坂本 達さんインタビュー「まず行動しよう 君の『夢の力』が周りを動かしていくから」

会社員として勤務する中で、自身の夢である単独自転車世界一周に向けてチャレンジを続けた坂本達さん。インタビューではその行動の原動力や、夢を実現するまでの経緯、坂本さんが取り組まれている国際貢献活動などについてお聞きしました。

インタビュイー

坂本 達さん(株式会社ミキハウス 社長室 部長)
プロフィール

聞き手

  • 矢間 裕大 やざま ゆうだい
    (全国大学生協連 学生委員長)
  • 吉村 暢基 よしむら まさき
    (全国大学生協連 学生委員)

大学時代の二つの転機

今日は坂本さんの生き方や行動力を伺い、大学生が夢にチャレンジし実現するために大切なマインドを教えていただきたいと思います。それでは自己紹介からお願いいたします。

僕は付属高からそのまま大学に進学して、勉強もスポーツもクラブも順風満帆にいっていました。ところが就職やゼミを考える3年生になって、ふと、満ち足りてはいるけれどこのままでいいのかなと、漠然とした不安を感じるようになりました。それで一旦全部リセットして、新しいことにチャレンジしてみようと思いました。

最初に考えたのが、環境を変えることでした。それが人間を最も速く成長させると知っていたので、留学して新しい環境に身を置こうと思いました。
残念ながら交換留学試験に合格しなかったので、自費留学しました。それも日本人が少ない私立の学校を選んだので、学生ながら200万円以上の借金を抱えました。それでもやってみたいという思いが僕の中にあり、1年間アメリカのミネソタ州に留学しました。

でも、やっぱりうまくいかなくて、向こうでも挫折を味わいました。自分の小ささ、周りのすごさ、クラスでビリになるとか、言葉がよくわからないとか。日本では非常に恵まれた環境にいたので、そういう経験ができたことは良かったといえますが。帰国してから改めてちゃんと自分の足で生きなきゃいけないと自覚したので、結果としては行って良かったのですが、留学自体の実りは人に自慢できるようなものではありませんでした。

そのタイミングで「東南アジア青年の船」という、当時は総理府でしたが、今内閣府がやっている青年国際交流事業に参加しました。日本政府がスポンサーになって、国の予算で毎年、日本の青年と世界中の青年が交流する事業です。東南アジアのASEAN各国代表と日本の代表が日本丸という船に乗って約2か月間一緒に生活するんですよ。船上でディスカッションしたり、ASEAN各国の寄港地では港でレセプションがあり、その国々でホームステイしたり、いろいろな施設や大学を訪問・見学したりというプログラムで、これがすごく良かったんです。

「青年の船」には、各国から選ばれてきたすごいメンバーが集まります。日本での選考会にも30歳まで応募できますが、期間が2カ月と長いので主に参加するのは学生です。国内の参加者は40~45人、各都道府県の推薦を得て参加してくるので意識も高い。英語で日本を紹介し、「自分って何」か、伝えられないといけない。
参加した後に、その経験をどう社会に還元していくかが一番の肝なのですが、そういう意識を持った内外の人の集まりなので、普通のバックパックで出会う人とは全く違う。今も彼らとはネットワークで繋がっています。

目の前に現れた道を正解にしていく

学生時代の経験を経て、進路に関してはJICAとか国連とか、国際協力にすごく興味を持ちました。でも、いろいろな人のアドバイスを聞くと、一度そっちの道に進んだら、やっぱり将来そっちメインになってしまいがちだと。僕は、一回は民間の企業で働いてみたかった。父が商社勤務だったので、貿易に関わることもやってみたいと思っていました。

ところが就職活動がうまくいかず、第一希望の会社に振られてしまいます。腐っていた時にたまたま出会ったのが、現在のミキハウスという会社でした。当時の社長、今も同じ社長なのですが、この人がすごく夢と器の大きい人で、子どもに関わることは何でもやっていきたいという夢を語られていて、こんな人のところで働きたいと思い、ご縁を得て就職しました。
僕が世界一周に飛び立てることになったのも、実はミキハウスとご縁があったからです。当時第一志望だった会社は当時の僕にとってベストな選択肢のはずだったのですが、それが叶わなかったことで、社会人になってから夢だった自転車世界一周に行けることになったのです。それも有給休暇で・・・(笑)。

こう思うと、今の時点でうまくいった、いかなかったが決してゴールではなく、縁ですよね。その行きたかった会社とは縁がなかったけれど、考えてもみなかった会社と縁があったおかげで、想像もしなかったかたちで僕の幼少期の夢が叶ったわけですから。だからうまくいかなくても腐らず、目の前に現れた道を正解にして、その中で答えを出していくことがすごく大事だったなと、今になって思います。

行動の積み重ねでモチベーションを保ち続ける

入社後に単独自転車世界一周に取り組むことになった経緯や後押しになったエピソードを教えてください。

社内にはオリンピック選手が大勢います。リオ大会には17人が参加しました。ミキハウスには夢やチャレンジを応援するという文化がありまして、僕も小学校以来の夢だった世界一周にチャレンジしてみたいと思い始めました。どうせ後悔するのだったら、やらずに後悔するよりやって失敗して後悔した方がいいので。
それを周りに話したら、みんな「そんなの無理だ」って。会社でも「学生のうちにやっておけばよかったね」「会社どうするの?」「仕事どうするの?」「家族どうするの?」って言われました。ところが当時の上司がかつての自転車少年で「達ならできるよ」と(笑)。そんな人が身近にいたこともあって、夢を持ち続けていられました。

学生の皆さんにお伝えしたいのは、どうやったらモチベーションを保ち続けられるか。実はコツがあって、「行動を続ける」というやり方です。小さい行動でも積み重ねることによって、モチベーションが保ち続けられる。「人間の行動は背後にある動機を強める」という言葉があります。
僕は大学でこれを勉強して知っていたので、週末になったら少しの時間でも自転車に乗ったり、スポーツ用品店に行って世界一周に必要なキャンプ道具を手に取ってみたりしました。そういう行動を重ねることによって、世界一周へのモチベーションを保ち続けていたのでしょう。

入社して4年、26歳の時に、会社を辞めて夢を取るか、会社のままに生きるかという分岐点を設定しました。夢って期限を決めろと言われますが、26歳というのはうちの社長がミキハウスを創業した歳だったのです。尊敬する社長が26で今の会社をつくったので、僕も26で夢か現実かどっちかを選ぼうと思って。行動することで背後の動機も強まっていましたから、会社も仕事も好きでしたが、会社を辞めてでも世界に行こうと決心していました。
それまで年に2回、会社の業務レポートの欄外に「自転車で世界一周したい」と書いていたのですが、当然のことながら返事が一切なかったということもありました。

試算すると世界一周に1,000万円くらい必要で、大学時代に230万の借金がありましたから、1,230万を貯めなきゃいけなかったということもありましたので、独身寮では本当にお金を削って生活をしていました。外食は一切せず、寮の部屋では段ボールが家具でした。とにかく入社1年目からお金を貯め続けていました。すると寮を出ていく先輩が、古くなったテレビや冷蔵庫やベッドを置いていってくれる。坂本は目標に向かって動いて貯金していることを知っていてくれたのです。