途上国のニーズを集めるのは、どのような方法で行うのですか。
それは国によりますが、協力隊を派遣している国にいるJICAスタッフが、御用聞きをしてまわるというのが一つ。あとは、日本だとJICAを知らない人が多いですが、長年支援をしているので、皆さんが思っている以上に途上国でJICAは有名です。そのため、先方からJICA事務所に海外協力隊の派遣の要請をいただくこともあります。あとはJICAとして、途上国で様々な事業を行っていますが、JICAが途上国政府と一緒に取り組む事業と連携する形でボランティア派遣の要請があったりもします。
いろいろな要望を頂きますが、途上国の要望だけを聞いていても日本の応募者とマッチングしないことが多々あります。例えば、竹細工ができる人に来てほしいとか、養殖ができる若い人に来てほしいとか、かつてはそういった農業、水産、職業訓練関係の要請が多かったのですが、今は日本で公募してもなかなかそういった知見を有する人はいません。現地の要望にも応え、かつ日本の応募者の知見にも合致する分野として最近増えてきている職種として環境教育があります。日本はリサイクルが進んでいるし、行政サービスや教育が行き届いているのでそもそも街にゴミがない、それは途上国の人にとってはとても驚くべきことです。
次にニーズが多い職種としては、青少年活動があります。途上国は子供が大変多いので、なかなか教育が行き届かないし、ドロップアウトも多く、仕事もない若者が増えていることが社会問題になっている国もあります。そのような国では、現地の子供たちが人生を生きる目的や手に職を持つことができるようにするために、その手助けをする青少年活動分野の海外協力隊員の要望も多くいただいています。
やはり人間は夢がないと生きていけないですよね。私はウガンダという国にいたことがありますが、国境を接している近隣国の一部では武力紛争や略奪等が現実として存在しています。それらの地域から逃げてきた人たちがウガンダ国内に難民として多く滞在しており、ウガンダ政府はそれらの難民のために居住地域を整備し様々な人道支援を行っています。ただし、いくら衣食住が確保されていても、夢を持てない、未来が描けないと、特に若者の一部は将来に絶望してドラッグや自殺、犯罪に走ってしまうケースもあります。そして中には母国の国籍を得られず無国籍の方も中にはいらっしゃいます。無国籍であることで移動の自由や、就職・職業選択の自由が大きく制限されることがある。そういう世界があります。
ウガンダは一例ですが、ウガンダに限らず未来を担う若い人たちが夢を持てなくて、生活や身を持ち崩すというのは、社会の不安定化につながりますし、やはり国としても対応しなければいけないということで、青少年活動の要請が増えています。具体的にはストリートチルドレンなどの恵まれない境遇にある青少年をサポートする施設で青少年への支援や各種イベント等を実施するといった要請が多くあります。日本でのボーイスカウト経験や、大学のサークル運営の経験、もしくは音楽やスポーツの経験者がそういった施設で大変役に立ちますので、学生の方がこのような要請に多く応募いただいています。
あとはコミュニティ内での生計向上のために地域おこしをしてほしい、地域の特産品を見つけてアピールしてほしい、地域の魅力や特産品をSNSで発信してほしいなどの要請も多くあります。大学生でも応募できる要請はたくさんありますので、是非一度海外協力隊のホームページをご覧ください。きっとあなたを必要としている要請に出会えるはずです。
JICAのホームページを拝見した際に、野球経験者が途上国に行く体験記が掲載されていて、野球を教えることもですが、スポーツを通してチーム競技における協調性みたいなものを育てることの方が比重として大きいのでしょうか。
日本の競技スポーツの場合、勝てば何をしてもいいという指導や教育はありませんよね。だから日本でスポーツに取り組むなかで自然と身につくそういった目的意識、チームワークや頑張ること、諦めないことの大切さとか、チームスポーツだったらロジカルに分析をし、戦略も考えないといけないとか、お互いに尊重しあうスポーツマンシップだとか、そういった日本人が何気なく身に着けている教育や姿勢が多くの途上国で評価され、是非日本人に来て欲しいという要望を多くいただいています。
