編集者 竹中 万季 氏 インタビュー

発信方法に求めること

竹中様が発信される時に意識していることをお伺いしたいと思います。想いがあるから伝えていきたいけれど、共感を拡げるのは難しい。演説し説得力のある伝え方が必ずしもいいわけじゃない。竹中様は問いかけや気づきを与えるような優しい発信の仕方をされているように感じています。

私自身、性格的にそこまで確証を持って物事を言えないようなところが結構あるんです。それこそ社会人になったばかりのときには、プレゼンをする際も「竹中さん、内容はいいのだからもっと自信を持って堂々と伝えてくれ」と言われました(笑)。

もちろん絶対的に確信を持って言うべき状況では堂々と言えることが大事ではありますが、立場や経験によってその内容がどう捉えられているのか分かりづらいときには、なるべく言葉を尽くすようにすることも心掛けていることの一つですね。確信めいた言葉が多い世の中でそういう人がいてもいいかなと思っています。

今世の中では言い切り型の言葉が注目を浴びています。動画メディアなどを見ても、タイトルは面白そうなのに開いてみたらがっかりすることもありますよね。いくら注目を集めたくても、私は騙したり陥れたりするようなことをしたいとは思えないタイプなので、センセーショナルに注目を集めることを目指すよりは、じわじわと沁み込んでいくようなやり方があってもいいのかなと思っています。自分自身の信念にはなるべく誠実でありたいと思うので、齟齬がある発信をしていると、きっと後で辛くなるのではないかと思います。

自分も端的にこのパワーフレーズがあるからいいなと思うこともあるのですけれど、それってフレーズに惹かれただけと思うことがあります。でも発信とかプレゼンでは、どんなふうにしたらインパクトがあるかを結構考えます。迅速に発信したいものとじわじわとしっかり伝えていきたいものは場合によりけりかなと思いました。

読書について

最初に髙須からも申しましたように、現在の大学生はなかなか本を読まないという傾向があります。大学生の日常的な楽しみの中で読書を位置づけるためにはどうすればよいと思われますか。また、竹中様は読書のどのような点に楽しみを見出していらっしゃいますか。

一番読書していたのは小中高時代でした。図書館に行くのが大好きで、いろいろな時代の小説を読んだり、難しい哲学の本を読んでみたり、ちょっと背伸びした本もたくさん手に取っていたので、当時は自信を持って読書が趣味だと言えていたと思います。

友人の中には大学時代に一番本を読んだと言う人もいますが、私自身を振り返るとかなりおろそかになってしまって、読書をしていた記憶があまりありません(笑)。ただ本がある空間が好きだったので、本屋さんでバイトしたりインターンをしたりもしていました。読む時間は減ったものの、本には結構関わっていたと思います。

大学時代は自分が動けばいろいろと新しいことに挑戦できますし、人との関わりも増えて、様々な楽しみに触れることもできる。時間も自由に使えるその期間に「読書をしなくては」といった思いだけで読書するのは結構難しいかもしれません。電車の中でスマホを見るかわりに通学中だけ本を読んでみようとか、そのくらいの時間の使い方が合っているのかもしれませんね。

また、お気に入りの本屋さんを見つけるのもいいかと思います。ここ数年、独立系の書店で面白いところがすごくたくさん増えています。同年代の人が作ったZINEとかミニコミを売っているお店もあり、ページ数が少ないので短い時間で読むことができそうです。

※ZINE(MagazineまたはFanzineの略)とは、個人または少人数の有志が、非営利で発行する自主的な出版物。

そういうお店には雑貨も売っていたり、カフェが併設されていたりするところもあって、楽しいですよね。また、作家の方が来るイベントをやっているところも多く、本を読んでいなくても参加できるものもあると思うので、悩みや関心についてスマホで検索するのもいいけれど、そうしたイベントに足を運んでみるのも面白いかと思います。

一回イベントに行けば、あとは連鎖してそこに出てきたほかの本や同じ作家の別の本も気になったりすると思うので、一つきっかけがあるというのがすごく大事だと思います。やっぱり行く場所があるというのはすごくいいことだと思うので、もちろん生協さんの書店もありますし、身近な街の本屋さんに行ってみるのもいいかなと思います。

読書のどのような点に楽しみを見出しているかという質問については、読書をするという行為自体、知的好奇心が満たされているような感覚になるので、そういった純粋な楽しさがあると思います。

もう少し違う意味では、例えば友達や学校や今後の人生などについて悩んでいるときに本を読むと、目の前だけではなく、何か大きな世界の中に自分がいる感覚になると思います。悩んでいるときにたまたま手に取った本から、直接的に関係あるわけでもないのに意外にも世界の広さを教えてもらい、明日からはこういうふうに生きてみようかなと思えるようなヒントをもらえたりする。読書には知的好奇心が満たされる喜びと、生き方のアイデアを与えてくれる発見の二つの楽しみがあると思います。

就活本など、直接的な解決策が書かれている本も多いと思いますが、全然関係ない小説や新書などに意外とヒントが詰まっていると思うので、生協の本屋さんでも「この悩みに意外な提案」みたいな企画があったらおもしろそうです。

若者世代へのメッセージ

最後に読者の大多数を占める今の若者、主に大学生世代に向けてのメッセージをお願いいたします。

小中高時代は課外活動をしていなかったこともあり、大学生になってからは自分が興味を持ったものにたとえ失敗してもいいという気持ちでどんどんいろいろな場所に顔を出していました。正直にいうと、当時は長く続けられなかったことや、すごく失礼な感じでやめてしまったこともあったんですね。「自分って本当に長続きしない人間だな、なんて散漫でまとまりがないんだろう」と落ち込む時もありました。

いろいろなことに挑戦できて楽しい気持ちと同時に、自身の不確かさに不安になることが多かったのですが、当時関わっていた本や編集、アートや音楽にまつわる活動で出会った方々とのつながりが今も生きていて、そこから仕事を共にすることもますます増えてきていますし、今自分が行っている仕事は学生時代にちょこちょこやっていたことの点と点がつながったようなものだと感じる部分もあります。

大学生は失敗や間違いをしてもある意味許される、トライアンドエラーが一番できる時代でもあるかなと思います。その時に一生懸命やって失敗して落ち込んだとしても、時間が経てば解決することもあると思うので、ぜひいろいろと興味を持ったことにチャレンジする時間を過ごしていただきたいなと思います。

今日はいろいろなことをお話しいただき、本当にありがとうございました。

私も楽しかったです。ありがとうございました。

2025年5月13日 リモートインタビューにて

PROFILE

編集者 竹中 万季

1988年、東京都出身。慶應義塾大学文学部卒業後、広告会社勤務を経てCINRAに入社し、2017年にコミュニティメディア「She is」を同僚の野村由芽氏と立ち上げる。2021年、野村氏と共に独立して「me and you」を設立し、代表に就任。個人的な想いや感情を尊重し、社会の構造まで考えていくウェブマガジン・コミュニティ「me and you little magazine & club」を運営。

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