須貝 駿貴氏インタビュー 大学生は専門家であれ!~学べる環境に身を置き、知識を深めてほしい~

大学生はこうあってほしい

自分の専門について語れる

私も大学では理科を専攻し、生物を中心に学んでいます。須貝さんは理科を通じて活動してこられましたが、学びの機会をどのように提供しようと思っていらっしゃいますか。また、QuizKnockさんの大学生に向けた発信の意図などもお聞きしたいです。

最近の取り組みですとQuizKnockのYouTubeチャンネルの一つに「QuizKnockと学ぼうチャンネル」というものがありまして、毎週QuizKnockメンバーと視聴者が一緒に勉強に取り組むことができる生配信をやっています。その「QuizKnockと学ぼうチャンネル」の企画の一つに、「好きになっちゃう放課後」というものがあります。QuizKnockメンバーそれぞれが、自分の専門分野や好きな科目について、思う存分語り合うという企画です。

これはQuizKnockの総意というよりは僕の考えなのですが、大学生は大学に入ろうと思って入学してきたその時点で、「学ぼう」という気持ちはあると思います。でも、その中でちょっと指針を見失ってしまったり、あるいは勉強の内容が難しくて、「高校まではできたのに……」と悲観したりすることもあるかもしれません。

そういうときには、この「好きになっちゃう放課後」に登場してくるメンバーのように、何かを深く楽しく語れるようになることを目指してほしいなと思います。我々が上手に語れるのはカメラの前で話すことに慣れているYouTuberだから。みなさんは上手じゃなくていい。ただ自分の好きなものや専攻していることについてすごく詳しくなって、それを楽しく話すことはできるはず。大学はそういう場なのだと、僕は思っています。
最近、僕とヨビノリたくみ君(YouTubeチャンネル『予備校のノリで学ぶ「大学の数学・物理」』を運営するYouTuber)が一緒に出た「好きになっちゃう放課後」の動画では熱力学をテーマに語りました。自分で言いますが、僕らってすごく楽しそうに教科書の話ができるんですよね。あれは、教科書を全部読み込み、中身を全て知っているからこそ面白いところを見つけられて、「聞いてよ、聞いてよ」「こんなに素敵なことがあるんだよ」と紹介できているわけなんです。

昔、「学部生を卒業するということは大学の中でそれについて一番詳しく、修士を卒業するということは日本でそれについて一番詳しく、博士を卒業するということは世界でそれについて一番詳しいということだ」という記述をツイッターか何かで見たことがあります。僕はそれがすごく心に残っています。大学に入ると、何かを専攻して卒業論文を書くという営みを通して、「同年代だったら自分が一番卒業論文で書いたことについて詳しいんだぞ」と堂々と言えるようになる。それが僕は超伝導でした。一番詳しいからこそこんな面白いこと、まだ議論されていないことがたくさん見つかる。そういうものを持てるように勉強に取り組んでほしいというのが僕の大学生に対する思いです。

だからこそ僕は「好きになっちゃう放課後」で、このテーマについてこんなにしゃべりたいことがあるのだと、たくさん話す様子を見せています。それが大学生の皆さんに伝わればと思います。QuizKnockって勉強に対していろいろな考え方を持っているメンバーが集まっているので、みんながそう思っているかどうかは分かりませんが、僕自身の思いを一言で言えば、「専門家になってください。専門家になれるように勉強に取り組んでください」というのが大学生へのメッセージなのかなと思います。

私自身昨年まで1年間卒論に取り組んできたので、自分が一番学んでいる、一番詳しいからこそ語れるものがあるのだという言葉を実感しました。

考え方の基盤を持ち、知識を深める

何か一つについてとても詳しくなったほうがよいということに気付いたのは、大学院生の相当後半になってからなので、学部生時代には到達しなかった目線です。大学院生の終盤になってそれをすごく自覚してからは、他の人を見ても、専門性のある人の方がより興味の範囲が広いように見えました。

