上野 千鶴子氏インタビュー 「未来のあたりまえ」を作るのは私たち
 ~わきまえる男子、わきまえる女子であってはならない!~

2019年4月、東京大学の入学式で同大学名誉教授 上野千鶴子さんの述べた祝辞が、大きな反響を呼びました。女子学生の置かれている立場や研究者の女性比率、男女の育てられ方の違いなど、社会に根強く残る不平等に言及し、正解のない問いに満ちた世界へと踏み出す新入生に「あなたたちの頑張りを、自分が勝ち抜くためだけに使わないでください」と呼び掛けたメッセージはさまざまなメディアに取り上げられ、多くの女性の共感を得ました。東京大学で初めて女性学という学問分野を打ち立て、教え、フェミニズムを率いて40年。日本における女性学の第一人者である上野千鶴子さんに、ジェンダー問題に関心を持つ学生がお話を伺いました。

インタビュイー

認定NPO法人
ウィメンズ
アクションネットワーク
(WAN)理事長

上野 千鶴子氏

プロフィール

聞き手

全国大学生協連
学生委員会 委員長
(司会・進行)

角田 咲桜

全国大学生協連
学生委員会

鳥井 和真

全国大学生協連
学生委員会

齋藤 薫

全国大学生協連
東京ブロック 副学生委員長

濱口 真帆

(以下、敬称を省かせていただきます)

私たち全国学生委員会は、日本各地から集まった学部学生等で構成され、組合員が充実したキャンパスライフを送れるよう、各大学生協に向けた各種研修セミナーの準備・運営などに取り組んでいます。このインタビューは、第一線で活躍しておられる方々の経験やお考えを伺い、組合員に伝えることで、広い視野を持って自分自身の大学生活に一歩を踏み出す機会になればと思い、企画しました。

私自身は皆さんの倍どころか3倍か4倍の年齢差のある高齢者です(笑)。東京大学で教えておりましたが、もうすでに引退し、今メインの仕事としてウィメンズアクションネットワークというウエブサイトを運営しています。

オンラインで広がる知識

オンラインをポジティブに捉える

コロナ禍が長く続く中、未だに大学生活の充実を考えられない学生も多くいます。その学生がどんなことを意識すべきか、どんな行動をすべきか、上野さんの考えをお聞かせください。

本当にコロナ禍では大変でしたね。皆さん方、在学中の2年間はリモートだったのですか。

私は既卒2年目で、大学4年生の時にちょうどコロナ禍になりました。卒論も大学に行かずに友達とzoomをつないで書き、提出しました。

新入生はかわいそうですね。

一人暮らしの学生が特につらい思いをしているというのは、大学生協の中でも話題になっています。親元を離れ友達もつくれない中、どう大学生活をスタートさせればいいのいか分からないという声も聞こえてきました。

私はオンラインでのキャンパスライフを経験したことがありませんが、今の時代は、教える側も教わる側もこれまで経験したことがないことをやっていかなくてはなりません。どちらも大変だと思います。皆さん方コロナでキャンパス立ち入り禁止、クラスルームもできないし、クラスメートもそばにいないという経験をされたかと思います。でも逆にいうと、今オンラインで少数派のコミュニティをいくらでも探せますよね。セクシュアルマイノリティのコミュニティ、10万人に1人の難病患者のコミュニティなど、色々な当事者コミュニティもあります。

私はコミュニティというのは対面でなくてもつくれると思っています。ネットの世界は本当に無尽蔵で広い。おまけにロケーション・国籍問わず、国境なしです。私たち研究者にとっては、コロナ禍以降、国際会議のハードルがすごく下がりました。気安く頼まれるようになったし、時差さえ考慮すればパソコン画面に国籍の違う人たちが同時に参加できる。そしてコストが安い、コミュニケーションが楽というネットのメリットがあるので、自分にふさわしいコミュニティを一つならず三つも四つも作ったらいいと思うのですよ。私の知人は、コロナ禍の中、定例でオンライン読書会をやっていました。女子会でもオンライン読書会でも、5回、10回と少人数で蓄積していったら、その人のふるまいや癖などが分かってきて、実際に会う前にすごく親しい気分になります。

「モグリ学生」のすすめ

リモートの授業だと、画面の向こうで何をしていようが先生には分かりませんが、20人程度の少人数のゼミでは全員の顔が見られます。オンラインがいいのは、人が話しているときに割って入れないことですね。話し終わるまでみんなじっと聞かなければなりません。意外と普段しゃべらない人がしゃべりやすくなったとか、障がいがある人も自宅からアクセスできるし、メリットも結構あります。

