須貝 駿貴氏インタビュー 大学生は専門家であれ!~学べる環境に身を置き、知識を深めてほしい~

須貝さんの生き方の根底にあるもの

「やることはやる」というスタイル

須貝さんが学業以外に特に大学生時代に頑張っていたこと、楽しかったという経験があれば教えてください。

頑張ったという感じではないのですが、1年生のときにサークルをいくつか掛け持ちしていました。漫画を描くサークルだとか尺八を吹くサークルだとか。全部フェードアウトしましたが(笑)。2年生から野球のサークルに入りました。僕は高校まではずっと硬式野球部で、本当に命をかけて野球をやり、勉強は授業中しかしませんでした。そうした高校までの貯金があることで、草野球的なサークルに入ると、他の人よりも上手にできるという面もあり、楽しく活動していました。他の生活を野球のために変えたりすることはありませんでしたが、グラウンドを取れている2時間は、とにかく一生懸命にやりました。

サークルの夏合宿では、休むことなくバットを振りました。大広間でみんな飲み会をやっているとき、僕は飲み会に行かずに1日千スイングを目標に、バットを持って素振りに出ていました。「俺と一緒に素振りする奴は外に来なよ」と言うと付いてきた人が2人か3人は確かにいて、僕らがキャプテンをしていた代では、学内大会を勝ち抜いて関東大会に出ることができました。もちろん上手なメンバーが集まっていたということもあったでしょうが、飲み会せずにバットを振ろうと集まったメンバーがいたこともあると思います。何かほかに楽しいことを求めるのではなく、やろうと決めたことをやるというスタンスは一貫していました。先ほど話した専門性とか深めるということに通じると思いますが、僕の性質、特質みたいなものだと思います。

僕は小さい頃から勉強はよくできたほうなのですが、「なんで勉強をやらなければならないのか」と思ったことはありませんでした。「やれ」と言われているのだからやって、「一番取ったらいいんでしょ」と思っていただけなんです。ぐずぐずいう前に一回やる。明らかに不本意なルールにも一回従ってみる。従った結果どう考えても納得できなかったら、「僕が従っていたのを見てたでしょ。ここもあそこも全部やったけど納得できないことが多いので、おかしいです。どうか変えてください」と言うほうが説得力あるなと思って、そういう「やることになっていること」には全力を注いでいました。

大学に入ったら、やっぱり勉強が一番大切だと思いました。勉強って、やることになっていることの中では一番意味が分かるじゃないですか。野球もサークルに行っている時間は、そういう感じでちゃんとやっていた。尺八とかもフェードアウトしちゃったと言いつつも、行ったときには一生懸命に吹く練習をしていたんです。もちろん行かなくなったというのはちょっと弱い一面があったかと思うのですけれども、自分が何となくよく気が向くほう、選んだほうにはそこに参加して、参加したからには全力を尽くすというのが僕の大学のスタイルだったかなと思います。

バイトをたくさんやっていたわけではなかったのであまり遊びに行くこともなく、大学時代はだいたい勉強していました。そのかわり、土曜は昼過ぎまで思う存分録画した深夜アニメを観て、2時くらいから大学や図書館に行って勉強する、そんな感じでした。

僕自身も小中で6年間野球をやっていたこともあり、須貝さんの「やるときはやる」や、1日素振り千本などの大変さもよく分かります。両立は大変だったと思うのですが、メリハリも意識されていたのでしょうか。

そうですね、自分でメリハリだと思っていたわけではなかったのですが、結果としてはメリハリある生活ということになっていたかもしれないですね。

今のお話を伺って、残り半年ほどになった大学生活を充実させたいと、貴重な時間メリハリつけて気持ちを切り替えながらやっていきたいと思いました。

実体験で得たフィードバックが成功へのカギ

私自身大学時代に生物を主に勉強していて、小学校では少年野球に女子一人入って練習していたので、共感して楽しくお話を聞かせていただきました。
私は理学部で周りは院に行く人が多く、就活する少数派の人は、人と会えないので他の人の就活の様子が分からず、どのように就活すればいいのか悩んでいる人が結構います。そのように新しい環境に飛び込む際のアドバイスをお願いします。

