全国大学生協連 新型コロナウイルス対策特設サイト #with コロナ Withコロナ キラリ人インタビュー 全国大学生協連 新型コロナウイルス対策特設サイト #with コロナ Withコロナ キラリ人インタビュー

学生は「学生であること」を奪われている!?-学ぶ権利・奨学金・ブラックバイト

大学に行っている理由で大卒がほしいという部分が大きいと思います。ただ、大学生協の方向性としては、大学と大学生協で協調路線を敷き、どう大学と一緒に頑張るのかということを大事にしています。そういう動きの中で大学生はどういう動きをするといいと思いますか?大学にただ文句を言ったり、ただ減額を求めたりするだけでなく、どのような声を上げたらいいのかを教えてほしいです。

たとえば施設が利用できないから学費を下げろという話だけだと、それはただのお客さんで、「客に対価を払え」という話になってしまいます。しかし、そうではいけないと思います。大学は店ではないし、学生は客ではありません。対価を要求するのではなく、学生には権利があるのですから、権利を主張すべきです。こんなに学費が高くて、バイトもブラックな状態では勉強ができないので、学生として学ぶ権利を要求することが重要でしょう。生協もそうだと思います。生協も組合員の権利を守るのが仕事だと思います。しかし、日本では社会全体の商品化が極度に進行しています。だから高い学費に見合った就職をすべきだという思考にもなってきます。しかし、本当は学生としての生活を過ごすことが重要です。それは客ではなく、権利の主体になるということです。学ぶ時間がないとか、話し合う時間がないという状態は、学生であることを奪われているのです。存分に話し合うとか、物事を追求するとか、そういうことが学生の権利です。しかし、ブラックバイトに追われている状態では、それは無理です。また学生はバイトの職場では、労働者としての権利を奪われています。「辞めたいのに辞めさせてもらえない」「授業関係なくシフトを勝手に入れられる」「余った商品を買わされる」―学生は被害者です。職場では「所詮学生だろ」と労働者の権利を奪われ、学校では高い学費を払わされ、1年生から卒業後の就職を気にしている。こんな環境では学生でいられないと思います。「学生である」ということ―それは消費者でない、客でないということです。しかし、消費者であり、客であることを強いられています。生協が取り組むべきは次のようなことです。学費の問題、奨学金の問題、高すぎる家賃の問題に取り組むべきです。こういう環境を変えないと、学生は学生生活をまともに送れません。大学に対して「ただ安くしろ」というのは消費者の主張ですが、「この学費と奨学金の状況では十分に学べない」という要求は正当です。大学だけでなく「政府にも」です。国立大学も授業料を上げ続けていて、これでは国立大学と呼べません。学費を下げるために、政府に対して運営交付金の増額の要求をすることです。

大学に行く目的を見失っている学生が多いのではないかという議論の中で「学ぶ権利」は大事ですし、今後の軸になってくると思いました。

ブラックバイトを発見した時に気がついたのは、「学生であること」が軽んじられているということです。しかも、そのことに学生が慣れてしまっています。「学生はどうせ勉強しないんだから、バイトしていたらいい」とバイト先で頻繁に言われているのですからひどい話ですし、学生であることを否定するのはハラスメントだと思います。私が学生のころはバイトを堂々と休めました。学生ですから、バイトを休んでサークル活動をやってもいいのです。バイトによって自分が過ごしたい時間を過ごせないことや学生として過ごせないことが問題なのに、それが不思議と思わないくらいブラックバイトが浸透しているし、それが当たり前になっています。学生自身が、学生であることを尊重されないことにおかしいと思えないのが問題です。本業は学生であるはずなのに、ブラックバイトになっていると思います。学生をブラックバイトから解放することが大事です。ブラックバイトから解放できれば、学生はいろいろなことできると思います。そのために学費を下げること、給付型奨学金を拡充することが大事です。

芋づる式でどんどん問題が出てくると感じます。最初は学費が高いことが問題だと思っていましたが、その裏にあるブラックバイトや運営交付金の問題に気付けました。学生である自分が食い物にされている実感はなかったですが、そこに気付けたのは大きいと自分の中で思います。

ここでの話を日本中の大学生に聞かせたら、大騒ぎになると思います。明日からバイト先の言うことを聞かなくなると思うし、大学生に頼っている日本の多くの産業が成り立たなくなります。ここでの話が大学生全体に共有されたら、日本は本当に変わると思います。しかし、こういう話と出会う場がないのです。今日の話が少しでも学生に広まれば、「学生が構造的にひどい目に合っているんだ」と思えると思います。ひどい目にあっていることに気がついてないのです。あの時給で、なぜあれだけ働かされているのか。私はいつも学生に「君たちの働きは時給2000円に値する」と言っています。私の学生のころと比べて「なんであんなに働くんだ」と思いますよ。時給1000円のバイトで目いっぱい働くのが当たり前になっています。当たり前を疑うべきです。奨学金は給付が当たり前で、貸与が間違っているのです。現在の奨学金の多くは借金です。

