落合陽一さんインタビュー「予測不能な社会の中で、学び続ける、自分の興味を見つける、そして本質を捉えて主張するために。
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「現代の魔法使い」とも称されるメディアアーティストの落合陽一さん。筑波大学で教鞭を執りながら、メディアアーティストや、社会問題へ一石を投じるビジョナリーとしてもご活躍されています。また、これからの社会を取り巻くグローバリゼーションやテクノロジーなどをテーマにした著作も数多く出版されています。今回のインタビューでは、急速に進む技術革新や新型コロナウイルス感染症の拡大など、予測不能な社会の中で、大学生・若者がどう生きるべきか・学ぶべきか、教えていただきました。

インタビュイー

落合 陽一さん
(筑波大学准教授/メディアアーティスト)

プロフィール

聞き手

  • 矢間 裕大
    (全国大学生協連 学生委員長)

“現代の魔法使い”と称されるメディアアーティスト 落合陽一さん

今回は、テクノロジーの進化と活用がより一層進み、グローバルな変化が進む時代を歩む大学生世代に向けて、アドバイスをいただきたく落合さんにインタビューをさせていただきました。インタビューを始めるにあたって落合さんの自己紹介からお願いしてもよろしいでしょうか。

落合陽一です。メディアアーティスト、大学教員、あとは経営者と研究者をしています。大学の専門はコンピューターを使った応用物理などを利用した、ヒューマンコンピューターインタラクションという研究分野をやっています。コンピューターグラフィックスとヒューマンコンピューターインタラクションと、コンピューターグラフィックスとあとなんだろうな…機械学習とアコースティクスとレーザーを少々取り組んでいます。2015年に博士をとって助教として研究室を始めてからは2017年に准教授になり2020年に自分の開発研究センターを作り、という感じです。

大学以外ではメディアアーティストとしてかれこれ10年くらい活動しています。油彩や彫刻だとメディア(媒体)が決まっていて、油彩なら油絵、彫刻なら彫刻となっている。一方で、私はメディアアートの領域では、メディア自体から作っていくような作家活動をしています。得意なミディウムは、写真と映像とあとはコンピュータープログラミングが得意かな。その辺をよく使っています。

それ以外だと経営者としては大学発・ベンチャーの会社を経営していて、社員70人くらいのそれほど大きくはない会社ですが、世の中にまつわる空間情報、空間情報学という分野において、人にまつわる情報を扱ったり、三次元データをおこしたり、ジオメトリーを作ったり、そういった分野のベンチャーをやっています。ほかには、一般社団法人の理事をいくつかや、国の委員会にいくつか出ているのが日頃の仕事です。本も何冊か書いていて、芸術と社会とテクノロジーに関する本を書くことが多いです。ちなみに二児の父です。

ありがとうございます。そういった形で多岐にわたってご活躍されている中でも、特に今回は社会の部分でいろいろお話をお伺いしたいと思っています。

将来の予測が困難な社会で、私たちが気づいたこと

今の世界や日本の状況に関してどのようにとらえているのかというところで、私も落合さんが執筆されている『2030年の世界地図帳』(2019年・SBクリエイティブ)を拝読させていただきました。デジタルテクノロジーの普及の中で、若い世代でも暮らしとか学びとか、働き方が大きく変わってくるという印象を受けました。2030年までの10年の中で、実際、特に今の大学生がどういうふうに変化に対応していくべきかとか、どういうふうに世界や日本が変わっていくかというところを教えていただければと思います。

大学生っていうと、私が学校で教えているような人たちですよね。昔よりは一斉に就職するという文化はおそらく減りつつあるなと感じています。また、外資系企業などでは、リファラルで就職する人も増えてきていて、つまり中途採用だけじゃなくて、新卒時に知り合いの紹介から就職する人も、結構多くなってきたなという印象です。そして、企業の求める能力も、一般的なオペレーション・エクセレンス、要するに処理能力が高い人材、特定の業務をこなせる人材ももちろん重要ですが、それよりも未解決の課題や未知の課題を発見できる人材の方を求めているような気もしています。今の変化する日本社会の中、世界社会の中で、特に今年とか来年とかは一寸先がどうなるかわからない社会なので、大学生がその都度自分の頭で判断して臨機応変に対応する能力のほうが重要なのではないかなと思います。例えば、新型コロナの影響で大学院の入試の時期ってまだ公示されてないですよね?(取材時)