最近では、多様性や誰も取り残さない重要性が謳われていますが、障害者スポーツや女子スポーツの育成に取り組むことで、そのような社会の実現に貢献することに力を入れています。
他国をみると実は政府のボランティア事業としてスポーツ分野の協力を扱う国はほとんどないのですが、日本の海外協力隊では発足時からスポーツの価値を認め、スポーツ分野での海外協力隊員の派遣を継続しています。スポーツを通じ、人間として他者を尊重し、相互に信頼をして成長する、そういった社会性を学ぶものとして重視しています。日本の武道についても多くの海外協力隊員を派遣しており、柔道、剣道、空手、合気道、少林寺拳法などの分野でも、継続して派遣をしています。その胆は精神的なところですよね、「敬う」というところ。そこを大事にしている事業だと思います。
参加する方はどのような人が多いのか、若い世代や学生で特徴があったりしますか。
協力隊に参加する年齢層で一番多いのは、20代後半から30代前半で、次に多い世代は60代になります。大学生の参加がまだ限定的である理由としては、やはり経験を求める要請もまだまだ多いからだと思います。例えば学校の先生だったら、教員免許を取ってすぐに海外協力隊員として派遣される人もいますが、やはり経験ある先生に来て欲しいという国も多いです。医療分野、例えば看護師を海外協力隊として派遣する場合には、人の生命にも関わるところなので実務経験は必須としていますので、看護師として海外協力隊員に参加する場合には、4、5年くらいは経験が必要となるケースが多いです。看護師に限らず、やはり大学を卒業して4~5年社会経験を積んで海外協力隊に応募する方が多いので、結果として参加する際には20代後半から30代前半が多くなります。
子育てなどが終わり、改めて自分のやりたいことはなんだろうと考えた時に、海外に行ってボランティアをしたかったという思いがあったシニア層の方などが、多く手を挙げてくださり、次に多い層になっています。
とはいえ、実務経験がなくても応募できる要請もありますので、大学生や大学を卒業してすぐ参加される方も比較的多いです。アフリカなどでは先生が足りないため、教員免許がなくても小学生に算数や体育、理科を教えてほしい、というニーズが結構あります。またスポーツ関係も、上記のとおり教育的な価値が高くニーズがあります。途上国の体育教育は、体系立てていろいろな種目を指導したり、チームワークやリーダーシップを育むということが弱かったりするので、体育教員の要請や、その国の特定の競技レベルを上げるために、その強化が必要な種目のコーチが欲しいという要請も多いです。
環境教育やコミュニティ開発の一部の要請では、日本で高等教育を了していて、元気でやる気のある人に来てもらえれば対応できるケースも多いです。なぜなら現地の方からすると、そもそも大卒の人材が貴重ですし、現地では知りえないような情報を知っていたり、なによりも外部の目はすごく大事で、地域の人にとっては普通のことが、外部の人から見ると際立って魅力的なことなどがありますよね。そういったことを発見して、しっかりと地域の価値として対外発信していくことは現地にとってはすごく助かるのです。ですので、繰り返しになりますが必ずしも社会経験や資格を必要としない要請も多くあり、若い学生の方が手を挙げて参加してくれています。
学生で参加される方はいろいろなパターンがありますが、一つは国際協力を自分のキャリアにしたいという人たち、例えば将来は国連の職員になりたい、UNHCRに入って難民支援をしたい、ユニセフに入って世界の子供たちに支援をしたいです、とかね。WHOに入って世界のパンデミックに立ち向かいたい、あとはJICAの専門家になりたいとかいう方もいます。そういう人たちが、国際協力のキャリアの最初の一歩として海外協力隊を選択しています。
