ウェブマガジン・コミュニティ「me and you little magazine & club」を運営する竹中万季さんは、個人と個人の対話からその想いや感情を発信し、社会構造にまで目を向ける活動をしています。しかし、学生時代は人と話すのが苦手で、人間関係に難しさを感じていました。今回は全国の大学生協の活動テーマとも共通する「対話」を軸に、竹中さんの考えをお聞きしました。
全国大学生協連
全国学生委員会 委員長
髙須 啓太
(司会/進行)
全国大学生協連
全国学生委員会
藤島 凛香
大学生協 関西北陸ブロック
学生事務局 副学生委員長
森田 葵
(以下、敬称を省略させていただきます)
お忙しい中、お時間を作っていただきありがとうございます。また先日は全国大学生協連が行う全国読書マラソン・コメント大賞※の選考会にご協力いただき感謝申し上げます。
本日は学生委員3名でインタビューをさせていただきます。私は全国学生委員会の委員長を務める髙須啓太と申します。岐阜大学を昨年の春に卒業しました。よろしくお願いいたします。
同じく全国学生委員会の藤島凛香と申します。今春、東北学院大学を卒業いたしました。
全国学生委員で関西北陸ブロック学生事務局の副学生委員長をしております森田葵と申します。奈良女子大学の4年生です。
竹中様はご自身も生協学生委員を経験されておりよくご存じかと思いますが、全国に219の学生委員会があり、9,074人の学生委員(24年5月現在)が多岐にわたる活動をしています。
2025年の全国の大学生協の活動テーマは「つながる元気、ときめきキャンパス。〜組合員との対話を大切に『みんな』でつくる大学生協に〜」とあるように「対話」を重要視し、アンケートなども結果だけに注目しないで、その裏にある組合員の願いを深め合うことを目指しています。
竹中様はメディア・コミュニティ「me and you little magazine & club」の運営や、企業や団体とともに社会が抱える課題について考えるプロジェクトなど手掛けておられます。また、様々な方との対話を通して社会的課題に目を向け、個人の小さな声も大切にしながら人の温度感や想いを伝えるよう努められています。本日は「対話」をキーワードに、竹中様のお考えをお聞きしたいと思います。
全国大学生協連が実施した第60回学生生活実態調査によると、大学生の1日の読書時間は63.1分と5~10年前の水準より増加しており、全く本を読まない学生は45.6% と前年の47.4%よりも微減しています。竹中様は本を通じた発信もされており、日常と読書をどのように結びつけられるのかもお伺いしたいと思います。
全国大学生協連「第60回学生の消費生活に関する実態調査」(2024年)より
回答者数11,590人(30大学生協)
竹中万季と申します。2007年に慶應義塾大学に入学しました。推薦入試で合格した時に生協学生委員の方々が「推薦生のつどい」を開催してくださり、それが大学生との初めての触れ合いで「大学生になったらこんな企画を立てられるかっこいい人たちがいるんだ」と感動して生協学生委員会に入りました。あまり積極的に活動したわけではありませんでしたが (笑)、当時の友人とは現在もつながっており、いいご縁をたくさんいただいたなと思っています。
2021年に「me and you」という会社を立ち上げました。メインの仕事は編集者で、自分たちのメディア・コミュニティの運営とともに、企業や団体などに対してクライアントワークと呼ばれる制作の仕事などもしております。よろしくお願いします。
対話をする中で竹中様の想いに共感する人を増やすために心がけられていることがありましたら教えてください。
私は元々人と話すことが得意なタイプではなかったんです。対人関係で悩むことが多く、すごく考え込むタイプでもあるので、中高時代はグループワークが本当に苦手でした。人とコミュニケーションをとって進めていくのが難しくて、自分はそうした方向に向かないなと思っていました。
大学を卒業してから広告系の会社に就職して、大勢の人と関わりながらチームで何かを作っていくような仕事をすることになりました。大学生の頃もサークルやバイトやインターンで誰かとものを作るということにチャレンジしてはいたのですが、やはり意見を言い合うような時に、どうすればその場の話が前に進んでより良いものが作れるかというのがどうにも難しくて。難しいからこそ、対話やコミュニケーションのことがずっと気になっていたのかなと思います。
ご本「わたしを覚えている街へ」やインスタグラムを拝見させていただく中で、竹中様は対話についてすごく前向きに捉えられていると感じたのですが、元々は後ろ向きだったということですか。
おっしゃる通りです(笑)。ふと気づくとたくさんの人と関わる仕事に就いていたのですが、元々は一人で部屋にこもって自分の好きなことをしているのが楽しいと感じるタイプでした。幼い時も一人で絵を描くのが好きでしたね。人との関わりに難しさを感じる瞬間が多くて悩んできたからこそ、そこに面白さを感じるようになったのかもしれません。