そうですね、まだわからないところが多いと思います。

大学院入試の方法も分からないし、就活もどうなるかもわからない。そのなかで強い人というのはやはり変化に対応しやすい人だと思います。今は“VUCA”と言ったりする。Volatility(変動)、Uncertainty(不確実)、Complexity(複雑)、Ambiguity(曖昧)という意味だけど、まさしく新型コロナ以降はそうなっているような気がします。

そういった形でコロナ後の社会が大きく変わるという点についてお伺いしたいです。2030年に向けてSDGsという共通言語でいろんな世界の課題を解決していこうという動きがあるんですが、なかなか日本は一筋縄にSDGsを取り入れることができないかもしれない状況があると思います。SDGsという観点で、大学生をはじめとした若い世代が意識して行動を起こすために、どういうポイントを意識して、どういう行動をしていけばいいか教えていただけたらと思います。

SDGsに関わる項目のうち、公衆衛生に関わる項目は意識が変わったような気がします。つまりどういうことかというと、みんな半年前までPCR検査が何なのか知らなかったはずですが、特定のウイルスが社会で流行っているときに感染症予防をしたり手洗いをしたりするのはとても重要だということは広まりましたよね。例えばコンゴ共和国でエボラ出血熱が流行っているじゃないですか。エボラが流行っているときにどのような対策をしないといけないかはみんなわかるようになったと思います。感染者とどのくらい距離を保たないといけないんだろうということだったり、こういった設備が足りないよね、ということだったり。そういった公衆衛生への対策がわかるようになってきたと思っています。また、このような諸問題が、先進国だけじゃなくて発展途上国も含めて一緒にやっていかないと問題解決につながらないということも今回のコロナの騒動で分かったと思っています。国境線を分けるからには、公衆衛生が満たされた国だけではなくて、満たされていない国も、それを満たしていかないと、社会全体でウイルスを押さえこむことができないということが理解されたでしょう。

その観点で考えるとほかにもいろいろな問題が発生しています。コロナの裏ではアメリカで黒人差別運動に対して大規模なデモが起こっているし、それが飛び火してイギリスでもフランスでも起こっています。その流れを見ているときに日本人は「なんでこんな三密な状態をやっているんだ」と思うかもしれませんが、公衆衛生よりも重要な人権意識が彼らにはあるのかもしれない。おそらくその人権意識のほうで社会が燃え上がっているというのは、「コロナだからやめろ」と言えるような問題でもないはずです。コロナだから危ないということはみんなわかっている。それでもそれより重要なことがあるから彼らは動いている。そう考えると、人々の平等性を保とうとか、すべての人が平等であるように過ごそうとか、あとは貧困をなくして公衆衛生を守っていこうといったSDGsの観点についてより議論が進むのではないかとは思います。ただ、二酸化炭素削減に関して、こんなに世界中の人が飛行機にも車にも乗らなくなったのに、二酸化炭素の削減目標に全然達していないという事実に関しては、やっぱり家に閉じこもっていても電気を使っているということが効いているんだなとみんな理解したのではないでしょうか。

人々の平等性などを改めて考え直す機会になった一方で、さらに明確に課題が見えてきたという感じですか?

コロナを受けて、何のゴールが達成しにくいかが分かったという感じだと思います。

このような先が見通せない社会において、私たちはどのような姿勢・どのような方法で声を上げていけばよいでしょうか。

行動を起こすためのポイントは、身近な社会的な結節点に対しての声を出すということだと思います。つまりどういうことかというと、例えば、このご時世でデモに参加するというのはよほどの理由がないと参加する理由がないと思いますが、SNSで何らかの意思を表明したり、他人に対して平等性を意識してコミュニケーションするとか、ジェンダーとか社会的立場とか人種とかに対してちゃんと慮って喋るみたいなことが大切なのではないかと思っています。