僕は沖縄県の大学生活を送っていたので、1000円だと高いと思いました…。

東京と神奈川は時給1000円を超えました。「もうすぐ時給1000円を超える」と5年前に大学の教室で言っていた時には、多くの学生は信じませんでした。時給が上がったのはブラックバイトが問題になったからです。最低賃金は時給1500円まで引き上げるべきだと思います。最低賃金が1500円位になると、時給2000円位の仕事が増えます。ヨーロッパでは、マクドナルド従業員の時給が2000円を超えているところがあります。最低賃金が1500円を超えている国では、それが当たり前なのです。時給2000円だと8時間で1万6千円、4時間でも8千円です。そうなれば学生は楽になると思います。現在の最低賃金は不当に安いと思います。

最低賃金の問題も含めて社会構造を変えていくという意識で動かないと、奨学金問題だけで解決しないと思いました。

そうですね。構造ですから、学費のこと、奨学金のこと、バイトのこと、最低賃金のこと、全部絡んでいます。私が『奨学金が日本を滅ぼす』や『ブラックバイトに騙されるな!』を書いたのは、いま学生がどう困っているかに強い関心をもっているからです。これをそのまま授業で扱いますから、学生は関心をもちます。学費がこんなに高くて、奨学金の多くが事実上の借金で、バイトがブラックで、最低賃金が安い。学生はたまったものではないです。個人の頑張りでどうにかなる問題ではありません。自己責任論の考え方が諸悪の根源だと思います。政府の側は問題を学生の自己責任に還元することに熱心ですが、学生は何も悪くありません。構造が悪いのです。しかしそれに気付く時間や機会がないのです。そこに気付ければ大きいと思います。

今のお話は生活保護バッシングの問題にもすごくつながってくると思いました。生活保護を受けている世帯の学生が何かを購入してSNSに上げたところ「バッシングされた」ということがあったかと思います。とても根深い問題だと改めて思います。

学生が学費を下げる運動について、上の世代からのバッシングが今回もありました。バッシングをしている側は自分が大学生のころの楽な感覚を前提にしていますが、あれにだまされてはだめです。データに基づいた客観性のある議論が大事だと思います。今回は200校以上の大学の学生が声を上げたので、異議申し立てがいよいよ始まったのだと思います。

徹底的に学生に寄り添い、正しい知識をひろげること

今、大学生協もキャンパスに人が来ず経営的には厳しいですが、とは言いつつも学内の構成員が自発的に手を結び合った大学生協に求められることはまだあると思っています。大内先生も中京大で学生のリアルを把握されていますが、大学生協がこれから頑張るべきことは何でしょうか。

学生が構造的に追い込まれています。学費の高さや、奨学金が貸与だとか、ブラックバイトであることが大きくて、だから生協の活動をする余裕もなかなか生まれないと思います。しかし、学生に余裕をもたせることができたら、それは活動にもつながります。徹底して、「何で日本の学費はこんなに高く、諸外国は安いのか。」「なんで日本の奨学金はローンで、給付は一部にとどまっているのか。」「どうやったら給付型奨学金を増やせるのか」「どうしたらブラックバイトを減らせるのか」など、学生生活に直接関係するテーマに取り組んだらよいと思います。アルバイトについては、ブラックバイトに対処するためのワークルールの学習会をすることは大切です。この前、塾でバイトをしている学生が未払い賃金30万円を獲得しました。未払い賃金の獲得の仕方は、全大学で学んだ方がいいと思います。多くの学生が未払い賃金の獲得方法を知らないんです。労働時間の記録の取り方を学んで、その後に労基署に実際に行ってみるというツアーを計画するのも、よいのではないでしょうか。「働いた分の賃金は確実にもらう」という姿勢は大切です。未払い賃金で20万円~30万円を手にしたら、学生生活は楽になります。勉強ができるので教員採用試験や公務員試験にも受かりやすくなります。ひどいバイトを辞める方法を知ることも大切だと思います。バイト本人が職場に行くと辞めないように説得されたりしますから、退職届を内容証明郵便で送って、確実に辞める。「未払い賃金をと獲得する」「ブラックバイトを辞められるようにする」「奨学金の制度をよく学んで賢く利用し、可能であれば制度改善に取り組む」ことが大切です。貸与型奨学金で苦しんでいる人には、奨学金対策全国会議のことを伝えるとか、あるいは法的整理のことをちゃんと教えて、いざという時には「自己破産とか民事再生で借りた額は減らせる」ということを学ぶ。そうすると安心感が広がる。貸与型奨学金は実質的には借金ですから注意が必要ですが、返済を過度に恐れ過ぎている人もいます。正しい知識をもつことが大事です。住宅の問題も大きいと思います。住宅確保給付金に学生も対象に組み込む運動も重要です。これができれば、部屋代で困っている学生が救われます。学生の住宅費を下げないといけません。たとえば家賃補助が月2万円支給されると学生はかなり楽になると思います。家賃補助制度は、ヨーロッパ諸国では普及しています。住宅確保給付金制度を家賃補助制度へ向けて拡充するべきです。また、大学付近にある各都道府県の公営住宅に優先的に学生を入れると、家賃が下がることに加えて、通学時間が減ることで学生に時間ができるので、学生の活動が活発になります。学費・奨学金・バイト・住宅など、学生の生活を改善する方向を生協が提案してそれが成功すれば、「運動が成功すると学生は活動するようになる」「学生が活動するようになると運動が成功する」という好循環が始まります。学生の経済的・時間的余裕を拡大することが何よりも大事です。そうすると社会的・政治的関心も高まると思います。知識を増やし、相談先を増やすこと、要求することが大事です。

