清水 康之 氏 インタビュー 支えあう「いのち」 いま、私たちにできること

「生きづらさ」「息苦しさ」を語ることからはじめよう

若者は周りの評価が気になる

今のお話の中でも新しくうかがってみたいこととか、なるほどと思ったことがたくさんありました。それでは、今の20代、若者の現状についてお話をうかがいたいなと思います。今の若者は、清水さんから見てどのような感じなのでしょうか。

ライフリンクでSNSを使った相談事業に「死にたい」「消えたい」と私たちのところに相談に来る若者たちに共通しているのは、やはり周りの目をすごく気にしているなということ。これは強く感じます。

先ほどの自己紹介でも触れた通り、私も中学、高校の頃は特に周りの評価もすごく気にしていたし、私だけでなく同年代の当時の若者たちもそうだったと思います。ただ当時は、学校から一歩出ればクラスや部活の人間関係から解放されて自宅で過ごせる時間があった、裏を返すとクラスメイトや先生、学校生活に関わるところの評価からは解放される時間や空間がありました。でも、今はずっとスマホやSNSでつながっていて関係性から離脱できませんよね。最初は仲良くなったり関係を深めたりすることにSNSは役立ちますが、一度SNSで関係性を構築してしまうと、仲が悪くなってももうそこから抜け出すことができない。その中ですごく苦しんでいるなというのは強く感じます。
その意味で言うと、周りの評価が気になるという部分は依然として変わっていないのですが、さらに(悪い意味で)現代は、周りの評価に怯えるということを助長する方向にSNSが働いているのではないかと感じています。

2010年以降、日本社会全体をみると自殺で亡くなる人の数は減少傾向にあるものの、高校生以下の自殺者は増える一方だし、二十代、大学生も横ばい、あるいは減っていません。子どもや若者たちが生きる環境としては、以前よりもっと過酷になってきていると言ってもいいのではないかなと思っています。

勇気を出して話してみる

私も周りからの評価を気にしてしまう質なので、そうだなと納得しながらお話を聞いていました。では大学生はこの現状とどのように向き合って考えていけばいいのでしょうか。「自殺」というワードについて大学生同士が話す機会があまり無くて、そういう場も持ちにくいなと思っているのですが。

自殺について周りの人と話すのはハードルが高いかもしれませんが、「生きづらさ」とか「息苦しさ」、あるいは自分の将来に対する不安という話題であれば、少しは話しやすいのではないかと思います。

おそらく多くの大学生や若者がいろんな不安を抱えていたり、あるいは「生きづらい」「息苦しい」と感じていたりすると思います。ただ、それを自分から言いだすと「あいつは真面目くさったことを言っている」と突っ込まれるかもしれないので、それに怯えて話題に出せないのではないかと感じます。でも勇気を出して話してみると、結果として自分のことも語れる、相手のことも聞ける、お互いの距離が少し縮まるかもしれません。

なかなか自分自身の体験や感情を伝えることが難しい場合は、何かドラマや映画、あるいは本を引き合いに自分の感じたことを話してみたりすると、相手に伝えやすいのではないかなと思います。それでもし相手が乗って来なければそのまま引っ込めばいいし、もしかしたら相手も「誰にも言えなかったことを言うチャンスかもしれない」と思って吐き出してくれるかもしれない。そこはチャレンジしてみてはどうでしょうか。

その理由は単純で、誰もがいずれ死を迎えるわけですよね。私もそうだし、皆さんもそうだし、皆さんの大切な誰かも必ず死を迎えることになる。
たとえば今朝、家族や同居人とかがいたら「おはよう」の挨拶を交わしたかもしれない。「こんにちは」「さようなら」も日常的に交わすことがあると思う。でも、それもいつか最後になるタイミングが訪れるはずです。もしかしたら、周りの友達とか親しい人とかが先に亡くなって、自分が言いたいことを伝えるタイミングを逃してしまうかもしれない。それで伝えられなかったことを一生後悔することにもなりかねません。
そういう意味で自分の気持ちを伝えたい相手がいれば、あるいは、聞いてもらいたいということがあれば、それはそう思った時に勇気を出して話をしてみたらいいのではないでしょうか。

「自殺」をキーワードに話題をもちかける場合に、映画とか小説とかいろんな切り口があるのですね。選択肢が色々あって、自分が感じたことに対して共感できるポイントをお互い話し合えれば、心もつながると思いますし、楽しくなるのだなと思ったというのが一つと、日常は当たり前ではないというところで、一日一日を大事に生きるというところから始めるのが大切なのかなと感じました。