いずみスタッフの読書日記 178号 P2


レギュラー企画『読書のいずみ』読者スタッフの読書エッセイ。本と過ごす日々を綴ります。
 
  • 慶應義塾大学4年生
    手賀 梨々子
    M O R E
     
  • 名古屋大学5年生
    後藤 万由子
    M O R E
     
  • 千葉大学3年生
    高津 咲希
    M O R E
     
  • 千葉大学4年生
    三好 一葉
    M O R E
     

 

 

千葉大学3年生 高津咲希

12月上旬

「文楽鑑賞教室」という初心者向けの文楽公演を観に行くことになり、予習をしようと『マンガでわかる文楽』(マンガでわかる文楽編集部=編/誠文堂新光社)を手に取った。
 文楽は人形浄瑠璃の別名で、「時代物」と「世話物」に大別される。ナレーションと台詞を担当する「太夫」、様々な心情や情景を奏でる「三味線弾き」、舞台で人形を操る「人形遣い」の「三業」が合わさった芸能だ。
 いざ劇場に入ると、太夫と三味線弾きが義太夫節を演奏する「床」と呼ばれる小さな廻り舞台が目を引いた。開演が楽しみだ。
 演目が始まる前に人形遣いの方による実演解説があり、人形一体を三人で操る技術の高さに驚いた。人形の心情や性格、品格が細やかな動作や様々なしかけによって表現され、思わず見入ってしまう。
 「団子売り」と「傾城恋美脚 新口村の段」。二つの演目の世界観を堪能し、新たな学びを得られた貴重な体験となった。 『マンガでわかる文楽』購入はこちら >
 

12月中旬

 和食展に行った。「食」に関する展示にテンションが上がり、序盤からじっくりと見過ぎたせいか(?)、気づいたら閉館30分前……!! 展示を出来る限り目に焼き付け、慌てて公式ガイドブックを購入。
 特に、江戸の再現料理のコーナーが興味深く、レシピを調べて作ってみよう!と和食好きの妹と盛り上がった。
 帰りの電車では、気になっていた『夜明けのすべて』(瀬尾まいこ/文春文庫)を読んだ。優しく、あたたかい気持ちになった。『夜明けのすべて』購入はこちら >
 

12月下旬

『izumi』のスタッフを始めてから文章を書く楽しさと同時に難しさも感じている。
 普段使っている表現は正しい日本語なのか? 自分の考えを的確に伝えるにはどの言葉を選んだら良いのか? 何度も文章を読み直し、辞書と睨めっこしながら長時間考え込んでしまうこともしばしば……。
『文にあたる』(牟田都子/亜紀書房)には、校正者である牟田さんの数々の経験や考えが綴られている。
 中でも、「小説のリアリティ」というエピソードが印象深い。フィクションのリアリティ……? 不思議に思いながら読み進めると……なるほど。校正の仕事は私の想像よりも遥かに広範囲に及び、多角的な視点と調査力が必要なのだと感じた。そして、最も専門性が高く、難しい仕事は料理本の「レシピ校閲」なのだそう!『文にあたる』購入はこちら >
 
 
 

 

千葉大学4年生 三好一葉

12月 年の瀬

 卒論が進まない。目を通さなくてはならない文献も一向に頭に入らない。自分の怠惰さと要領の悪さに嫌気がさすけれど、せめて活字に触れて脳を動かさなくては。没入しすぎてしまいそうな小説は避けよう、と思い、先月から読みさしていた『向田邦子ベスト・エッセイ』(向田和子=編/ちくま文庫)を開く。「父の詫び状」をはじめ昔読んだものも多いけれど、別段「理想」とはいえないような人や物事、思い出たちを、他に代えがたい魅力に溢れたものに見せてくれる巧みな言葉選びは、何回読んでも新鮮だ。きっと私は、何十年経ってもこの人の文章を読み返すのだろうなと思う。とても順風満帆とはいえない今の状況をほんの少し、照らしてもらえたような気がして、ほっとひと呼吸ついた。あと一篇読んだら、また机に向かおう。『向田邦子ベスト・エッセイ』購入はこちら >
 

1月 年の初め

 大学図書館に通い詰めているのは卒論のため……だったはずなのだけど、今日貸出機に通してしまったのは前から気になっていた『ヘルシンキ 生活の練習』(朴沙羅/筑摩書房)。何しろ、必要に迫られない読書ほど捗ってしまうものはないのだもの! 二人のお子さんとフィンランドに移り住んだ社会学者が、北欧のリアルを軽妙に語るエッセイ。登場するフィンランドの人々が不思議とチャーミングで、何より現地の価値観についての確かな洞察が興味深い。物事の捉え方のバリエーションって、きっとたくさん知れば知るほど楽しいし、心なしか楽になるような気がするのだ。『ヘルシンキ 生活の練習』購入はこちら >
 

1月 半ばを過ぎて

  漸く学業がひと区切りついたと思ったら気が抜けたのか早速寝込んでしまう。暖房の効いた部屋だけれど、日々冷え込みを増していく冬の空気を感じてみたいような気がして、『氷壁』(井上靖/新潮文庫)を本棚から抜き取った。たぶん初めて読む山岳小説、舞台は前穂高・東壁。先だって読んだ日記『二十歳の原点序章』(高野悦子/新潮文庫)に登場していたのをきっかけに、半世紀前の彼女が没入した物語世界に触れたくて、うっかり買ってしまったのだ。北アルプスは昨秋訪れたばかりで、沢渡、中の湯、明神、徳沢……と聞き馴染みのある地名を布団の中で再び辿れるのが何だか嬉しい。小説は悲劇だけれど、今の時期の雪景色もさぞ綺麗だろうなと呑気なことを思いながら、ぶ厚い文庫本のページを繰る。600頁、まだまだ先は長そうだ。『氷壁』購入はこちら >
 
 
 
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