学生は自分の専門分野を人に説明する場面が多々ありますが、私は今一緒にいる仲間たちに上手く説明できなくて、しどろもどろになった記憶があります。ギズモード・ジャパンの皆さんやリチャードさんは仕組みや原理を踏まえての説明もすごくわかりやすく、そのように興味をそそる説明とプラスして誰が聞いてもわかりやすい説明のコツみたいなものをぜひ教えていただきたいです。
わかりやすいと思っていただいているのは、とても嬉しいですし光栄です。ありがとうございます。
物事を伝えることが目的の場合、その話し方において一番大事なことは、相手を意識することだと考えています。相手が同じような分野にいて、専門用語を使った方が早い場合はそれを使った方がいいですけど、分野が違う人であれば、専門用語を使ったところで何も伝わらないので、相手に伝わるかどうかを最優先に考えれば、おのずと言葉選びは伴ってくるのではないでしょうか。
その上で、相手に伝わるにはやはり興味を持ってもらわないと、どんなに説明しても伝わらないので、最初に一番興味を引くような説明をし、その上で手短に結論を伝えるべきだと思っています。それでも質問が来るなら、そこから深く説明するというような流れで、最初から伝えたいこと「この分野の、ここの、この細かいところが好きで伝えたいです」というのは、後に回さないといけないというのは、人生の中で学んできたことですね。
展示場などで紹介をされている動画も見ますが、そういう場合は一発撮りが多いですか。
ものによりますね。例えば取材先で面白いもの見つけた時は、その場で構成を決めて台本もなしに撮りますが、何かもう少し込み入った話をする時は、やはり事前に脚本を考えます。その方が、結果的にその動画の内容としても伝わりやすいですし、その場で言い直しが沢山あると後々編集が大変になってしまうので、そこは全体の効率を考えています。
それは経験とか練習したりすることで、培われてきたのですか。
これはインターネットのおかげです。
例えば、動画を出して10分ぐらいでたくさんコメントをいただくことがあるんですよ。
そうすると匿名のコメントなので、良いことも悪いことも包み隠さず本音が出てきます。それらから目を逸らさずに見てきたことは、フィードバックになったと思っています。
学生にも動画制作のスキルや、動画で自己表現をすることが求められるような社会になってきているように感じています。動画という媒体を活かして発信をされている中で、意識していることや、動画を通して自己表現する方法についてのお考えを伺いたいです。
これは、実は動画を特別視しない方がいいのかなという気がしています。
僕はもともと記事のライターや編集者をしていたので、そこで培ったものを動画で活かしているような、少し変えて使っている感覚なんですよ。だから、例えば自分がやっているもので文章の制作が多いのであれば、どういう文章や伝え方がいいのかという真髄は動画でも使えると思うんですね。
もしくは、何かプレゼン用のスライドを作る時も、「ここがこだわりなんだ」みたいな真髄があるはずです。そこは動画でも活かせると思っています。あと動画はいくつかの表現ができるものなので、例えば音声で伝えてもいいし、画面上の文字で伝えてもいいし、画像を映してもいいとなった時に、どれが一番効率的かというところを意識すれば、無駄に文字が多い動画などにはならない気がします。
百聞は一見にしかずというところはありますし、逆に音を画像で伝えようとしてもあまり伝わらないじゃないですか。そこはもう音を録音して動画の中に入れてしまうとか、やはり伝えたいことと相手への伝わりやすさ、このクロスオーバーするところを見つけられればいいのではないでしょうか。
動画の何を伝えるといいかという真髄というのは、例えばどういうものでしょうか。
僕の場合は仕事がメディアなので、やはり相手にいかに摩擦少なく伝わるかというところが、記事と動画では共通の意識するところです。専門用語を使わないとか、先に結論を伝えるとか、相手を意識してモノを作るというところは同じかなと。
でも他の分野もあると思うんですよ。例えばコメディ動画を作りたい場合、ユーモアは展開を作った後に、それをうまく裏切るから面白いとされているじゃないですか。そこはコントであっても、文章であっても、動画であっても変わらない、相手に伝わった時の感情の変化を意識して作っているんだろうなと思います。決まった言葉を使うといいみたいな表層レベルのものではなくて、もっと深い部分のところを自問自答できればいいんじゃないかなと考えています。難しいですけどね。
動画の導入部分など、商品紹介以外のところでもリチャードさんの魅力を感じますが、動画の中での自己表現の方法で意識されていることはありますか。