秋以降にはキャンパスに学生が戻ってくる可能性がある中で、アルバイトを始める新入生・アルバイトに戻る学生がいると思いますが、時間のある今のうちに知識をしっかりと伝えて自分の身を守れるようにすることが大事だと感じました。

ブラックバイトにだまされないように、役立つ労働法について情報提供するとか、困ったらどこに相談するかを伝える。秋学期も学費の延納・分納を要求して、「コロナ災害」で大学を辞める学生を1人でも多く減らすべきです。学生本人に責任はないからです。延納・分納を強く要求して、支払いが困難な場合には卒業後に払うかたちでもよいと思います。延納・分納で困る学校もあると思いますが、その場合は政府に予算を要求すべきです。学校が政府に要求したらよいのです。「学生のために学費の延納・分納を行っているのだから、その分は保障してください」と。学生のためを考えて待っているのですから、正当性はあります。大学生協の今回のアンケートから、困っている学生のことを知ることは大事だと思います。自分と同じことで困っている学生がいることに気づけるのも大事ですね。

大学を辞める学生を出さないというのは大事だとは思いますが、自己責任論が大学からも強いと感じています。どこから学費の分納・延納を主張するときにどの切り口でしていけばいいのか、具体的なアクションを教えていただきたいです。

アルバイトで学費を払っている学生が一定数いますが、「コロナ災害」前のようなアルバイトは困難だと思います。なぜならアルバイトをすると感染リスクが高まるからです。今まではアルバイトによって苦しい学生生活を成り立たせてきました。そのアルバイトがコロナウイルスのせいでできない。今回は誰も悪くありません。学費を稼ごうとしてもそれが「コロナ災害」によってできないのですから、明らかに本人の責任ではないということをしっかりと伝えることが大事だと思います。緊急事態宣言は解除されましたが、「密」の環境でのバイトは危険でしょう。バイトでどうにかするという論理そのものを疑うべきです。「コロナ災害」による親の収入減も自己責任ではありません。自己責任論の破綻が明確な部分から、攻めていくのがよいと思います。卒業後の就職も見通せない状況で、貸与型奨学金は利用しづらいですから、給付型奨学金の拡充を求めましょう。学生の経済状況はこれまで以上に過酷ですから、給付型奨学金への支持が広がる可能性はあると思います。

奨学金に関連して、僕の周りで大学院に行く学生は「お金持ちだね」と言われますが、院に行きたいがあきらめている学生もいるのではないかと思います。院生の実態について教えてください。

大学院生の問題も重要です。2017年、学部生には日本学生支援機構の給付型奨学金が導入されましたが、大学院生には導入されていません。私は当時から大学院生にも給付型奨学金を導入すべきと言っています。給付型奨学金が導入されれば、大学院に進学する学生は増えると思います。
1998年までは小学校・中学校・高校の先生になれば返済免除、2004年までは大学等の研究者になれば返済免除となる制度がありました。私も奨学金返済の免除制度があったから大学院に進学できました。奨学金の返済免除制度がなかったら、大学教員にはなれなかったでしょう。免除職がなくなった以上、貸与型奨学金はすべて借金になってしまう。一刻も早くやらないと大学院生が減ってしまうと思います。大学院に行く学生は研究に取り組んでいるという点で、学生の本分を果たしている。研究に取り組む学生をなぜ応援しないのか。支援が十分でない現状は、本当に間違っていると思います、奨学金が貸与であることが、大学院への進学を抑制しています。突破口は大学院に給付型奨学金を導入することです。大学院進学をあきらめた数は統計にでませんが、ここ約20年間、大学院進学者数は全体として伸び悩んでいます。特に人文科学系・社会科学系の大学院進学者は減少しています。

大学院を卒業した方が日本社会を支えてくださっている面も大きいので、そのチャンスがつぶされないようにしていかなければならないと思いました。

そういう意味では高校生や保護者世代にも訴える必要があると思います。家計が厳しくなって、収入が減っている中で、大学進学をあきらめる家庭も増えるのではないかと思っています。大内先生はどう考えられていますか?

