和田 明日香 氏インタビュー 料理が人生を変えた! ~料理家として、母として、一社会人としての私~ 

日々の暮らしの中から

簡単な料理でも続ければ身体が整う

僕も最近一人暮らしを始めました。自炊を頑張ろうかなと思いつつ、ちょっと面倒くさいなと思う日もあります。そういう時に意欲的になれるようなアドバイスをお願いします。

これは脳科学研究をされている黒川伊保子先生という方に聞いたのですが、面倒くさいって思っているうちは大脳を使っているそうです。実際に手を動かし始めると、大体2分くらいの作業で、使うのが小脳に切り替わって、そうすると無の境地というか、没頭モードに変わっていくらしい。大脳って結構ストレスを感じやすかったり、余計なことを考えるための働きをする部分なのですが、小脳ってゾーンに入るみたいな脳みそだから、すごく自分が癒されていくみたいです。だから面倒くさいなと思うこともなんとか2、3分続けば、あとはもう自然に続けられるって聞いたので、立ち上がりだけ何とか頑張って自分のお尻を叩くといいと思います。

黒川伊保子……脳科学・人工知能(AI)研究者。株式会社感性リサーチ代表取締役社長。感性アナリスト。随筆家。家族のトリセツシリーズは累計90万部を超えるベストセラーに。

本当に面倒くさいときは、外食に頼ったりコンビニで買ったりしてしまう大学生も結構多いかなと思います。

確かに自分で作るより外で食べるほうが安かったり、おいしくできるかどうか分からないよりも確実においしいものを食べられますよね。私は必ずしも手作りが絶対だと胸を張って言えないけれど、でも、なんとか最初だけ奮い立たせて、それが続くようになると、生活も体調もすごく気持ちよくなるなというのは実感としてあります。
なんとなく朝すっきり起きられるようになるとか、便秘が治っていくとか、肌荒れが良くなっていくとか。何でもない料理でも作り続けていると、スーパーに行く習慣ができて旬のものが分かってきて、自然に思いをはせる時間が増えていく。頑張りすぎてくたびれたら良くないけど、頑張ってみて悪いことってないと思いますよ。キムチとかハムとかツナとか海苔とか、そういうものを常備しておけば、あとは切った野菜にあえて、醤油でもかければ何でも一品になります。そういうテクニックを持っておくのもいいですね。ちくわみたいにそれ自体で食べられるものと、何か野菜一つを合わせて食べる、それもいいのではないでしょうか。

仕事と子育ては、両立じゃなくて両輪

和田さんは、明るくてはつらつした感じなのですが、学生時代もそういう感じだったんですか。

そうですね、昔の方が何も考えずに楽しく生きていたので、今の方が暗い時があるんじゃないかな(笑)。自分のことなら、悩みでもなんでも自分でなんとかしなくてはという気持ちになるけど、子どもはわたしとは違う一人の人間なので、なんとかしてあげられない部分も大きくて、親になってそれにすごくもやもやすることが増えましたね。昔に比べてうじうじした性格になったなと思います。

子育てしながらお仕事をされるのは、やはり大変ですか。

わたしの場合は、むしろ仕事をしている方が、子育ても楽ですね。私の人生に子育てしかなかったら、それはそれで素晴らしいのでしょうが、子どもたちのことに気を向けすぎてしまいます。子どもに依存してしまうのも良くないなと考えるタイプなので、子育てだけになってしまうと、ちょっと私には“too much”かな? それよりは自分の時間も大事にして、仕事でもなんでも社会と関わりを持っている姿を子どもに見せられるほうが私はいいかなと思うので、今はどっちもできていてすごく良かったなと思っています。
もちろん、子どものことと仕事のスケジュールが重なってしまって大変なことはたくさんあります。でも両立じゃなくて両輪で、自転車のタイヤみたいに二つが同時に前に進んでいるから、私自身が前進していられるのかな。

社会人としての自分と子育てする自分の両輪があったほうが、がうまく回るタイプだということですね。

そうですね。子育てしていると、日本ってなんで軍事費ばかり増額されて教育費が低いままなんだろうとか、子どもが狙われるような犯罪などで社会に対して許せないことが山ほど出てきて、私は一人の大人なのにそれに対して何もアクションを起こせないという、すごくはがゆい気持ちになってくるんですよね。そういう時に仕事を持っていると、自分の仕事を通じて何か行動を起こすようなチャンスもあるし、そういうことを仕事にするきっかけもあると思います。もちろん、きっかけは仕事だけではありませんが。

仕事で感動した経験をすると、自分の子どもにもこんな経験をさせてあげたいなとか、こういう大事な日本の伝統を残してあげたいなとか考えて、より有難みが増していくので、本当に私には良い循環があるなと思っています。お母さんたちがみんな、自分の仕事にも子育てにも無理なく向き合えるような社会になるといいのになと思います。
でも実際には、時間のやりくりがうまくいかなくて大変なことばかり。難しいですね、本当に多くの先輩がその難しさと戦って少しずつ女性が働く環境を良くしてくれたのだと思うと、私もその想いを引き継がなきゃいけないと思います。

若者世代へのメッセージ

この記事を読む若者世代に向けてメッセージをお願いします。料理でも生活でも、こんな大学生になってほしいなあいう意見をお聞かせください。

大学生って、私にとって 今 一番接点のない人たちなんですよね。子どもは中学生と小学生と合わせて3人いるので、その年齢の子たちとはよく会うし、社会人とは仕事で会ったりもするけど、大学生って私にとって一番謎です。(笑) だから今どういうことを考えてどういうことが楽しくて、どういうことに困っているのかというのが全然分からないけど、それでも、頑張っている大学生はみんな愛おしいので、あなたたちをそんな風にあたたかく見ている私のようなおばちゃんは、意外といるよっていうことを伝えたい。

昔はこうあらねばならないっていうか、「あの人が絶対に正しいよ、だってみんながいいって言っているから」みたいな感じだったけど、今はそうじゃない。正解がどんどん曖昧になって、多様性が重視され、ロールモデルみたいな人も大勢いて、じゃあいったい誰を本当に目標にするべきなのかっていうのは私にも分からない。そんな中で自分を確立していかなきゃいけないので、若い人はすごく悩むことも多いだろうなと思います。
でも自分の人生なので、誰に何と文句言われても気にしないで、本当に自分の幸せを追求して大人になってほしい。誰かを幸せにしたいという気持ちもすごく大切だけど、まずは自分が大事。その自分を大切にする行動の一つが料理だと思うので、まあ気が向いたら、キャベツに塩をかけることから始めてみてほしいなと思います!。

本日は本当にありがとうございました。

(2023年5月11日 リモートインタビュー)

PROFILE

和田 明日香

1987年生まれ、東京都出身。料理家、食育インストラクター。大学在学中から音楽専門チャンネルでインターンとして働き、料理愛好家 平野レミの次男と結婚する。結婚当初は全く料理ができなかったが、義母の影響で料理に目覚め、食育インストラクターの資格を取得。各メディアでの料理家としての活動のほか、“食育”や“家族”をテーマに全国で講演会やイベント出演、コラム執筆、テレビ・ラジオ・CMなどで幅広く活動する。3児の母。第11回ベストマザー賞2018 文化部門(2018年)、第14回ペアレンティングアワード 文化人部門(2021年)、著書の『10年かかって地味ごはん。』(主婦の友社)で2022年、第9回料理レシピ本大賞 in Japan 料理部門入賞。