動画に映るという前提であれば、ものすごい演技派じゃない限りは、嘘をつかない方がいいと思っています。やはりどうしても本音が出ちゃうんですよね、どんなに隠そうとしても。なので、本当に楽しいのであれば、それは隠さず出しちゃったり、これはどうなのだろうと感じたら、言葉には気をつけながらも態度に出したり、相手の信頼感を得るために嘘はつかないようにしています。
あとはメディアとしてのお答えですけど、動画を出すのであれば、やはりある程度は認知してほしいというところがあるので、冒頭の挨拶だとかはやりましょうと当時の仲間から言われたので続けています。それは正解だったなと感じています。
それと抑揚やフラットな言葉遣いがいい状況もありますけど、動画においてはちょっとオーバーにやったほうが伝わりやすいです。少なくとも自分が思っている通常の状態の2倍ぐらいの感じでやってみて、時間があれば1日経って動画を見てみるといいですね。慣れるまではちょっと恥ずかしいですけど。
私は教育大学出身なので、その視点からお聞きしたいのですが、これから生成系AI等の環境の中で、学びがどのように進化していくとお考えですか。
それはすごく大事な視点ですよね。
まず、暗記はあまり教育においては重要視されなくなると思います。もちろん、素養と教養として一定のレベルのことは覚えなければ、物事の理解もできないし、伝える能力もなくなってしまいますけど、それ以上のことは都度調べたり、もしくは AI に埋めてもらったりできるので、暗記系はなくなるのかなと。
自分の能力を木に例えるとしたら、幹があって、やや太めの枝があって、細めの枝があって、その先に葉がたくさんある、みたいなものがイメージできますよね。強めな言い方をすると、その葉の部分はなくても構わない。そこはAI で埋められると思うんですよ。
だから、自分の好きなことは一旦とことん極めて、そこの葉もたくさん生やしてほしいですけど、それ以外の部分はチーム運用や、AI によって埋めることが可能になってくるはずです。基本的なところは押さえた上で、あとは自分の興味ある分野をグッと伸ばしたほうが、社会においても自分の価値は上がるのかなと思います。
そうなると必要になってくる素養は、自分が好きなことや興味を持っていることに敏感になること、そしてそれを楽しむこと。あとは他の部分を人なり、AI なりに任せることになるので、全体をある程度見ることができる、チーム運用の素養も必要になってくるだろうなと。この職業に就きたいという強い思いがない限りは、そういう運用視点、経営者視点みたいなものを持つ、タスク振り分けみたいなところがうまい人は、将来の可能性がたくさんあると思います。
学生の間でもAIの利活用に差が出てきているように感じていますが、うまく活用するコツのようなものがあれば教えていただきたいです。
本当に難しいので、僕もすごく悩んでいて。
前提として、今AIと言ったら多分生成AI で、生成AIの仕組み上、人間が紡いできた言葉や映像をベースに答えてくるので、人間が考えそうなことは大体やってくれるみたいな、一般解みたいなところは強いですよ。でもそれは今の生成AIの話であって、それに限って言えば、必要な情報を入れ込んだプロンプトを明確で具体的なものにすることがコツだと思います。ただ、AIが進化した時は話が違ってくると予想しています。
AI が自らの体を持って世界を学習し始めたら、人間にはない感覚器や情報処理から出てくる知見などがあると思うし、もしかしたら感情とかも出てくるかもしれない。もはや人間にはわからない宇宙人のような存在になると思うんです。だから、今後強くなってくるのはエイリアンとも話せる人、そういうよくわからない存在とも協力して何かを達成できる人というのは、多分新しいことを恐れない人だったり、それを楽しめる人だったり、相手にある種のリスペクトを持って何に対しても挑める、そういう人間力の塊みたいな人。いまの自分にこだわらず、行動を起こせるかというところが重要になると思います。
AIやデジタル技術の活用においては、若年層ほど新しい技術をすぐに取り入れるとよく言われますが、何に対しても臆せず挑めるというのは、逆に闇バイトやいろいろな詐欺などに遭う可能性も高くなるのではないかと思います。いろいろな技術に詳しいリチャードさんは、この点についてはどうお考えですか。
これは痛いところをつく、いい質問ですね。
技術そのものには悪意はなかったけど、これからはその技術そのものに悪意を埋め込むこともできてしまうという、非常に大きな社会課題だと思うんですよ。
それに関してはいくつかの対策として、ネットリテラシーについて学び自分そのものを強化する、もしくは他力でいくのであれば、誰かに相談する、もしくはそれ自体が詐欺だったらもうダメですけど自分を守ってくれるAIが出てきた時にすぐサブスクするとか、複数の手段があるので、それを常にやっていくことと、詐欺事件などの新しい情報を常にアップデートし続けることだと思います。