いずみスタッフの読書日記 180号


レギュラー企画『読書のいずみ』スタッフの読書エッセイ。本と過ごす日々を綴ります。
 
  • 大阪大学3年生
    梅田夏希
    M O R E
     
  • 北海道大学大学院
    熊野有紗
    M O R E
     
  • 千葉大学4年生
     高津咲希
    M O R E
     
  • 電気通信大学大学院
    木村壮一
    M O R E
     

 

 

大阪大学3年生 梅田夏希

7月上旬

 大学図書館の新着図書で『英文対照 天声人語2024春』(朝日新聞論説委員室、国際発信部/原書房)を見つけて借りた。1月~3月の「天声人語」をまとめたもので、読んでみると「このニュースって今年だったっけ? もっと前だった気がするな」というものが結構あって面白かった。英単語もまとめられていて、英語の勉強にもなると感じた。
 テストが週明けにあるにもかかわらず、土曜日の部活後に図書館に寄ってずいぶん時間を過ごしてしまった。雑誌は色々読んでいたが、初めて『世界』(岩波書店)を手に取った。NHKのラジオ番組「高橋源一郎の飛ぶ教室」で聞いて気になっていたので読んでみた。大学では専門的なことを学ぶのみで、社会のことを全然知らないなと改めて感じた。意識的に本や新聞を読んでもっと視野を広げたい。
 
 

7月中旬

 テストが多くなり、教科書以外の本を読む機会が減ってしまった。家で妹の机に『かのこちゃんとマドレーヌ夫人』(万城目学/角川文庫)があるのを見つけた。小5か小6の時に読んで以来、一回も読んでいなかった。このあいだ万城目学さんの『八月の御所グラウンド』(文藝春秋)を読んで面白かったので、『かのこちゃんとマドレーヌ夫人』も急に読みたくなってきた。今まで読売新聞の連載小説「研修生」(多和田葉子)を読んでいたが、テストで読めずに1ヶ月ほど過ぎてしまった。オンラインで夏休みにじっくり読みたい。『かのこちゃんとマドレーヌ夫人』購入はこちら >
 

7月下旬

 7月最後の土日に七大戦(※)があるので、新幹線の道中に何か本を読みたいなと考える。わりと乗車時間も短く外の景色を眺めるのが好きなので、じっくり景色を堪能しようと思う。

※全国七大学総合体育大会……北海道大学・東北大学・東京大学・名古屋大学・京都大学・大阪大学・九州大学の七つの大学間で行われる体育大会
 
 
 

 

北海道大学大学院 熊野有紗

7月上旬

 闇に花火の音を聞く。花火大会の夜になると部屋には爆音だけ届き、花火の光は鬱蒼と茂る夏の木々に遮られあまり見えない。一年目の夏はがっかりしたけれど、最近は別にいいやと思うようになった。なので花火らしき音が響き始めると、窓越しに木々の隙間から微かに漏れてくる光を探し、意味不明の爆竹や何かではないよなと最低限の確認をするだけになってしまった。
 言わずと知れた芥川賞受賞作『火花』(又吉直樹/文春文庫)は花火大会のシーンから物語が始まっている。初手の「花火」でタイトルの「火花」をひっくり返しに来ている。見事な花火から零れ落ち続ける火花、つまり無力で、報われない個人にズームインしていく出だしに引き込まれた。真剣に何かに向き合えば向き合うほど自分だけずれていく悲哀ってお笑いに限った話ではないけれど、生活や人生を懸けて追い続ける夢を掴めなかったら、それこそ笑い話で済まされない地獄だ。だけどお金を稼ぐためとか人気者になるためとか、そんな目的を超越して純粋に何かに打ち込み続ける人にしか見られない光景は必ずあって、お笑いというある種の業を背負って生きる人の凄みがひたすらに眩しい。『火花』購入はこちら >
 

7月下旬

「闇」をテーマにした興味深い語学書を見つけた。その名はずばり『闇の中国語入門』(楊駿驍/ちくま新書)。「精神の限界」「希望が失われる」「尊厳が打ち砕かれる」など、教科書では中々見ないネガティブな単語や例文の解説を通じて、中国社会における競争の激化、格差の拡大、世代間の摩擦などの負の側面も併せて解説している。事実に即し淡々と説明していくスタイルの本書は、中国語学習のみならず、中国人のメンタリティーの一面を知る上で参考になった。少なくとも私は闇落ちすることなく楽しんで読むことができた。それはきっと、中国語で「本音」を伝える手段を得ているという一種の解放感があったからだと思う。「本音」は中国語で「心里活」という。きれいで明るいだけが「心」じゃない。心の裏表すべてを表現して初めて意思疎通ができる。上手くいけば心が通じ合ったと感じる瞬間もある。闇の中国語が詰まった例文と解説を読み返し、今日も心を表す言葉の一端を学んでいく。『闇の中国語入門』購入はこちら >
 
 

「読者スタッフの読書日記」記事一覧

 


ご意見・ご感想はこちらから

*本サイト記事・写真・イラストの無断転載を禁じます。

ページの先頭へ