コロナウイルスの感染拡大で、大学の中退者が続出する危険性があります。学費の延納・分納が行われても、それだけでは生活費が足りません。バイトがなくなると家賃の高い都市部にいるのは難しい。都市部から実家に帰った学生は大学に戻ってこられない人も出てくると思います。大学の進学率は伸び悩んでいて、専門学校の進学率は20%を超えています。専門学校の多くは大学より修学年数が短くて、学費負担が少ないからだと思います。返済できなくなった時にどう対処したらよいかを伝えなければ、貸与型奨学金の制度を知れば知るほど、利用することにおびえてしまいます。親の収入が減るなか、これでは大学進学をあきらめる学生が増加する可能性は高いでしょう。法的整理という手段はありますが、私の経験では高校時代に法的整理の説明を聞いた学生はいません。「困った時には破産すればいいんだよ」というと学生は最初驚きますが、理解すれば心配が減ります。しかし、知識不足による「自己破産」への偏見があってなかなか難しい。法的整理以外の、奨学金返済に関する救済制度を整えるべきです。一番よいのは、奨学金返済の債務帳消し、つまりチャラにするということです。アメリカでは「学生ローン」の債務帳消しを求めて、若者の大運動が広がっています。政府の第二次補正予算は、一般会計の総額で31兆円以上組まれました。そのうちの9兆円で貸与型奨学金の返済を「チャラ」にすることができます。これから奨学金債務帳消しの運動が広がれば、借りても返さなくてもよくなるかもしれない。学費を減額し、奨学金を給付にする。学費を0にして、奨学金を給付にするという目標を設定すべきでしょう。

仕組み・運動として主張していかないと、いまの若い世代を含めて大学進学をあきらめる人が増えてしまいそうだと改めて感じました。

現在でもあきらめている人が大勢います。一方で新設された日本学生支援機構の給付型奨学金制度で大学に来た学生もいます。給付型奨学金制度で人生が変わるのです。私も一人、「日本学生支援機構の給付型奨学金制度があったから、大学進学することができました」と伝えてくれた学生に、中京大学で出会うことができました。それはとても嬉しい経験でした。返済不要の奨学金で救われた人が出てきているのです。こうしたことがもっと広がってほしいです。

学生の本分は時間があるということに改めて気づかされました。僕たち時間なかったんだなと思います。

学生にはとにかく余暇がないですよね。学生に余暇をつくり出す運動が大事です。自分で考えて、それを他の学生と共有できないことが最大の問題です。ブラックバイトでひどい目にあったり、奨学金が借金になっていることがおかしいという認識を共有することが難しい。2013年、ブラックバイトという言葉をつくりましたが、それ以前から学生のアルバイトはひどかったのです。あのひどい待遇をひどいと思わない、ひどいと思う感覚が奪われているのです。痛い目に合っているのに、痛い目にあっているということがわからないのです。それがおかしいのだと気づく機会が必要です。究極的には「学生であること」を奪われているのです。学生が学生であることを尊重されていない。その問題に気づけることが大事です。

学生が学生として学びを継続する、自己実現していくことが許されない今の状況で、学生としての当たり前の権利を訴えるという原点に返るべきだと思いました。今後も勉強させていただきたいです。どうぞよろしくお願いいたします。

PROFILE

大内 裕和先生 (OHUCHI, Hirokazu)

1967年神奈川県生まれ。東京大学大学院教育学研究科博士課程をへて、現在は中京大学教養教育研究院教授。専門は教育研究。「奨学金問題対策全国会議」共同代表。2013年に「学生であることを尊重しないアルバイト」のことを「ブラックバイト」と名づけて、社会問題として提起する。近年の関心は奨学金とブラックバイトなど、若年層の貧困や中間層解体の問題。主な著書・論文として、『奨学金が日本を滅ぼす』(朝日新書)、『ブラックバイトに騙されるな!』(集英社クリエイティブ)、『教育・権力・社会ーゆとり教育から入試改革問題までー』(青土社)、『ブラック化する教育2014-2018』(青土社)、『「全身〇活」時代』(青土社)など。