清水 康之 氏 インタビュー 支えあう「いのち」 いま、私たちにできること

「いのち」と向き合う

相手の気持ちを受け止める

実際にSNSの相談の中で、大学生、若者が命とどう向き合っているのかが気になります。私自身は自ら命を絶とうなどと思ったことは全くないのですが、相談者の中には結構追い詰められている方も多いのではないかと思います。清水さんは学生時代、高校を中退してアメリカに渡るという別の選択肢を選ぶことができましたが、そうではなくて、命を絶つという選択肢が少なからず存在してしまっている若者はどのように考えていると思われますか。

私たちのSNS相談者には、他に誰も話せる人がいないという方が多く見られますね。
「一回は相談してみたけれども、茶化されたり、叱られたりして気持ちを受け止めてもらえない」「勇気を振り絞って相談したのに、こんなことならもう誰にも相談するものか」と、「死にたい」「消えたい」という気持ちをずっと抱えたまま誰にも話せなかった人がいます。それから、「そもそも相談したことはないけれど、でも相談していいとも思えない」「相談したら相手に負担をかけてしまい、迷惑なのでは」と考えて相談できないという人も少なくないです。共通点としては相談できる相手がいないというところですね。

ですので、我々としては、まずはしっかりと気持ちを受け止めるというところから始めます。受け止めてくれる人がいるとわかると、自分の感情と丁寧に向き合える余裕ができてくることがあります。皆さんも誰かと話をする中で色々と気づく事ってありませんか。だから、我々が相談対応する時にはまず、しっかりと聞く。相手の気持から逃げない。仮に「もう、死のう」と思っていたとしても、いきなりその気持ちに至ったのではなくてそうなるまでには相当いろんなことがあったわけなので、丁寧に相談者の気持ちを受け止めて話しやすい環境を作っていくということもやります。

そうすると、最初はひとことしか書き込んでこなかったような人も、ひとたび自分の話聞いてもらえると感じたら、一気に、改行なく、感情が溢れ出すかのように気持ちを伝えてくれることもあります。やはり、「聞いてもらいたい」「気持ちを受け止めてもらいたい」、そう思いながらも思うように受け止めてもらえていない子が多いのだろうなと感じているところです。

ありがとうございます。若者の自殺が減るどころか増えているという現状の中で、命の受け止め方が軽くなっているのかなという印象を持っていたのですが、そうではなくて、誰にも相談ができなくて、誰にも話せなくて、結果命を絶つという決断を選んでしまうということなのですね。

支え、支え合う

もう一つお聞きしたいのですが、実際周りにそういったしんどい思いをしていて、たとえば、自分だけしか相談相手がいないとか、辛そうにしている友達が周りにいた場合、そういった人に対して自分や周りの人に何ができるのだろうと考えます。実際にどのような対応をするのが正解なのでしょうか。

やれることはいろいろあります。たとえば、相談窓口の情報を伝えてあげることもできることの一つ。その時に、「こういう相談窓口に相談してみたら」とストレートな言い方もあるけれど、誰にも助けを求めようとしない、あるいは誰にも助けを求めてはいけないと思っている人ほど、「相談してみたら」と言われても固辞してしまうことがあると思うので、例えばまず自分が電話なりSNSで相談してみて、「いまこんな悩みを抱えていて、ここに相談してみたら結構話を聞いてくれたよ」みたいな、そういう情報提供の仕方もあるんじゃないかなと思います。

これは自分が話を受け止めようとする時も同様で、たとえば、相手の肩をゆすって「あなた、何か悩みがあるでしょう。さあ、私に話してごらんなさい」と正面から言っても、相談してはいけないと思っている人、あるいは今まで相談して痛い目にあった経験を持っている人ほど、「いやいや、大丈夫です」と引いてしまいかねない。それよりも、隣に座って、目線も合わせず、あさってのほうを見ながら「昨日学校でこういうことがあって」とか「思うようにいかなくて」と、自分の中にある悩みを少し相手に打ち明けてみる。そうすると、その人は「この人とは自分が悩みを打ち明けてもいい関係性なんだ」「相手がそう言ってくれるということは自分も話していいんだな」ということで、「実は私も」と普段なかなか言えないようなことが出てくる可能性があるので、こちらからそうやって自己開示をしてみるといいのではないかと思います。

ただ、すでに相手が遺書まで書いて「死のう」という危険な状況まで来ている場合もあります。その場合、その人をひとりだけで支えようとしても大変です。騎馬戦の馬や神輿を大人数で担ぐと安定するように、自分と一緒にその人を支えてくれる仲間を見つける。それは友達かもしれないし、学校の先生かもしれないし、あるいは親御さんかもしれないし、場合によっては専門家かもしれない。できるだけ仲間を作って複数の人で支える。自分もちゃんと誰かに支えてもらう中で、支えるべき人を支えるという環境を作ることが大事です。

ありがとうございます。話を聞いてあげるうちに自分もしんどくなってきてしまうこともあるのかなと思っていたのですが、騎馬戦のように一緒に支える仲間を見つけるとか、それこそ自分自身も相談窓口に相談してみて、自分の体験から一緒に支えていくというやり方もあるのですね。もし自分がそういう場面に遭遇することがあれば意識したいなと思います。