僕はいわゆる就活みたいなものはやっていませんが、博士課程は学会で先生方とお話しするのが半分就活みたいなものなんですよ。「あ、〇〇研の須貝君だよね?」と言ってもらい、「そうです、僕はこんな研究をやっていて、こんなアイデアもあるんですが、先生のところ、これ詳しいそうですよね? 修了したときに、ここで修業させてほしいんですけれど」と言って、ポスドクなんかをそこの研究室でやらせてもらう。これって、学会に行かないとできません。
僕は就活がどんなものか分からずに話しているので違う面もあるかもしれませんが、僕のやってきたことが、多分エントリーシートを出して一次面接に行くようなことなのかなと思うと、そういうことはたくさんやったほうがいいですよね。物理学会って全然違う分野の先生、例えば自分が超伝導の研究をしているとしても、磁石の先生の所に話を聞きに行っても全然構いません。だから僕も、何言っているのかは全然分からなかったけれど、プラズマの話を聞きに行ったりしました。そういうふうに、何か別分野の会社にエントリーしてみるということもあっていいのではないかなと思います。

そこで意識してほしいのは、失敗するのは当然だということです。だって、今までその会社やその分野について調べたことがないのに、いきなり行って、上手に受け答えできるはずがないですよね。でも、何回も行けば、「あ、こういう業界なんだ」と徐々に分かってくる。また、行ってみて初めて、ツイッターやフェイスブックやインスタグラムでそういう職種を受けている人たちが見つかったりする。あるいは自分のサークルの友達が今回興味を持った職種を受けていたことを知る。現実を観察してフィードバックを得ることがすごく大事だと思います。

一回行ってみて観察してフィードバックを得るという気持ちで取り組む。一発目から成功するはずがないですよね。だって、準備してないのだから。入念に準備することが大事なのはもちろんですが、そういうある意味軽い気持ちで飛び込んで観察してくる、というのもいいかなと僕は思っています。
気軽にフィールドワークに出かけて、入念に石を見て、ここはこういう時代の地層だなと思って帰ってくる。そういう観察をするという態度で失敗しても、もう一回やればいいんです。何回でもできるというのが人生のいいところですから。

僕は大学入学前に1年浪人しています。よく「それ、挫折だったんじゃないですか?」と言われますが、僕はあまり挫折だったと思っていないんです。野球しかしていなかったので、東大に受かるはずがないんです。でも、僕は東大を受けに行きました。で、やっぱり落ちたんです。でも、それは当たり前のことが起こっただけだと感じました。だから、前向きにもう1年チャレンジした。失敗してできなかったことは普通もう一回やるんですよ。だって、学校ってそういう仕組みになっているじゃないですか。赤点を取ったら補習がある。受験も同じで、もう一度東大受けるかどうかはさておき、もう一回。僕はそう思ってやれたのですが、就活も同じ部分があるんじゃないかな。就活以外にも何か新しい分野にチャレンジするときは、まずは一回やってみる。新しい分野だから当然失敗するかもしれないけど、そのときにもう一回やろうとちゃんと思えるか。失敗してもやり直すぞと思って取り組むということを、チャレンジのときの心構えにすると、いろいろなことに挑戦できるんじゃないかなと思います。

ありがとうございます。それも、コツをつかんで楽しむということの延長だと思いました。

まずやってみよう、そして深めていこう

本気であることが人を動かす

須貝さんの大切にしていらっしゃる言葉があればぜひお聞きしたいと思います。先生やQuizKnockのメンバーの言葉、影響を受けた考え方、そういうものがありましたら教えてください。

