編集者 竹中 万季 氏 インタビュー

社会的課題に取り組む

学びが日常と結び付く

私は関西北陸ブロック学生事務局として、社会的課題に関する活動をしています。竹中様ご自身も社会的課題に取り組んでいらっしゃいますが、興味を持ったきっかけを教えてください。

学生時代の私は、多分皆さんより社会的課題について何も考えていなかったと思います。自分が社会を構成する一人であるという実感もそんなになく、自分と周りの友達や家族さえ良ければいいと思っていた時期もありました。気候変動やジェンダーの問題も当時は友人の間で話に上がることがなかったし、戦争や紛争についてテレビのニュースでは見ていたものの、日本はそこまで関係がないとなぜか信じ込んでいて、なぜ日本に米軍基地があるのか考えたこともありませんでした。

考えるようになったのは社会に出てからだと思います。幅広い人と触れ合うことが増えたときに、女性というだけでどうしてこういう扱いをされるのだろうという素朴な疑問が積み重なっていったんです。女性だから求められる振る舞いがあったり、20代になったときに結婚について言われたり、「女性としての一般的な生き方」を求められるような空気に対してすごく疑問に感じるようになりました。

「She is」というメディアを立ち上げたときも、女性のメディアといえばピンク色で、美容やファッション、恋愛の話ばかりだなと疑問を感じていました。もちろん美容やファッションも大事だし自分も好きなのですが、同じようなテンションで選挙に行く話をしてもいいですよね。どちらも自分が生きていく中で関わることとしては等しいので、生活を潤すものも、社会で起きていることも、同じような温度で届けていきたいなと思うようになりました。

ジェンダーやフェミニズムをどんどん学んでいくと、セクシュアリティ、人種や立場など、こんなにも多様な女性たちが存在しているのに、自分は無意識に一部の女性のことしか考えられていなかったのかもしれないと考えるようになりました。ベル・フックスの「フェミニズムはみんなのもの」という本をきっかけにインターセクショナリティにまつわる本を読むようになって、今も学んでいる最中です。なので、私はフェミニズムを知ったことが、戦争や人権、気候変動などの社会的課題について関心を持つきっかけでしたね。

※インターセクショナリティ 人種やジェンダー、身体的特徴、出自など複数の アイデンティティが組み合わさることによって人々が経験する差別や抑圧を可視化し、理解するために生み出された言葉。20世紀後半に フェミニズム理論 として提唱された。

私の大学は女子大なので、そういう授業が結構概論であって触れはするのですが、その時には面白いなと思っても学び終わったら日常生活と切り分けてしまっていました。

私も今思えば学生時代にフェミニズムやジェンダーを学ぶ機会になる授業を受けていた気がするのですが、不思議と自分の日常と分けて、忘れてしまっていました。でもその場ではつながらなくても、学んだことの実感を持てる瞬間は後からやってくることが多いと感じています。森田さんも、授業での学びが意外と後からやってくるかもしれません。

人との共通項を探す

社会的課題に取り組んでいく中で、自分に見えているところは分かるのですが、ほかの人の視点とどう共感していいのか分からなくなる時があります。竹中様は人と対話して協力するということにどういうふうにつなげていらっしゃいますか。

確かに自分も「考えるべきなのに考えられていなかった」ということが日々出てきています。今、森田さんがおっしゃったように、みんなそれぞれ見ているものがあって、本当にいろいろな社会的課題があると思うのですが、今自分自身にとって切実に取り組みたいと思えるものがそれぞれ異なっているからこそ活動できていることはすごくあると思います。

みんなが世の中に存在しているゼロから百まで全てのイシュー(課題・問題)に対して、均等に同じ分量の関心と行動を注ぐというのは絶対不可能で、継続して活動することが難しい瞬間もあると思うのですよね。すると辛い気持ちになることも多いと思います。

世の中に存在しているゼロから百まで全ての課題・問題に対して、みんなが均等に同じ分量の関心と行動を注ぐというのは絶対不可能ですよね。以前、東大の教授でフェミニズムとクィア理論を専門とされている清水晶子さんにインタビューしたときに、「ゼロか百かというメンタリティから離れて、自分と違うかたちで抵抗している人をなるべく否定しないことが大事」「辛くなったら休み、周りの人と穴を埋め合う」という話をしてくださったのが印象に残っています。みんなの関心が少しずつ違い、周りの人はやっていない方法で自分は今これをやっているというように、その輪が広がるほど穴が埋まっていくのだと思いました。

※清水晶子 東京大学大学院総合文化研究科(超域文化科学専攻)教授。人文科学の研究者。専門はフェミニズム、クィア理論。

それぞれの社会的課題、それぞれの視点、それぞれのやり方を否定しないということを前提に自分と他者を見ると、実は共通している部分があるということがあるように感じています。そうした共通項を探してみるといいのかもしれません。

興味を持たない人を巻き込む

興味を持っていて一歩進んでいる人が、どうしたら興味を持っていない人を巻き込めるかというのが今の課題です。

私の周りにもデモを開催したり国へ訴えかけたりするような直接的な活動をしている人がいて、そうした率いていく人たちの行動があるからこそ社会が変わっていくと思っています。一方で、私自身は自分の今の強みを生かして行動するための方法を考えている中で、全く興味を持っていない人にどう届けるかは今後より取り組んでいきたいと思っています。

全く興味を持っていなかった頃の自分を想像して「あのときの私なら、こうであれば興味を持つのではないか」という視点で見てみたり、今の自分が切実に悩んでいることとのつながりからアイディアを考えたりすることは、私も普段の仕事の中でよくやっています。今もより広く届けるための企画をメディアで計画中なので、良かったらみなさんにも見ていただきたいです。