薗田 綾子 氏 インタビュー 未来は変えられる‼~“ありたい姿”から逆算の発想で課題解決を~

気候変動とジェンダーギャップ

生態系の豊かさあっての経済

環境問題を意識されたきっかけを教えてください。

やはり92年リオサミットに行った人から地球温暖化の話を聞いたのが衝撃的でした。私の中では気候変動の問題は一番ベースになっています。


(Stockholm Resilience Centreより)

SDGsも17ゴールありますが、全部並列じゃないですよね。三層構造になっていて、一番下が生物圏、次に社会圏、その上が経済圏で、ベースは地球環境や命です。自然界の仕組みが基礎になくて経済ばかりになってしまうと、地球が破綻してしまうかもしれない。私たちが生きていけるのは生態系の豊かさがあってこそだと教えられたことと、『地球は今』の10巻本を作るためにいろいろなデータを調べ、いろいろな考え方を取り入れたこと。それが私の中でも、会社の経営にも非常に生きています。

確かに人間本位で考えるのではなく、自然があってこその私たちだから、全てにつながってくる大前提として忘れてはいけない視点ですね。

プラネタリー・バウンダリーという考え方があります。人口百億人ぐらいまでは、なんとか、地球のキャパシティの中で生きられるのですが、気候変動の問題や生物多様性が限界に来ているというデータを、最近では科学者が出しているのですね。

プラネタリー・バウンダリー(Planetary boundaries)…人類が生存できる安全な活動領域とその限界点を定義する概念

例えば地球上の全人類が日本人だと仮定すると、地球が2.9個必要だといいます。全員アメリカ人だったら5個以上必要だということで、実際に世界には非常に豊かに暮らしている人たちが大勢負荷をかけています。たくさんエネルギーを使ってたくさんフードロスを出して、地球のキャパシティ以上で生きている人たち。でも地球は1個しかありませんから、私たち現代人が使いすぎてしまうと、結局未来の子どもたちの資源を前借りしてしまうことになるんです。これが、エコロジカル・フットプリントという考え方です。

エコロジカル・フットプリント……地球の環境容量を表す指標で、通常は、生活を維持するのに必要な一人当たりの陸地および水域の面積として示される

世界のアースオーバーシュートデーというのは、1年の間で地球環境が生み出す資源を使い切ってしまう日のことで、日本の場合、半年もたずに5月6日にショートしてしまいます。なので、地球の生産量を人間の消費量が上回ってしまうことのないよう、生物資源を大切にしていかなければならないのですね。

アースオーバーシュートデー…(バイオキャパシティ/エコロジカル・フットプリント)×365日という計算式で導かれる

今ニュースを見ると、GDPなど経済の話が多いですが、経済学者もグローバルリスクの中ではやはり気候変動の問題が一番心配だと言っており、経済の局面からも真っ先に考えていかなければいけないと言われています。

日本のSDGs達成度

SDGsには17のゴールがありますが、今の大学生が特に意識すべきゴールについてお聞かせください。

22年のSDGs達成度ランキングでは、日本は163カ国中19位にランクインしています。その中で特に日本が遅れていると言われる分野は、12番(つくる責任、つかう責任)、13番(気候変動に具体的な対策を)、14番(海の豊かさを守ろう)、15番(陸の豊かさも守ろう)、17番(パートナーシップで目的を達成しよう)ですが、著しく遅れてるのが5番(ジェンダー平等を実現しよう)なんですね。

私は、5番と17番が著しく遅れているのは問題だと思っています。世界経済フォーラムで出されているジェンダーギャップ指数を見ると、日本は146カ国中125位(2023年)で、先進国の中で一番低く、中国や韓国にも抜かれています。女性だということで何かを諦めてしまったり、キャリアが形成できなかったり、自己決定することを諦めてしまっている女性が多いわけですよね。
それは貧困層の男性も同様です。若者がお金や機会がないからと諦める世界ではなく、どんどんチャレンジしていける世界を作っていくためにはパートナーシップが必須で、学校や自治体や企業と連携して進めていくことが重要だと思います。

ジェンダーギャップを生むのは

男女平等については、日本の歴史の文化的な部分に大きな影響があると思うのですが、今は変換期でもあると思います。大学生の僕たちは、どのような点を意識し配慮すべきでしょうか。

一番の問題は、女性の経済的自立ができていないという点です。特に地方の方とお話しすると、例えば「父親より母親が稼ぐなんてありえない」と言われます。実際に女性の場合は扶養控除の壁があったりするので、非正規雇用の方も多いんですよね。フルタイムで働けば、女性も生涯年収は男性と同額になるのですが、非正規で働いたり子どもが小さい間は家にいたりすると生涯年収も年金も違ってきます。

女性の経済的自立ができない問題点の一つにアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)があります。私たちの時代でも「四年制大学じゃなく短大に行きなさい」「早く結婚して子どもを産みなさい」「子どもを産んだらお母さんだから家で子どもを育てなさい」と言われ続けたんですね。
海外旅行に行くのも「女の子なんか危ない」、運転免許を取るのも「女の子だからいらない」。私の経験でいうと、車の免許を取ると行動範囲も広がるし、海外旅行で多くの人に会うといろいろな考え方を吸収できます。経験を重ねるというのは大学時代に大切なことなのですね。私たちも日本各地でヒアリングしながら、解決すべき問題を見つけています。

興味深いのは幼い頃にもらうおもちゃによる影響で、男の子はプラモデルやレゴなど組立系ですよね。そうすると、空間認識能力が上がって建築など理系に進む人が多い。女の子だと人形など育む系で遊び、文系に進む人が多い。日本で理系女子が少ない理由の一つは、幼い頃に遊んだおもちゃに一つ原因があると言われます。子どもに与えるおもちゃ選びにもアンコンシャスバイアスが見られて、そこからもギャップが生じているのかもしれません。今、クレアンでもジェンダーギャップを解消しようという漫画の発信をサポートしています。

幼少期のおもちゃにそうした側面もあるのだということは気付きませんでした。どこかのタイミングで知らない世界に飛び込むと凝り固まった考えが柔軟になり、ジェンダーギャップも縮まるかと思います。

イスラエルでは、男女全員理系で教育した後に、人によっては文系を選ぶというシステムです。ですから全員プログラミングができる。世界のIT系大企業が、イスラエルの優秀な人たちをどんどん採用したいと注目しています。多彩な技術の背景には軍事産業の発達もあると思います。インターネットなども元々軍事からスタートしていますから、世界がよくなる方向で活用できる技術もあります。
また砂漠にある国なので、点滴農法のように何百分の一の水で野菜を作るという技術もユニークでした。イスラエルって理系教育に熱心で、とにかくポジティブなマインドでやっているので、多様なイノベーションが起こってくるのですよね。