特に会社員になってからは、上下関係ではなく対等に話し合えるいい出会いにたくさん恵まれました。自分一人では絶対に思いつかないようなアイデアを得たり、自分はやらなかったであろうことを「やっちゃおうよ」と言ってくれる方がいたり。それまで一人で生きているような気持ちになっていたけれども、人は生まれた時から誰かと関わりながら生きていて、今いる環境も誰かとの関係性によって成り立っていることを、大人になるにつれて実感していったという感じです。
そうした難しさを感じながら、CINRAという会社で働いていた時に同僚の野村由芽とたくさんの対話を重ね、「自分らしく生きる女性を祝福する」がコンセプトのライフ&カルチャーコミュニティ「She is」を立ち上げました。自分たちの想いに対して共感してくれる方がきっとこの世界のどこかにいるのではないかという気持ちで、がむしゃらにやっていましたね。現在は野村と共に「me and you」という会社を立ち上げて活動しています。本当に様々な人との関わり合いの中で活動ができているなと思います。
「共感」はとても大事なことではありますが、共感できることは盛り上がる一方で、共感できないとなると衝動的に人に辛く当たるような投稿もSNSなどで多く見られます。「me and you」はコロナ禍に始めたのですが、当時は会うことができないので今よりもテキストコミュニケーションが中心でしたよね。断定や二項対立的な言い方が蔓延する中で、共感を増やしていこうとするムードが逆に対立や分断につながる瞬間もあるということに気づかされ、すごく難しさを感じました。
今の活動では “異なりながら共にいること”を大事に考え続けています。自分も共感や分かり合うこと、心と心を通わせるつながりで得られる安心感は大切だと思っていますし、そうした場所を育んでいきたいと思っています。同時に、どんなに近いと感じる人でもすべてにおいて共感することはできないということや、まったく異なると感じる人とこの世界で一緒に生きているということについて考えることがここ数年で増えました。これからも考え続けたいことの一つです。
竹中様自身、対話にネガティブな感情を持ったときにはどう前向きにとらえるようにされているのでしょうか。
「She is」も「me and you」も、私と野村が2人で立ち上げました。私たちは仲のいい友達っぽさもありつつ、やはりビジネス上のパートナーでもあります。どういう場所を作っていきたいかという点では強く共感しながら活動していますが、もちろん違う人間なので、意見が異なることもあります。
例えば、さまざまな人間関係の中で、同じ言葉を全く違うように捉えていたとか、自分が誠意を感じる行為を相手はそう思っていなかったとか、信頼関係に影響が与えられることはよくあることだと思います。だから「me and you」をやっていること自体も、関係性の練習だなと思うんです。
一人が強い権限を持って進めるプロジェクトもあると思いますが、「me and you」の活動は異なる2人の意見の交し合いから生まれています。もちろん時にうまくいかないこともありますが、私個人としては、信頼していて継続していきたいと思う相手であれば、違和感をそのままにするのではなく、勇気を出して話し合うことは大切だと思います。
対話にネガティブな感情を持ったときという質問について考えたのですが、どんなシチュエーションでも自分の方だけが努力して対話しなければいけないのかと言われると、そういうわけではないと思うんです。以前、三木那由他※さんの『言葉の展望台』というエッセイを読んでハッとしたのが、同じ言葉を使っていても、関係性や状況によって異なる意味合いを持つことがあること。それについて映画や漫画などを事例に出してすごくわかりやすく書いてくださっている本で、対話はいろいろな構造の中で生まれていくものなのだと、立ち止まって考えました。
※三木那由他 言語やコミュニケーションを専門とする哲学者。
そもそも違う環境で育ってきて、言葉の意味や捉え方も違うかもしれない。こっちが一方的に話しても向こうがその気でなかったら、それこそ信頼関係を築けないということにつながることがあり得るので、改めて対話って難しいと思いました。
LINEやSlack、Xなどのテキストコミュニケーションでの会話はなおさら難しいですよね。自分が本当に信頼している相手だから受け止めてくれるだろうと思って送ったのに、相手には違ったふうに捉えられてしまって、既読のまま返事がこない……ということもよく聞きます。
例えば感情が溢れてLINEで「なんでだよ」と書いたら対話が止まってしまうこともあるかもしれないですが、対面で話したら表情や雰囲気で伝わるものもあると思います。オンラインメディアを運営している身ではありながら、どうしてもオンライン+テキストではかなわないことが存在しているなと感じています。
ラインやXは便利ですが、ちゃんと伝えたいときや感情が高ぶっているときには声に出すということが大事なのではないかと、今の話で思いました。