薗田 綾子 氏 インタビュー 未来は変えられる‼~“ありたい姿”から逆算の発想で課題解決を~

明るい未来のために

バックキャスティングのすすめ

SDGsを2030年に達成しようと全世界で進めていますが、実際に達成されたら未来は明るいのでしょうか。

私がこういう活動をずっと続けているのは未来を変えたいから。また、きっと変えられるという確信があるからです。ただ、みんなが現在の延長線上のままにフォアキャスティングで生きていくと、結構厳しい未来になると思います。
1998年にスウェーデンが自国の持続可能性シナリオを創る際に使用したバックキャスティングという考え方をご紹介します。まず“ありたい未来”を描きます。単純に一直線上の未来ではなく、その時の社会、教育、経済、あるいは企業や市民のマインド、自分のライフスタイルや家族など、複合的なベストの状態を制約なしに描いてください。
その未来と現在とのギャップをどう縮めていくのか。そのために行動すると未来が変わっていく。自分たちがありたい未来に近づいていくのです。

バックキャスティング……未来のあるべき姿を起点として、現在にさかのぼって課題解決を考える思考方法

例えば今、プラスチックごみをできるだけリサイクルしても、プラスチックは大量生産、大量廃棄されているわけです。実際にそれが循環せずに海に流れていくと、2050年には魚の量よりもプラスチックごみが増えるだろうと言われています。少しぐらいリサイクルしたり使うのをやめたりしても、このままの延長線上だと多分そうなります。
基本的にはできるだけ減らすのではなく、私たちの生活を根本的に変えていかなくてはなりません。みんながやらないと本当に悲劇的な未来になってしまうので、行動することが重要です。もちろん個人だけではできないので、企業や国単位で根元から変えていく必要があります。

その一つがジェンダーギャップ解消だと思います。女性だけでなく子どもたち、LGBTQの方、さまざまな宗教の方、いろいろな国籍の方、障がいのある人も、あらゆる方々が未来を変えられると思って行動すると、非常に多様性がある未来になり、多くの革新が起こって社会のルールも変わっていくと思うんですね。なので、未来を変えるシナリオを描くとしたら、一つの軸は多様性が豊かな社会に舵を切っていってほしいと思います。

バックキャスティングという考え方、未来のありたい姿のために行動や意識を根元から変えていくやり方は新しい発見でした。

資源は無尽蔵ではないので、地球の中にあるものを循環させていかないといけません。日本で私たちが使っている電力供給量の倍ぐらいの再生可能エネルギーのポテンシャルは、実は事業性を考えたものだけでも、もうすでにあるんですよ。太陽光発電、風力発電だけでなく地熱や、太陽熱や地中熱、マイクロ水力発電など、それが使われていないのです。
実際に自然エネルギーを活用すると、海外から高い石油や石炭を買わなくていいし、CO2も出ません。それとバイオマスエネルギーや廃棄物エネルギーなどの再生可能エネルギーも早く推進していくべきです。
やろうと思ったら2050年ではなく、多分2030~35年でもゼロカーボンはできるはずなんです。北海道や九州は再生可能ポテンシャルは大きいのですぐにできます。ですので皆さんも、政府に対して「もっと自然エネルギーを推進してきましょう」という声を上げていってほしいと思いますね。

就活生が企業を選ぶ9つの基準

学生の意識を変え行動を促すためには、どういうことから始めていけばいいのでしょうか。

今ちょうど進めているプロジェクトが、就活生に向けての「企業選びをする9つの基準」です。
まず、その企業が国連グローバル・コンパクト※1にサインをしているか。サインをしていないところは環境や労働や人権という最低限のことに取り組んでいないわけですよね。あるいは「女性のためのエンパワーメント原則※2」にサインしているか。ちゃんとトップがコミットメントしてジェンダー平等に対応している企業を選びましょう。あるいは今年6月に従業員301人以上の企業に男女の賃金格差を開示することが女性活躍推進法で義務化されたので、希望する企業の賃金格差を確認しましょう。それから男性がちゃんと育休が取れるのかも。

※1国連グローバル・コンパクト(UNGC)…1999年の世界経済フォーラムにおいて提唱された。企業に対し、人権・労働権・環境・腐敗防止に関する10原則を順守し実践するよう要請している

※2女性のエンパワーメント原則(WEPs)…企業がジェンダー平等と女性のエンパワーメントに積極的に取り組むことで、女性の経済的エンパワーメントを推進する国際的な原則

環境面では2050年にカーボンニュートラルを目指している企業であるか。あるいは上場企業はTCFDの枠組みで気候変動に関する2050年までに起こり得るリスクとチャンスを分析して提出する義務がありますが、きちんとシナリオ分析をしている企業を選びましょう。あるいは2030年までにCO2を削減していく具体的な目標を持っているのか。最後に、若者やNGOなどとちゃんと対話をする場を持っているのか。

