佐藤可士和氏インタビュー 物事の構造を見据える「デザインの視点」

リアルとバーチャル

リアルには皮膚感覚で得られる情報がある

佐藤さんは国内外問わず、さまざまな場所に出向かれて、多くの人とお話をされています。現在では、今回のようにzoomで場所を問わずにインタビューさせていただくこともできるようになり、人と人とが直接出会って話をしたり、知らない場所に身を置いてなにかを体験したりすることは、大学生自身もなかなか叶わなくなっています。佐藤さんご自身はリアルに重要性を置くことも大事だと思われていると思いますが、佐藤さんのご経験から、いわゆるオンライン世代とかZ世代とか呼ばれる私たち若者に向けて何かメッセージをお願いできますでしょうか。

そうですね、オンラインもオンラインならではのコミュニケーションがあるから、どっちがいいとか悪いという対立構造ではないと思うのですよね、情報の取り方が違うということだから。だから、リアルじゃなきゃいけない、オンラインは駄目だということではなく、オンラインならではの、インターネットやモニターやデバイスを通して行うコミュニケーションの良さもあるので、どっちかに偏ってしまうのはもったいないと思います。
かたや、本当にリアルで人に会って対話するとか、経験するというのは、それはそれで非常に大事です。やはり人間は生身だから、リアルな場で人に会うと、身体感覚でもっといろいろな情報が得られるわけです。例えば、このzoom画面では分からないその人の雰囲気とか情報というのは山のようにありますよね。
「佐藤可士和展」はSNSに会場の写真がたくさん上がっていたけれど、実際に行ってみるとインスタで見ていたのとはまた違う発見や感覚があるでしょう? やはり現場に行くと、あのドーンと広い空間感。最初細長い入口からのアプローチがあって、ひょいと左側に曲がると、ものすごく大きな部屋があるとかね、そういう場の空気感はインスタでは分からない。そういう情報がやはりリアルにはたくさんあるわけで、情報量が比較にならないくらい大きいですよね。
人と会って話すのには口と目と耳ぐらいしか使っていないと思われるけど、実はそうじゃない。温度感とかその場の匂いとか自分でも解析できないくらい情報の量は多く、それが雰囲気というものをつくっているのだと思います。
たとえばこのインタビューでも18時半からzoomに僕が入ってきたけれど、リアルだと僕がちょっと早く行っていれば違う雑談があったり、SAMURAIにもし来てくれたらなにか作品を見たりだとか。そういうことでまた全然違う交流がある。そこから得られる情報量はすごく多くて大事だから、リアル体験は非常に面白いと思います。

ちょうど、「佐藤可士和展」のお話もしていただいたのですが、今回佐藤さんはご自身で企画・会場構成をされています。私も行く前にSNSで、それこそセブン-イレブンの大きなロゴと一緒に撮られた写真などを見てから行きました。現地では人が実際にそのロゴを見て驚いていたり、「すごいね、これ」と、一人でつぶやいている人がいたり、カップルで来られている方がツーショットで楽しそうにされていたりで、そういう場の熱量はやっぱりSNSからは全然感じ取れなかった。人が大勢いるということは写真を見ても分かるのだけれど、そこに人が生きている熱量みたいなものは、実際に会場に足を運んで自分の眼で見て、いろいろなものを感じ取る中で、やっぱり「すごいな」と改めて思いました。個人的には、例えばオンラインツアーでインドに行くこともアリだと思うのですが、実際にその場所に行って、場所の匂いを嗅ぐとか、現地の人と触れ合うとかするのは、やはり対面に勝るものはないと思います。そういったことはきっとこれからもずっとなくならない価値観なのだろうなというふうに、お話を伺っていて思いました。

そうですね、人間が生身ですからね。現実空間がなくなるということはないよね。逆にオンラインというかインターネットのほうが何かで全てが変わったりなくなったりする可能性があるかもしれないですよね。

インターネットの脆弱性を意識する

佐藤さんに言われて、確かにリアルがなくなることよりインターネットがなくなることのほうが可能性としてはありえるよなと思いました。

可能性はあるよね。例えば、電気が来なかったらスマホもパソコンも全然使えないし、そこでシャットダウンされちゃう。大規模なサイバーテロがもし起こったら、世界中のすべてのインターネットが機能しなくなっちゃうとかということもあり得るかもしれない。

そうですね。今、オンラインでこれからなんでもできるのではないだろうかと、学生も社会もそんな雰囲気を感じたりすることがあります。オンラインに慣れることもこれからの社会で生きていく上では大事だろうと思う一方で、やはり人と人とがリアルに集うとか助け合うとか、そういった人と人のつながりを大学生協では大事にしてきたので、その重要性を改めて感じました。

オンラインはまだ比較的新しい概念で、できたばかり。20年前、僕が独立したときに、今のこういう状況に近付きつつあるというレベルで、それでもまだFAXを買わなきゃ駄目だったりしました。本当にまだ始まったばかりで、そういう意味でいったら、今後もっともっと進化すると、リアルとバーチャルは融合して、もしかするとオンラインとかバーチャルとか言わなくなるくらい馴染んでしまうかもしれないですね。
でも、例えば今、電気やガスや水道のことは改めて話題にあまりしないでしょ? 当たり前のように水が出て、当たり前のように電気がついて使っているじゃない。そうすると将来、本当にオンラインも含めてリアル環境の一つみたいに感じるようになっていくと思うのだけれど、でも基本的にはオンラインは電気がないと使えないし、災害が起きたりして使えなくなってしまうことだって考えられる。そういうときに、すべてがデータにはならないということを根本的に理解していれば、普段いくら便利に使いこなしていたとしても、対処できるでしょう。
まだ僕が子どもの頃には停電が普通にあって、ちょっと台風が来たりすると、すぐ停電していました。電線が細いとか、インフラが脆かったのだと思いますが、今は重要な電線などは地下に埋まっているなど、どんどんアップデートされてます。今は滅多に停電はしないのですが、でもいつ起こってもおかしくない。そういう基本的なことが分かっていることが大切かなと思います。

お話を伺って、先ほど本質的なお話のところで、構造的に物事が見えてくると、いろいろなことに応用が利くというのがあったのですが、そこの話にもつながるということに気が付きました。

そうですね、俯瞰して見ているからなんですよね。僕はインターネットの専門家ではないけれど、そもそも電気がなければ動かないというような、子どもでも分かるようなことをあたり前すぎてみんな忘れているでしょう。それが全て存在してあたり前だと思ってしまうような毎日を送っているのだけれど、実は決して全てじゃないですよね。