「キャラクターと読者がつむぐ、創造の時間」
はやみねかおる(小説家)

 




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1.キャラクターとの会話

 

はやみねかおる
『怪盗クイーン 陽炎村クロニクル』
講談社青い鳥文庫 購入はこちら >

伊瀬知
 はじめに、キャラクター設定についてお聞きします。はやみねさんの作品の登場人物は、現実には存在しない特技を持っていても本当に目の前にいるように感じます。キャラクターはどのように考えていらっしゃるのでしょうか。

はやみね
 物語を書くとき、二通りの方法があります。ひとつは、すでに出来上がっているキャラクターからストーリーを書いていく方法。もうひとつは、書きたいストーリーに合わせてキャラクターを作っていく方法。前者の場合、なぜそんなキャラクターが出てきたのかと聞かれても説明に困るのですが、勝手に出てくるんですよ。出てきたキャラクターをストーリーの中で動かしていきます。後者の場合、たとえば今書いている『怪盗クイーン』のヴェネチアの話では、数学の「0(ゼロ)」が関わってくるので、導入として数学の先生のようなキャラクターが必要だと思いました。頭の中で「数学の先生」を思い浮かべると、スーツを着て、髪を整えて、眼鏡をかけた理知的な人物が浮かぶ。でも、それだけだと面白くないので、その人と頭の中で会話をしていくんです。たとえば42歳で独身。なぜ独り身なのかと聞くと、数学の美しさは分かるけど、女性の美しさは分からない。それを平気で口にしてしまう。だから独身なんだな、と。そんなふうに、性格や欠点まで含めてキャラクターと対話していくうちに、人物像がだんだん固まっていく感じですね。
 
齊藤
 そうして生まれたキャラクターの中で、はやみねさんご自身が一番お気に入りの人物は誰でしょうか。あるいは、自分に近いと思うキャラクターはいますか。

 

はやみね
 「夢水清志郎」シリーズに出てくる上越警部が一番好きで、尊敬もしています。夢水清志郎は生まれつき推理能力を持った名探偵ですが、上越警部は、さまざまな苦労や経験を重ねて警部になった人物です。自分の経験を「刑事の勘」として大切にしながら仕事をしている。自分で身につけたものをしっかり持って仕事をしている人を、子どもの頃からかっこいいなと思っているので、上越警部みたいな大人がいいなと思います。
 自分に近いキャラクターとしては、外見的にはレーチ(中井麗一)ですね。背が低くて髪が長く、ダボダボの学ランを着ているキャラクターです。昔はサバイバル能力があるという点で内藤内人に似ていると言っていましたが、『都会のトム&ソーヤ(以下、マチトム)』が映画化して城桧吏さんが内人を演じてくださってからは、自分が内人に似ていると言うのは城さんのファンに申し訳なくて、あまり言わないようにしています(笑)。あとは、『打順未定、ポジションは駄菓子屋前』の主人公のヌク(春日温)も自分に近いキャラクターだと思います。

 

 

2.本と過ごす大学時代

 

山原
 今回は大学生向けの冊子ですので、大学時代のお話も伺いたいです。はやみねさんは、どんな大学生でしたか。

はやみね
 下宿にこもってずっと本を読んでいるような学生でした。単位を心配した友達が「講義だよ」と誘いに来てくれても、こたつに潜り込んで居留守を使って本を読んでいるような、どうしようもない学生でしたね。4年生の後期の時点で1年生の時に取るべき単位が2つも残っていて、卒業単位数ギリギリのダメな大学生でした。

 
山原
 『都会のトム&ソーヤ』21巻に、「四年生になっても一年生に交じって授業を受けていた物書きを、ぼくは知ってるよ」(66頁)という会話が出てきたので、はやみねさんの大学時代の経験が生かされているんだろうなと思いました。

はやみね
 本当に肩身が狭かったですよ(苦笑)。

山原
 単位が危うくなるほどに本を読んでいたということですが、大学生の頃に読んで人生に影響を与えたなと思う本はありますか。
 

対談で取り上げられた本

新井素子
『・・・・・絶句 上・下』
ハヤカワ文庫JA/定価(各)902円(税込) 購入はこちら >

 
はやみね
 新井素子先生の『・・・・・絶句』(現在、ハヤカワ文庫JA)です。発売されたという情報を掴んで大学近くの本屋さんに行ったのですが置いてなくて。どうしても欲しかったので、空手の練習が終わってから18時の近鉄特急に乗り、大阪まで買いに行きました。帰ってきて一晩中かけて読んで、そのまま徹夜で次の日の朝バイトに行ったというぐらい、この本のことはよく覚えています。

山原
 どんな本なのですか。

はやみね
 実際に読まれるのが一番だと思いますが、新井先生が、読んだ人が絶句するぐらい面白い本を書こうとして書いた本です。
 
山原
 たくさん本を読まれたことも含めて、大学生の頃にやってよかったこと、逆にやらなければよかったなと思うことを教えていただきたいです。

はやみね
 今こうやって原稿を書いて生活できているのは、子どもの頃からずっと本を読んでいたからだと思います。なので、読書はやってよかったことですね。もし自分が物書きになっていなかったら、あんなに本を読まなくてよかった、というより、人生がおかしくなっていたぞと言いたくなりますね。諸刃の剣で、読書はやってよかったことでもあるし、やらなくてもよかったことだったかな、とも思います。
 ほかにやってよかったのは、映画を撮ることです。僕はあまり仲間と何かをするのは苦手でしたが、映画を撮ることで、みんなと一緒に何かするのはすごく面白い、ということを教えてもらいました。逆に、やればよかったのは、もう少し真面目に講義に出ることですね。