TCFD…企業に対して気候変動が事業へ与えるリスクやインパクト、企業の具体的な取り組みの情報開示を求める枠組み

9つ全部に取り組んでいる企業はまだありませんが、皆さんはこの考え方を勉強しておくと、気候変動の問題だけでなく、自分の人生を選択する時にどういうシナリオを作ったらいいのかを決める指標になります。
もし就職先の企業がこれらの基準に対応していなかったら、もっと違う所を選んでもいいし、あるいは自分でそういう組織を作ってもいい。この就活生のための9つの選択基準についてのセミナーを今後開催していく予定です。

これ、実は投資家が企業を選ぶ基準なんですよ。投資家は企業が長期的ビジョンを持っているかとか、特に環境面とかジェンダー面とかをインクルーシブ(包括的に)に取り組んでいるのかを調べます。こうした点をクリアした企業はやはり伸びているんですよ。特にジェンダーダイバーシティを進めているところは気候変動に対するイノベーションが起こっていて、顕著な相関関係があることが分かっています。
そういった基準を9項目全部でなくても、半分以上でも取り組んでいる企業をちゃんと選んでいくというのが重要な選択基準になってくると思います。

僕は企業選びの時に賃金や男性の育休は結構意識しますが、企業の社会的な責任などにはなかなか考えが及ばなかったので、ぜひ学生にも新しい視点を意識してもらいたいと思います。

大学生協連さんでエシカル就職を提案されてもいいですね。

学生一人一人が長期的視点で投資するように企業を選び、長く続く輝ける未来を創っていけるよう促進していきたいと感じました。

若者世代へのメッセージ

最後に読者の大半を占める大学生に向けてメッセージをお願いします。

未来を作っていくのは皆さんです。私たちは皆さんが描く未来を応援していきたいと思っています。私は2017年に両親の遺産を基に一般財団法人「みらいRITA」を立ち上げました。SDGsゴールなど社会・環境課題の解決に向けて活動する団体に対して助成金を出す団体です。そこで、私の周りのジェンダー関係の仕事をしている方々のご紹介で、シャネルプロジェクトが2023年4月からスタートしました。フランスのシャネル財団がサステナビリティにも力を入れていて、かつて東日本大震災の支援をされたのですが、今回は日本のジェンダーギャップを鑑み、変革を起こしたい女性を応援する助成金を頂いたんです。

これからジェンダーギャップ解消のためにいろいろなプロジェクトをスタートさせていきますので、例えば自分が生まれた地域を本当に多様性あふれる街にしたい、新しいジェンダー平等の意識改革などをお考えの方がいらしたら、一緒にプロジェクトを推進していただければと思います。今、皆さんが2030年までの間に何か行動を起こすかどうかで未来は変わってくると思うので、いろんなチャレンジをしてもらいたいですね。

天才アインシュタインも、脳の10%程度しか使っていなかったという話があります。通常の人たちは大体3~5%ぐらいしか脳を使ってないらしいんですね。私はこれを1%多くみんなが使うだけですごいことが起こってくるんじゃないかと思っています。ぜひ自分の可能性に気付き、自分には誰にも負けないユニークな能力が必ずあるはずだと信じてください。私も25歳で会社を立ち上げた時には、正直この会社をずっと続けて多くの企業さんのサステナビリティを推進できるようになるとは思っていませんでした。でも進めていくうちにさまざまな人が協力してくれるし、自分の能力も伸びてきました。
1日1㎜でも能力を伸ばしていくと、1年間で360㎜、10年で3m以上になります。少しずつ自分の中で能力を育み、勉強だけじゃなくて、学生時代はアルバイトとか国内外に出て、いろいろな人に会っていろいろな経験をして未来をポジティブに変えていってほしいと願います。

大学生協でも初めてLGBTQの学習会を企画しています。学生がしっかりと学び、自身で選択し未来を創っていけたらと思います。本日は貴重な機会を頂き、ありがとうございました。

(2023年5月23日 リモートインタビュー)

PROFILE

薗田 綾子(そのだ あやこ)氏

1963年 兵庫県西宮市生まれ。甲南大学文学部社会学科卒業。広告代理店、株式会社リクルートを経て88年、株式会社クレアンを設立、代表取締役就任。女性向けの商品開発やマーケティング、雑誌の編集を担い、95年にインターネットビジネスをスタート。96年『地球は今』10巻シリーズを創刊。環境ビジネスを本格的にスタートさせる。97年、環境情報マガジン「エコロジーシンフォニー」をNECシステムテクノロジーと共同でスタート。2000年、企業のレポート制作を始め、松下電器産業の報告書が第4回環境レポート大賞環境庁長官賞を受賞。これより300社以上のサステナビリティ経営のコンサルティングや報告書の企画制作を提供、現在まで述べ約800冊を支援。環境コミュニケーション大賞・優秀賞等多数受賞。サステナブルなまちづくりサービス、各種講座・セミナー等も展開。NPO法人サステナビリティ日本フォーラム理事、内閣府 地方創生SDGs官民連携プラットフォーム幹事等を担う。(公式サイトより一部抜粋)

株式会社クレアン https://www.cre-en.jp/