JICA青年海外協力隊事務局 内山 貴之 氏インタビュー

派遣中の活動

内山さんが見た状況

内山さんご自身の活動された職種や、現地の派遣先の状況などのご経験についてお伺いしたいです。

私自身は残念ながら海外協力隊に参加したことはないんです。ただ、大学生の頃に海外のポランティア団体のプログラムに参加して、南部アフリカのモザンビークという国で公衆衛生の活動をしました。JICAに入ってからは、マラウイという南部アフリカの国と、昨年まではウガンダという東アフリカの国に駐在していました。いずれの国も海外協力隊員が多くて、70人から80人くらいいました。本当にさまざまな職種で多種多様のバックグラウンドを持つボランティアが奮闘していましたね。

海外協力隊員の任期は原則2年間ですので、最初からフルスロットルでは活動できないというのもあるし、そもそも現地のことを知らないから、自分の経験をそのままやることがベストじゃないので、最初は勉強して、現地のことを知る期間が必要だったりします。そういった意味では、最初の頃は苦しんでもがいている人たちは多いし、それを乗り越えてエンジョイしている人もいれば、最後まで苦労している人もいるし、本当に人ぞれぞれです。海外協力隊に応募した時の目的意識や自分で設定するゴールにもよると思います。

日本の学校の先生が、休職して参加するとか、日本の企業でボランティア休暇を使って参加するなど、現職で参加する人は3割くらいいるのですが、そういった人たちは、参加した後にその先のキャリアを自分が切り開いていくというよりも、在籍する職場に戻って海外協力隊で得た経験を還元していくことになります。

派遣中の過ごし方

マッチングして派遣されるわけですが、実際に現地で全く違う仕事をしている人はいらっしゃいますか。

基本は要請があって派遣しているので、中学校の先生で着任しているのなら、もちろん中学校の先生として活動することが前提となります。ただし、途上国の多くでは部活動というものはあまりないので、学校は早く終わりますし、休暇中は先生も子供もすっかりいなくなります。そのような学校が休校の時期には、みなさん創意工夫して様々な活動をしていますよ。学校が休校の間も当然子供たちは村にいるので子供たち向けのスポーツ大会とか、日本文化の紹介とか、他の職種の海外協力隊員の手伝いをしてみたり、場合によっては休暇を取って隣の国の同期隊員のところに遊びに行くとか、人によっては自分の任地以外の学校での課外授業とか、支援をつのって図書館を作ろうとか、いろいろな他の活動をしている人もいます。

基本的に決められたこと以外は、現地でどう過ごすかも含めて派遣されたその人次第ですか。

2年間どう過ごすのかは、本人次第です。ただ日本の代表でもあるので、公序良俗に反することや名誉を汚すようなことはしてはいけません。ルールは守った上で、自分の趣味や特技などを通じて、余暇や週末などを利用して様々な活動をしている隊員は多いですね。

JICA海外協力隊の任期を終えて

派遣後の進路

帰国後の進路についてお聞きしたいのですが、キャリア志向の人はその道に、休職していた人は復職をそれぞれ選ばれることが多いと思いますが、やりたいことを見つけたいと参加された人は、帰国後にどのような道に進まれることが多いのでしょうか。

これは人それぞれですが、やはり就職するという人が多いですね。例えば、ゆくゆくは起業したいと思っていても、起業資金を貯めるために就職する人もいるし、ボランティアでの経験を基に勉強した上で独立したいという人もいるし、海外で経験したことを糧に、自分がやりたかった業種にチャレンジして就職する人もいます。あとは、海外協力隊員の採用枠がある自治体も多いので、採用試験を受けて公務員や教員になる人もいるし、調整をしてたくさん失敗を経験しているタフな海外協力隊経験者を是非採用したいという民間企業も増えています。

あとは現地に惚れ込んで、また派遣された国に戻る人も一定数います。現地の日系企業に就職する、現地の日本大使館に就職したりするケースも多いです。教員では海外の日本人学校のポストに応募する方も多いです。自分の任国で起業した人や伴侶を見つけた人もいますよ。だから人生は何が起こるか本当にわからないですね。

派遣国の布地に魅せられて、それでアパレルブランドを立ち上げた人もいるし、現地でレストランを興す人もいる。モバイルマネーを使った井戸料金徴収システムを開発してそれで起業する人もいたし、途上国は糖尿病患者が多いので、3Dプリンターを使い、通常の1/10の価格で義足を作るビジネスを立ち上げた人もいます。現地に行ったからこそ気づくことや出会いによって、各々が多種多様なキャリアに進まれていますね。

JICAに関わり続ける

帰国後に、再度派遣されたり、またJICAに入られる方はいますか。

長期ポランティアに行くことは2回までなら可能ですから、20代で1回海外協力隊に参加して、定年になって60歳でもう1回という人もいますし、親子で協力隊という人もいますね。

青年海外協力隊事務局の橘事務局長は元海外協力隊員です。海外協力隊を経験した後に、日本の国際協力に携わりたいとJICAを就職先に選ぶ人もいます。JICAの職員以外にもJICA専門家や、企画調査員という海外で協力隊のニーズを開拓し派遣隊員をサポートするポストもあります。海外協力隊を経験した後に、そのサポート側として派遣されるというキャリアもあるわけです。