山原
 はやみねさんがたくさん本を読んで作家になってくださったおかげで、私たちのように影響を受けている子どもがたくさんいることを思うと、はやみねさんが子どもの頃からたくさん本を読まれていたことは、やはりすごくよかったことなのではないかと思います。
 

 

3.執筆活動の原点 先生と小説家

 

齊藤
 学生時代から執筆されていたとお聞きしましたが、そのきっかけや、どんな作品を書かれていたのかを教えてください。

はやみね
 読みたい本がなくなったことが一番大きかったですね。不便なところに住んでいたので、「ないものがあれば自分でなんとかせえ」と、子どもの頃から叩き込まれていました。じゃあ自分で書けばいいかと。そこから執筆を始めました。
 最初に書いたのは、花火大会が行われる時に、その資材をヤクザたちが盗もうとしているのを中学生たちが止める、という話。未完に終わってしまいましたけどね。ちゃんと作品を完成させられるようになったのは中学生の頃で、高校生になってやっとまとまった話を書けるようになりました。高校時代に書いた作品でいうと、たとえば「餃子の皮」というタイトルのSFストーリー。その2作目は「玄米茶の葉っぱ」。全部、レポート用紙に手書きで書いていました。
 高校の頃はミステリとSFを主に書いていたのですが、人生で一度だけ、高校3年生の時に純文学に挑戦したことがあります。題名は「シリウス」。なぜかというと、純文学というのは真面目でシリアスな話でないといけないと思ったからで、純文学作家から怒られそうな話です(笑)。高校時代に一番頑張って書いたSFは、「餃子の皮」「玄米茶の葉っぱ」の三部作の完結編となる「三月兎友の会」という作品。ミステリでは、「推理小説の料理法」という作品です。
 自分のように物語を書く人は周りにいなかったので、ひょっとするとプロになれるんじゃないか、と思いながら書いていました。クラスの友達からも、わりと評判が良かったです。楽しかったな、あの頃は……。今はリアルに感想を言ってくれる人が周りにいないので、かなり寂しいです。

 
齊藤
 書いたものは友達にどんどん読んでもらっていたのですか。

はやみね
 そうですね。小説家になりたいという子どもには、「書いたら絶対周りの人に見せて、何でもいいから感想をもらいや」と言っています。どんなにすごい話でも、独りよがりになるとだめだと思うので。できるだけ感想もらうといいよ、と。できれば、正直に言ってくれる人がいいですね。

齊藤
 「夢水清志郎」シリーズに出てくる亜衣ちゃんのように、書いたものを賞に出すことは、学生の頃からされていたのですか。

はやみね
 大学3年の時に応募しましたが、全部落ちました。4年生の頃は、卒業論文の提出締め切り2日前まで、江戸川乱歩賞の原稿を書いていたんです。でも、それも落ちてしまいました。

齊藤
 その上で先生になる道を選ばれたのは、ゆくゆくは小説家になりたいと思いつつも、先生になろうと気持ちが変わっていったのでしょうか。

はやみね
 いえ、江戸川乱歩賞に落ちたら小説家の道は諦めようと思っていました。兄も教師だったので、その仕事がすごくたいへんなものだと思っていましたし、小説家は諦めて先生を一生懸命やろうと。実際、「もう二度と原稿は書きません」と、学生最後の原稿のあとがきに書きましたね。

齊藤
 『怪盗道化師』の最初の読者は、当時の教え子の方々だったかと思います。子どもたちはこの作品を読んだとき、どのようなリアクションでしたか。

はやみね
 『怪盗道化師』を書いたのは、小学校の先生になって2年目の頃でした。当時、クラスで悪口が流行っていて、なんとか指導しなければいけない状態だったんです。でも、23歳ぐらいの若造が偉そうに言っても、子どもたちは聞くわけがないなと思って。だったら、悪口を盗む泥棒の話を書いたら、少しは響くのかなと思い、『怪盗道化師』を書きました。僕が黒板にキャラクターの絵を描きながら話をすると子どもたちは本当に喜んでくれましたし、印刷して配ると、保護者の方も「面白い」と言って喜んで読んでくれました。

齊藤
 『怪盗道化師』のいいところは、教室から生まれた物語だというところだと思います。誰かに届けたいと思って書かれている物語なんだと感じながら読んでいたので、お話を聞いて、さらに納得しました。

 
 
P r o f i l e

はやみね・かおる
1964年、三重県に生まれる。三重大学教育学部を卒業後、小学校の教師となり、クラスの本ぎらいの子どもたちを夢中にさせる本をさがすうちに、みずから書きはじめる。「怪盗道化師」で第30回講談社児童文学新人賞に入選。
「名探偵夢水清志郎事件ノート」「怪盗クイーン」「都会のトム&ソーヤ」「少年名探偵虹北恭助の冒険」などのシリーズのほか、『バイバイ スクール』『オタカラウォーズ』『ぼくと未来屋の夏』『令夢の世界はスリップする』(以上、すべて講談社)『モナミシリーズ』(角川つばさ文庫)『奇譚ルーム』(朝日新聞出版)など著書多数。子ども自身が選ぶ、うつのみやこども賞を4回受賞。漫画版「名探偵夢水清志郎事件ノート」(原作/はやみねかおる、漫画/えぬえけい 講談社)で第33回講談社漫画賞(児童部門)受賞。第61回野間児童文芸賞特別賞受賞。
 

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