というのは、自分には「よりどころとして帰ってこられる考え方の軸」みたいなものがあるなと気付いたからです。先ほども話にあがった友人の田村正資は、僕によく哲学の話をしてくれます。彼の話を聞いていると、哲学のその考え方って物理のあの現象の説明をするときの計算式に似ているなとか、とある化学者が開発した偉大なる化学式に至る思考の過程をたどっているような考え方だなとか、自分のフィールドに引っ張ってきて考えることが多いのです。もちろん僕の考え方が間違っていることもありますが、物理に戻ってこられれば、自分の理解を深めることができます。

それは生物や化学の話を聞いているときには、もっとマッチングがいいですよね。例えば、物理で登場する微分方程式と生物で使っている微分方程式が一緒だと気付けば、解き方は全部分かって答えも全部分かる。その答えが、物理では時間だったけれども、生物では個体数なのだと気付き、そうやって置き直すだけですごく入りやすくなってくる。だから、一つ自分の基礎となる一番得意な考え方を大学で培うことができたらいいと思います。

例えば、僕が所属していたのは超伝導の研究室でしたが、後輩に途中から磁石の研究を始めたり、有機物の研究を始めたりした人がいました。でも、超伝導も磁石も手法は一緒なんですよね。超伝導で使っていた手法でたどり着ける全てのところにたどり着こうとしたら、彼の興味はとどまることを知らなくて磁石も扱えるようになったんです。超伝導と磁石、他の人から見たらほとんど同じようなものなのかもしれませんが、専門にすると結構違うのでこれはすごいことです。

彼は今、東大でポスドクをやっていますが、やはりすごく勉強熱心でした。物理全般を修めていて、僕がM2、彼がM1のときに「その教科書も読んだことあります」「あの教科書も読んだことあります」と言われ、「えっ、それも読んだことあるの?」ってびっくりしました。しかも、1冊教科書を読み終わったら、発展的に次の教科書を読み始める。そうすると、単純に知識が増幅していくわけじゃないですか。そうやって一つの物事を極めつくす。知識を異なる分野にまで広げるかどうかはさておき、深めるということには自分で意識的に注力していくのが大学生の理想的な学び方かなと、僕は思います。

大学は、切磋琢磨できる友達と共有できる空間

大学に入学する時点で、学びたい意欲やなにかしら興味があってその学部に入っても、コロナ禍でなかなか思うようにいかない学生も多いかと思います。学びを深め、学びへの興味をもっと向上させるために、須貝さんが実際にされていたような興味の広げ方、学び方などがあれば教えてください。

コロナ禍で人と会えなくてモチベーションが下がるというのは、すごくしんどいことですよね。Zoom講義で語学が同じクラスに振り分けられても、雑談の時間が少ない。そういう中で、尊敬でき、一緒に勉強してくれる友達をどうやってつくるか。

なかなかアドバイスは難しいですが、友達がいたほうがいいなと僕は思います。僕の実体験でいうと、1、2年生の間は食堂でたむろして友達と一緒に勉強するということをよくしていました。あいつがいるから俺も食堂に行こう。勉強が目的で行くのではなくて友達が目的で、友達なのか知り合いなのかライバルなのかよく分かりませんが、とにかく食堂に行くのです。でも食堂に行ってもやることがないから勉強してしまうんですよ(笑)。それは、差し迫るテストやレポートがそうさせていた部分もあったのでしょうけれども、重要なのはそういう環境に身を置けるということです。大学にいる限りは、そういう空気を共有できる友達をぜひ見つけてほしいと思います。
大学ってやっぱりレベルが近い人が多い。今までの人生で一番自分に近い人が多いと思うので、自分と似た友達が多いはず。それは、同じ入試を経験したわけだからある意味当たり前かもしれません。それを信じて友達をつくって、一緒に学びを深めることを意識して勉強してほしいと思います。

自分が好きなことを一緒に深められ、そこからより自分の知識の広がりにもつながってくる友達の存在の大切さが分かりました。