」と最初に言っていただけたことで安心でき、スムーズに話をすることができました。
皆さんの身近なところでは、学生相談室などを設けている大学も今は多いと聞きますし、それ以外にも地域でカウンセラーをしている方や、電話やチャットなどのオンラインで相談に乗ってくれるところもあります。なかには匿名での相談が可能なところもあます。自分と周囲の関係性を知っていたり、顔見知りの人に相談するのは少し抵抗があるという方には、そういった自分と直接的な関係にない人だからこそ遠慮なく話ができると思うので、周囲の人に相談しづらい時にはそういったカウンセラーや機関を利用することも頭に入れておいていただけたらと思います。
そういったところへ相談することに少し抵抗があるとも聞きます。そのハードルを少しでも下げられたらと思っているのですが、話してみて自分がすっきりするかどうか、解決の糸口が少しでも掴めるどうか、一度お試しの気持ちで利用してみるだけでも何か変わるかもしれないということをお伝えできたら嬉しいです。
助けてくれる人がどこかにいるということを、少しでも知ってもらうことが大事なのではないかと思ったので、ぜひ広めていきたいと思いましたし、自分自身も辛いと思った時には、ぜひ利用させていただきたいと改めて感じました。
大学生に限らず、多くの人が心理的、精神的なストレスやリスクにさらされながら生活する一方で、日本では精神科や心療内科の受診率が、悩んでいる人に対しての割合としてはまだまだ低いのが現状ではないかと思います。そのなかで、ご自身が発信活動をされている意義やお考えを教えてください。
心療内科、精神科と聞くと一気にハードルが高く感じるとか、受診したことで症状を認めるようで抵抗があるという声を聞くこともあります。ただ、私が受診し診断されて実際に感じたことですが、その手前で何かケアをしたり、自分で気づいて行動したりできていたら、もっと短い時間で回復できたのではないかということです。私の場合ですと、休業する前に1、2週間休んで、回復することができなかったのかなと思ったりします。
うつ病などの診断がされると一定期間の休養が必要になります。それも長い目で人生を考えたら決して悪いことではないのですが、何かその手前のグレーゾーンにある段階で「メンタルケアについて一緒に考えてみようよ」という発信が必要なのではないかと感じています。いま、このように発信したり、実際にカウンセリングの仕事をしたりすることで、皆さんが診断を受ける手前の予防につながったら嬉しいです。
カウンセラーの仕事を始めたころは、あまりメディアに出ることに積極的ではなかったのですが、今となっては私だからできる発信の仕方ではないかと前向きに捉えています。
メディアに出演していた経験があったことで、いまこうしてインタビューをしていただき「メンタルケアについて一緒に考えてみようよ」という発信ができている。この記事を読んだ方がカウンセラーでないにしても、学校の相談室や親御さん、顔見知りのお姉さん・お兄さんなどに相談してみようかなという気づきを得てくれると嬉しく思います。
診断されることで、休むことを周囲に打ち明けるための新たな悩みが増えることも弊害としてあるのかなと思います。そういったことに陥る前の事前のケアというか、グレーゾーンの時にできるケアを、活動の中でなされているのを感じました。
あとは現代社会において、カウンセラーや相談員と呼ばれるような方に限らず、誰かに相談してもいいのだと思えることが、心身の健康のために非常に大切なことなのだと改めて感じました。
コロナ禍で授業も何もなくなった時、本当に朝か夜かわからない時間に起きて、ご飯もコンビニで買って食べてという毎日で、生活リズムが崩れると同時にメンタルのリズムも崩れていくというのがすごく自分自身で実感できた年がありました。コロナ禍以降SNS も更にさまざまな人が利用し始め、一気に距離が縮まったというか、多様な人間関係も作りやすくなったと思っています。そういった人にも相談できるような関係性もあればいいですし、中元さんの発信によって、誰かの悩みが解決されたらいいなと思いました。
最後の質問になりますが、この読者の大多数がおそらく若者世代、特に大学生の世代になるかと思います。その世代に向けて、メッセージをお願いできればと思います。
周囲の人を見ていると、大学時代にできた人間関係やつながりが卒業後もずっと続いている人も少なくないです。仕事で嫌なことがあったときに、学生時代の友達と集まると心が解れるとよく聞きます。いま仲良くしている人のことは大事にしていただきたいなと思います。
そして数年後、社会人となることが現実的になってくるなかで、不安や悲観的な気持ちになることもあると思います。そういう気持ちを抱くことは、環境が変わる中では自然な心の動きだと思うので、向き合い方を考えていく上で不安が強くなる場合には、誰かに頼るという選択肢をもってもいいと思います。
私が適応障害と診断されたのは20歳の頃でした。若いと体力があるので、心が少々疲れていても無理ができてしまいます。体が動くからまだ大丈夫だと考え、つらさを後回しにできてしまうのは若さならではだと思います。体の声・心の声をきちんとキャッチして、今のうちから意識していただけたら、健康で充実した大学生活になるのではないでしょうか。
心が苦しくなる、辛くなる、しんどくなるみたいな経験は、それに診断名がつくか否かというだけの違いで、大なり小なり誰にでもあるのではないかと思っています。そういった時に情報を得ることや相談すること、してみることの大切さという観点でいうと、中元さんがご自身の経験も踏まえながら発信活動を行われていることに感銘を受けました。カウンセラー、心理士、相談員と呼ばれる人たちは目の前の一人に手を差し伸べるということももちろんですけど、自分の持つ経験や知識を駆使して、多くの人の救いになることもできるのだという発見にもつながりました。
全国学生委員会でも、今回のようなインタビューの掲載やSNSでの発信を通して、大学生の心の健康や豊かさに目を向け、つながっていくような活動もできればと思っています。
2024年6月10日リモートインタビューにて
中元 日芽香 氏
1996年4月13日生まれ。広島県出身。早稲田大学卒業。
2011年から6年間、アイドルグループ「乃木坂46」のメンバーとして活動したのち、2017年にグループを卒業。
認知行動療法やカウンセリング学などを学び、2018年にカウンセリングサロン「モニカと私」を開設、心理カウンセラーとしての道を歩み始める。
著書に『ありがとう、わたし 乃木坂46を卒業して、心理カウンセラーになるまで』『なんでも聴くよ。 中元日芽香のお悩みカウンセリングルーム』がある。
現在はオンラインでのカウンセリングをメインに、メディア出演、執筆など多方面で活動中。
OFFICIALSITE https://nakamotohimeka.com/s/m02/?ima=0848
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