そういうことをどんどんおやりになればいい。というのは、例えば自分が行きたい大学に行けなかった、自分が付きたい先生に付けなかったという話をしょっちゅう聞くからです。私は以前から、やりたいことと所属を一致させる必要は何一つないと思っていました。どこに所属していようが行きたいところに出かけたらいいじゃないですか。それを私たちは「モグリ」と言っています。「モグリ」って、勝手にそこの大学の聞きたい先生の授業やゼミに潜り込むことです。私のゼミにはモグリが大勢いました。授業だったらつまみ食いできるけれども、私はモグリの人には「つまみ食いは認めない。来た以上は、学籍があろうがなかろうが平等に扱います」と言いました。その人たちが本当に1年間食いついてきて、それでちゃんと学籍を越えた仲間意識ができました。今の人たちはそういうことはあまりやらないのでしょうか?

1年生が大勢聞いている大講義に上級生が参加するというこということはよく聞きますが、ゼミに潜り込むというのはあまり聞かないかと思います。

教師の側からいえば、この先生と見込んでドアをノックして「参加させてください」と言われたら、「No」という人はほぼいないと思います。だってそんな熱心な学生っていないでしょ? モグリの授業は単位にならないんですよ。それなのにわざわざ来る、ものすごく熱心な人なんです。そういう人は、クラスを活性化してくれるので、教師にとってもいいことだらけなのです。社会人もいれば他大生もいますから。

私は東京大学で教えていましたが、東大は駒場(教養)2年、本郷2年で、教えることも雰囲気もガラッと変わってしまう。そうしたら、「今のうちから専門のゼミを受けたい」と言って、私のゼミに出てきた教養課程の学生がいました。その学生にとっては単位になりません。なりませんが「受けたい」と言ったから、私は彼をみんなに「駒場からの留学生です」と紹介しました。だから、やればいいんです。自分がどこの大学に所属しているか、学籍がどこにあるのかなんてどうだっていいじゃありませんか。

僕のゼミでは、他大の院に進学されたゼミ生が恩師の教授のzoomに入ってきて一緒に学ぶようなことはあったので、結構学ぶ自由は増えてきたのかと思います。

そのほうが刺激的だと思いますね。

僕も上野先生のように前向きにオンラインをとらえたいと思っています。今の4年生は最初に対面を経験していますが、中には教育系など、実習でこういうことを学びたいと思って大学に入ったらオンラインになってしまったということで、結構ギャップがあるのかと思っています。

実習には対面が不可欠な要素がありますね。例えば私たち社会学者はフィールドに出られないとものすごくハンディがあるので、それはとても残念です。非常事態で三密を避けざるを得なかったけれど、本当に対面が不可欠な人たちはいますが、逆にオンラインのメリットをうまく使っていろいろな代替方法を考えたらいいと思います。たとえばインタビューをするときに、オンラインだと結構ハードルが低いのですよ。それなりに有名な人も乗ってくれるし、一対一で行うと秘密も保たれるし、当事者性の高い人が、オンラインインタビューだと言いにくいことも言ってくれたりするのですね。だから、オンラインはオンラインでいいところがある。使えるツールに選択の幅があるとしたら、それを最大限どう利用するかを臨機応変に考えたらいいんじゃないかな。

トライ! 海外レクチャー!

例えば誰かのレクチャーを聴きに行こうと思ったら、半日か1日つぶさなきゃいけないんですよ。ところがオンラインだと、1日24時間のうち1時から3時まで社会学のレクチャーを聴き、続いて3時から5時まで保険医学のレクチャーを聴くということが、パッと切り替えるだけで簡単にできてしまう。

コロナでわざわざ出向かなくて済むので、自分の分野外の情報がたくさん入るようになりました。例えば私は今、介護の研究をしていますから保険医療系にとても関心があるのですが、そういうところには専門の人たちばかりが集まる傾向があります。対面では話をしても通じなかったり、自分の場違い感があったりする。ところが、オンラインだとそんなことは気にしなくていいのですね。だから、ポジティブなところもたくさんあります。オンラインコミュニティというのは、その気になって探索すれば情報がゲットできるから、重要なのはその探索の意欲と能力ですね。

新入生がオンラインで大変だという話は結構あるので、それは発信していきたいと思います。

探索の能力と方法は、教えてあげたらいいと思う。マニュアルとか、例えばこういうキーワードで検索したらいいよとか、こういうところにこういうアカデミックな動画のサイトがあるよとかね。それはあなたたち先輩が分野ごとにやってあげたらいいんじゃない?