もう一つのグループは、自分が成長するために様々な経験をしたいという方たちです。海外でポランティア活動をすることは大きなチャレンジだし、想像できないことがたくさんあります。派遣される地域によっては電気も水もなくて、ソーラーパネルで携帯やタブレットを充電し、水は井戸まで何分も歩いて汲みに行くとか、そういった生活が必要な場所があります。日本ではまず経験できないようなことを経験しながら、現地で求められていることに対して少しでも出来ることをする、そのような経験を通じて自分の殻が破れて、一回りも二回りも大きくなることができます。
このグループの中には、やりたいことがわからないけど、とりあえず外に行って経験してみることでやりたいことが見えてくるのではないかとか、語学を一つしっかりと極めたい、成長する機会として協力隊に参加したい、その先どう進むかは未定だけど、とりあえず自分で飛び込んで挑戦することで次の道が見えるんじゃないかと、まず一歩踏み出したい人たちも多いです。
最後は、もう少し目標がクリアになっていて、自分は社会のために人生を使いたい、一度だけの人生だから、誰かのためになるような仕事を自分のライフワークにしたいと考える人たち。国内外を問わず、何か社会のためになるような人材に自分はなりたい、だけどまだ一学生であって経験値が足りないから、経験を積みたいと。二つ目のグループと似ているけど、もう少し方向は定まっているグループ、結構今はここが増えている感じがしますね。
似たところで、自分は社会起業家になりたい、社会を良くする、もしくは社会の厳しい部分を少しでも緩和することを、社会事業を通じてやっていきたいので、その一歩としてJICA海外協力隊に参加してみて、どこまでできるのか自分の身一つで頑張りたいという人たちもいます。大学とは違い、協力隊は60代の元学校の校長先生や、エンジンの技術者で南極基地で働いていた人、サッカーでインターハイに出た人、臨床検査技師、理学療法士、これまでの環境では会うことのない人たちと会える、そこで刺激をもらえるということが、何か事業をしたいという場合に絶対プラスになると考えて、集団で刺激を受けながら成長し、ネットワークを築いて、帰ってきたら起業したいという人も増えてきていると思います。
目的がはっきりしていないけど経験をつけたい人の場合、実際に派遣されて何もできなかったということはないのでしょうか。
やはりスクリーニングはしています。マッチングをする際の合格率が、大体五割くらいですかね。派遣される要請先で貢献したい、頑張りたいという気持ちがあって、それがなぜ可能なのか、様々な選択肢の中でなぜ協力隊なのか等、しっかり自分の言葉で説明できるかどうか確認しています。
あとは良い面も悪い面もありますが、日本人の性格としてボランティアで行くと決めて合格すると、少なくとも家族や友達にはそのことを報告しますよね。みんなに海外でポランティアを頑張ると言った手前、頑張らざるを得ない。そういうプレッシャーはやはりあると思います。実際に現地に行ってみると、現地の人の方がよくできるし、経験もあるし、当然だけど言葉も喋れる。かたや自分はあまり言葉も喋れないし、経験なさすぎて何をしたらいいのかわからない、こんな状況で来てしまって申し訳ないのに現地の人はすごく助けてくれる。自分は全然貢献できていないことが、情けないし申し訳ないけど帰れない、みたいな。
何か日本を背負って来たみたいな感じでしょうか。
本当にそうで、日本政府の事業ですので、受け入れる側も日本政府から派遣されているという認識になります。着任した時は国によっては現地の外務省に挨拶に行ったり、自分の任地の知事や市長を表敬訪問したり、その様子を現地メディアが取材し、新聞に顔出しで掲載されたりすることもありますから、プレッシャーですよね。頑張らざるを得ない。ただ、そこで逃げずに頑張って乗り越えることは大きな経験になって、皆さんすごく成長します。2年間で見違えるほどに変わるんです。だから募集広報ではどうしてもその苦労を乗り越えた後のすごくキラキラしたところを見せることが多いですが、そこに至るまでには、各自が歯を食いしばって耐え、涙を流しているということもあったりします。