最近、座右の銘が一つ増えました。「至誠にして動かざる者は未だ之れあらざるなり」という孟子の言葉です。「最も真心を込めた状態(至誠)にして感動しない(動かない)人は今までいなかった」、真心を込めれば人は必ず感動してくれる、という意味です。真心というのは、つまり「本気であれ」という意味だということに最近気付きました。「神は細部に宿る」と言いますが、本気の本気で細部にまでこだわって至上のものができたときには、必ず人はそれを見て感動する。逆に感動してくれないのなら、自分が手を抜いていたのだと思え、という考え方に感銘を受けました。手抜きは伝わるし、逆に真剣であったらそれも伝わると思います。そして、明日の活力、原動力に変わると思います。

最近は自分の仕事に段階があって、僕はまず、一度最後まで雑にやります。“Done is better than perfect.” (完璧を目指すよりまず終わらせろ)というマーク・ザッカーバーグの言葉の通りですね。まず適当に一回最後までやってみる。足りないところって、やればやるほど見つかるんですよね。研究も勉強もそうだと思います。90点を取ったけど、100点を取るためにはこれも、これもこれもと、さらに精進しなければならない。だからまず雑にやって詰めていく。詰まったと思っても、全然詰まってない。繰り返すたびに孟子を思い出して、さらに励みます。

励む理由は簡単で、それは僕にとって仕事だから。みなさんにとって基本的に勉強は苦行ですよね。僕もそう思っている面はあります。基本的には寝ていたいです。でも「楽しいからはじまる学び」を広めることが仕事だから「楽しく勉強せよ」と発信しています。

で、やるからには、もちろん命をかけて本気でやる。そうしたらその本気は伝わって、みんなも理科について学びを深めてくれて、その先にはいろいろな研究者のことをリスペクトを持って応援できるようなより良い世界が待っているはず。そういう世界に変えたいからこそ、僕はその言葉を座右の銘にして、毎日自分に「自分ははたして本気を出してやっているか」と問うているんです。

まずはやってみて、そこから人を動かすためには自分が本気を出していくところが大事ですね。意識していきたいと思いました。

感想になりますが、僕は自分の選んだ道がこれでいいのか分かっていないところがあったのですけれども、先ほど須貝さんがおっしゃったように、一度やってみてからでもいいし、深めてまた次の段階に行くということも大事だと考えることができました。そういう自分を高めることができる環境にいるということが、今すごく貴重な時間を過ごしているのだと気付けたので、今回お話を伺って有難かったです。ありがとうございました。

ありがとうございます。良かったです。

最後に、読者の大多数を占める若者世代、大学生世代にメッセージをお願いいたします。

僕からのメッセージは、一つです。大学生のうちは学びを深めることに注力できる時期です。学びは深めるからこそ広がっていく。穴って深く掘れば掘るほど、自動的に入り口が広がっていきます。そういう意味では、一生懸命広げることだけやっていれば大きな穴は掘れるのでしょうが、果たして自分は何に貢献できるんだろうかと思うときが来るかもしれません。だからこそ、大学生の皆さんには学びを深めることを意識して生活、勉強をしてもらえればと思っています。

「深める」ということが、読者の皆さんにもしっかりと響くと思います。貴重なインタビューをありがとうございました。

2022年7月1日 リモートインタビュー

PROFILE

須貝 駿貴(すがい しゅんき)氏

京都府出身、東京大学大学院総合文化研究科後期博士課程修了。学位は博士(学術)。2017年にQuizKnockに加入し、主にYouTube動画に出演。「ナイスガイの須貝です」が決めゼリフ。国立科学博物館認定サイエンスコミュニケーターで、視聴者と一緒にプログラミングや電子工作をする「須貝と作れるようになるLIVE」など、科学関連の企画が得意。学部卒業時には「一高賞」を受賞したほか、2018年には日本物理学会で「学生優秀発表賞」を受賞している。趣味は草野球とアイドル・声優の応援。

QuizKnock(クイズノック)

東大クイズ王・伊沢拓司が中心となって運営する、エンタメと知を融合させたメディア。「楽しいから始まる学び」をコンセプトに、何かを「知る」きっかけとなるような記事や動画を毎日発信中。YouTubeチャンネル登録者数は187万人を突破。(2022年7月時点)