自分が思っている以上に一歩踏み出すことで広がるコミュニティがあるのは、確かに実感しています。

今オンラインレクチャーは有料無料、山のようにあるでしょ。世界中の大学が、講義の一部を無料で開放していますよね。聴いたことありますか? 留学しなくて済むから、すごくハードルが低いですよ。そういう海外サイトにはもちろん字幕なんて付いていないから、自分の英語力を試したかったら、何%分かるか聴いてみてね。

日本にいながら海外の生講義を聞けるのは知りませんでした。

以前からそういうサイトがあったけれど、コロナ禍で加速したと思います。どの大学もパブリシティにすごく熱心だから、その大学の持っているトップレベルの先生の講義をオンラインで提供しているのよ。「ここから先は有料」というところもあるけれどね。面白いのは、日本人で海外レクチャーを聴く学生に「何%分かった?」と聞くと、「7割ぐらいですかね」と言うの。上等、上等。なぜかというと、日本語で聞いても7割くらいしか分からないから。何語で聞いても同じよ。

リアルはリアル、オンラインはオンライン

上野さんが新しいコミュニティを見つけるとき、探索するときに意識していることはありますか。

私は以前から幅広い人脈があるからお声が掛かるの。情報が集まってくる。それから自ら企画するのもある。自分で女子会いくつも作ったの。オンライン女子会、楽しいわよ(笑)。

オンラインコミュニティのもう一ついいところは、それを継続して蓄積していくことができること。そうするとなじみができるというのと、個性が出るのね。それで安心感が得られ、安全な場ができていく。画面に顔が見えたら、全員のサイズは同じでしょ? 誰から順番に、みたいな上下関係がないじゃないですか。コロナ禍でオンラインの良さを発見して、私的には大満足です。

私もオンラインの良さを見つけてからは結構楽しくなりました。上野さんは、コロナが流行しはじめたばかりの頃は前向きになれるまでに時間がかかりましたか。

zoomってコロナになる前は知らなかったの。それがもう否応なく使わされて、やっている間に習熟して、自分でアカウントを取って、本当に1年もたたないうちに進歩したから驚いた。後から分かったのは、zoomってコロナよりもずっと前からあったのよね。あったのに使わなかったでしょ。最初はみんな、オンラインというのはリアルの代用品だと思ってやむを得ず使った。でも今はもう、代用品じゃなくなったじゃない。リアルはリアル、オンラインはオンライン。今日だって、もしあなたたち4人が私のオフィスに来なきゃいけなかったら大変よ。そんなことやらずに済むのは、本当に最高だと思っているの。

私もzoomやTeamsに慣れるまでは時間がかかりましたが、いろいろな機能を知る機会にもなりました。

与えられた条件をプラスに取ればいいのよね。それだけでなく、こんなパンデミックは永久には続かないから。リアルになったときに、今度はリアルの良さを味わえばいいと思う。でも、元に戻ってほしくないこともあるよね?

ここでつながりやすさを感じてしまった以上、これは継続しつつ、対面のリアルなつながりも戻ったらいいなと思います。
大学生協では学生同士で活動する良さを学ぶセミナーを、コロナ以前からずっと行っていて、今もオンラインでセミナーを続けています。オンラインでもつながりを作れるというところはとても魅力的で、私たちもそこにやりがいを感じているのですが、参加する多くの1、2年生は授業もオンライン。オンラインでつながることができても友達になれるという実感があまりなくて、モチベーションが上がらないという声を聞きます。

こういう時期だから、実際に交流できないという制約は本当に気の毒だと思います。リアルな対面でぶつかり合ったりして育まれる友情や人間関係があり、それはオンラインでは代替できないので可哀そうだと思うけれども、でもコロナ禍は永遠に続かないから、ちょっと我慢してねと言うしかないですね。

逆に今しかないというこの期間なので、コロナ禍から抜け出したときに、この経験が生きるのだという考え方は大事かなと思いました。

あなたたちにとっては、オンラインがデフォルトで社会人になっていく。それはもしかしたらおじさんたちにはないメリットかもしれないわよ。オンラインがなくなることは絶対にないけれど、おじさんはオンラインに苦手意識の強い人が多いから。