頼もしいです。

社会は変わる、変われる

社会問題と関わることが必要

仮に友人の中に自殺を選んでしまった人がいたら、その時のショックは計り知れないのではないかと思います。「もっとこうしていたら助けられたかもしれない」と気に病む人もいるのではないかと思うのですが、そういった方へのフォローはどうしたらいいのでしょうか。やはり個々人ではなくて社会全体でフォローしていくのが必要ではないかと思いますが、日本社会の現状ではなかなかそういうことを話しにくいなと感じるので、どうすればもっとみんなで話せるのかと。

社会ってなかなか変わらないと思っている人が多いと思うけれど、そんなことはない、変わるのです。手の届かないところに社会があるわけではありません。だって、社会は私たち一人一人が構成しているものですから。その一人ひとりが変われば当然社会は変わるし、それも順番に変わっていくのではなくて、一気に変わることもあります。

2006年に「自殺対策基本法」という法律ができて、それによって自殺は「個人の問題」から「社会の問題」というとらえ方に変わりました。法律ができたからすぐに変わったわけではないけれど、今では国も自治体も都道府県の95%を超える市町村が自殺対策の計画を作って、実際に取り組んでいます。これは基本法ができる前には想像もつかなかったことです。そうした中、ずっと年間3万人を超え続けていた自殺者数が今では2万人台前半にまで減少しました。ですから、社会は変わる、変えられるというのが私の実感だけでなく、事実だと思います。

ただ、変わるのにはもちろん時間もかかることもあるし、必ずしもすべての人に良いという社会が実現するわけではありません。「良い社会」といってもそれは「もっともっと競争社会になった方がいい、格差が広がろうと自由主義的な価値に基づいて社会を運営していった方がいい」と考える人もいれば、「誰も置き去りにしない、共生が可能な社会にしていったほうがいい」という人もいて、人によって目指す社会の在り方が違います。ただ、そこはできるだけ多くの人たちと問題点を共有し対策をとっていくことが誰にとってもプラスになります。ですから、社会を変える、雰囲気を変える、場合によっては制度を変える、そういうことを視野に入れて、皆がいろんな社会問題と関わっていく必要があります。

「生きづらさ」「息苦しさ」を感じるとか、あるいは自殺で亡くなることというのは、個々人に起きることですけれども、個人だけで解消できる問題でもないので、そこはできるだけ社会的な文脈の中で問題を解釈し、それに対しての合理的な対策を講じていくということが必要だと思います。
私はNHKのディレクター時代から、身近な人を自殺で亡くされた遺族の話をたくさん聞いてきましたが、「自分が気づけなかったのが悪いのではないか」、あるいは「自分の振る舞いが自殺の方向に背中を押してしまったのではないか」と、自分自身を責めている方がものすごく多くいらっしゃるのですね。でも、その方たちに「自分を責めることはない」「あなたのせいじゃない」なんて軽々しく言えません。遺族の方たちには安易な慰めの言葉よりもどういう状況で亡くなったと考えられるのか、どういうふうにそれを解釈し得るのかということをお伝えし、一緒に考えていきます。
自分自身を責めたり、亡くなった人に対して怒りを感じたり、ご遺族がご自身だけでいると心の奥底に押しとどめてしまいがちな感情を、表出する相手として存在することができたらと思って、遺族の方々と接するようにしています。

一緒に考えたり、聞いたりすることは、命を考えるきっかけになるなと思いました。社会を変えていくことができるというのは本当にその通りだなと思ったので、そういった大学生ひとりひとりがこれから社会をつくっていくのだという気持ちも忘れずにいきたいと思いました。

生き心地の良い社会を目指そう

それでは最後の質問です。
このインタビューは全国の大学生に向けて公開していますが、これから日本を担う大学生がどのように行動していけばいいか、何かメッセージをお願いします。

「生き心地の良い社会を共に作りましょう」と呼びかけたいです。「生き心地の良い社会」というのは、一人ひとりが自分の存在に意味を感じながら生きられる社会だととらえています。そういう社会を実現していきたいですね。
これは、私たちが大学生のために作るというものでもないし、大学生に私たちのために作ってもらうというものでもない。私たちも大学生の皆さんも、意味がある人生を生きていると感じられるような社会を一緒に作っていけたらいいなと思っています。
少し時間はかかるかもしれないけれども、必ず実現に向けて社会の変化を促していけると思っているので、ぜひ共に歩んでいきましょう。

ぜひ、本当に一緒に考えて行動していけたらと思います。今日はありがとうございました。

(2023年6月14日 リモートインタビュー)

PROFILE

清水 康之

1972年 東京生まれ。
1997年 NHKに入局。初任地は札幌。2001年、NHK東京放送センターへ異動。「クローズアップ現代」などを担当。テロ事件や自殺、内部告発などに関する取材を通して、社会の様々な「現場」や「瞬間」に立ち会う。2004年 NHKを退職し、ライフリンクを設立。2009年、内閣府特命担当大臣らで作る『自殺対策緊急戦略チーム』メンバーとして内閣府参与に就任(2011年8月まで)。『自殺対策100日プラン』の取りまとめ役を担う。2016年、超党派「自殺対策を推進する議員の会」アドバイザーとして、基本法の大改正にも関わる。2019年、一般社団法人いのち支える自殺対策推進センターを設立。同代表理事に就任。現在に至る。

特定非営利活動法人 自殺対策支援センター ライフリンク https://lifelink.or.jp/

一般社団法人 いのち支える自殺対策推進センター https://jscp.or.jp/