JICAのサイトに「PARTNER」というページがあるので、そこを見ていただくと、いろいろな求人を掲載しているので、イメージしていただけると思います。あとは、各都道府県に「JICAデスク」というのがあり、国際協力を推進する人材をJICAが募集し、採用した上で各都道府県に派遣しています。その方々は、7、8割くらいがボランティア経験者ですね。かけがえのない経験をしてきたから、その情報を提供することに携わりたいという人だと思います。

経験者同士のつながり

それもJICAでというか、協力隊を経験したからこそ得られるというか、出会いがきっかけですよね。

たくさんの選択肢やキャリアについて、いろいろなロールモデルがあります。考えるだけで悩んでいても回答がでませんが、実際に様々なキャリアを積んでいる方と出会うことでご自身のキャリアが明確になることも多いです。ネットサーフィンをして得られる情報は多いですが、必ずしもそれが自分が必要とした情報でないことも多いですよね。だからこそ学生の方にはJICA海外協力隊へ参加して、リアルな経験と出会いを通じて自分のキャリアを自ら創っていくことをお勧めしています。

いまキャッチフレーズとして「人生なんて きっかけひとつ。」と掲げています。参加することはきっかけの一つですが、海外協力隊に参加することで100%人生が変わります。それは思い描いていたものとは違うかもしれないけれど、参加して後悔することはないと思います。どのような経験であるにせよ、日本では得られない経験がえられ、日本では会えない人に会え、そして確実に世界は広がります。

海外協力隊に参加している人は、前向きに能動的に一歩踏み出して行動している集団なので、お互いに刺激を与えあっていますね。私は経験者でないので羨ましいのですが、海外協力隊の経験者同志は秒でお互いを分かり合えるというか、みんなリスクを冒して一歩踏み出して2年間参加しているわけですから絆が深いんですよ。

また、大人が感動して泣くシーンも、数多く見てきました。現地ではいい話だけではなく、すごく大変なこともあり、苦労もして、助けられて、心に響くようなたくさんの経験をしているので、そこにはやはりデジタル、オンラインでは経験できない世界が濃縮されてあるんですよね。

数年前にトンガで噴火があった時に、2、30年前に協力隊でトンガに赴任していた佐賀県の学校の先生が、トンガのために義援金を集めて、在京トンガ大使館に持って行ったら、大使が当時の教え子だったということもありました。大使は着任時からずっと恩師を探していたのですが、先生は結婚されて苗字が変わっていたので見つけることができなかったそうです。自分の国が国難の時に、佐賀から義援金をもって駆けつけてくれた日本人が恩師だった、そんなストーリーがたくさんあるんですよ。

日本が安心・安全だからリスクを冒さないというのは分かるけど、一歩踏み出すことで、すごく人生が豊かに変わります。なかなか損得勘定では語れない、すごく意義がある事業だし、人生においては回り道かもしれないけれども、いい回り道だと思います。

学生の皆さんへ

それでは最後になりますが、読者の大多数である大学生世代の方にメッセージをお願いします。

キャッチコピーの「人生なんて きっかけひとつ。」にあるように、本当にきっかけ一つで人生は変わるし、きっかけは掴むものなので、目の前にあっても一歩踏み出さなかったらそのまま何も変わらない。だから目の前に何かチャンスや機会があれば、ぜひ掴んでほしい。掴んだ結果が思っていたのと違っても、そこは自分でトライしているので、後悔しないと思います。

特に若い人はいろいろな可能性があるから方向転換ができるし、体力もあるし、世界は広いんですよ。想像できない経験ができます。まだ見ぬものを見てほしいと思います。だからぜひ一歩踏み出して、世界を広げてみてください。

本日はお忙しいところお時間をいただき、ありがとうございました。

2024年9月12日JICA竹橋officeにて

JICA 独立行政法人 国際協力機構

JICAは、独立行政法人国際協力機構法に基づいて設置された、外務省が所轄する 独立行政法人で、 政府開発援助(ODA)の実施機関の一つであり、開発途上地域等の経済及び社会の発展に寄与し、国際協力の促進に資することを目的としている。

前身は1974年(昭和49年)8月に設立された特殊法人国際協力事業団であり、2003年(平成15年)10月1日に現名称へ変更された。

事業内容は多岐にわたっており、その基本は「人を通じた国際協力」である。JICAは日本国政府政府開発援助を執行する実施機関として、対象地域や対象国、開発援助の課題などについての調査や研究、JICAが行うODA事業の計画策定、国際協力の現場での活動を行う人材の確保や派遣、事業管理、事業評価などの役割を担っている。

JICAのミッション

JICAは、開発協力大綱の下、人間の安全保障と質の高い成長を実現します。

JICAのビジョン

信頼で世界をつなぐ
JICAは、人々が明るい未来を信じ多様な可能性を追求できる、自由で平和かつ豊かな世界を希求し、パートナーと手を携えて、信頼で世界をつなぎます。

JICAのアクション

  1. 使命感:誇りと情熱をもって、使命を達成します。
  2. 現場:現場に飛び込み、人びとと共に働きます。
  3. 大局観:幅広い長期的な視野から戦略的に構想し行動します。
  4. 共創:様々な知と資源を結集します。
  5. 革新:革新的に考え、前例のないインパクトをもたらします。

(2017年7月改訂)
(公式サイトより一部抜粋)

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