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4.今の子どもたち 変わったのは大人

伊瀬知
私は今、教員免許を取るために大学で勉強しています。先生のご経験があるはやみねさんが、今あらためて学校の先生として授業をするとしたら、どんな授業をしてみたいですか。
はやみね
授業が終わるチャイムが鳴っても、もうちょっとやってと言われるような面白い授業をしたいですが、絶対に無理でしょうね。
伊瀬知
何の教科がいいでしょうか。
はやみね
数学科出身なので、やるとしたら算数がいいですね。算数という教科は、先生が一番やりたい授業であり、子どもたちが一番受けたくない授業だとも言われているんです。このギャップがなぜ生まれるのかを、先生はもう少し考えなければいけないと思います。
伊瀬知
ちなみに、はやみねさんはなぜ先生と子どもたちの間にこうしたギャップが生まれているとお考えですか。
はやみね
算数や数学の魅力を、教える側が理解しないまま、ただ答えまで案内すればいいと考えているからではないかと、今になって思いますね。自分自身、反省点の多い授業をしてきたので……。
伊瀬知
確かに、算数は答えが決まっているから、授業するのが難しいなと思っていました。
はやみね
そこに早くから気づかれたのはすごいですよ。
伊瀬知
子どもと関わるボランティアの中で、休みの日の過ごし方を聞くと、だいたい「ゲーム」と答えます。はやみねさんの作品には、いろいろな場所に行き、自分の頭を働かせて問題解決するキャラクターが多く、現代の子どもたちとは、少し違う印象があります。スマートフォンやゲーム機で簡単に遊べる今の時代の子どもたちを、はやみねさんはどうお考えですか。
はやみね
現代は、自分の子どもの頃に比べてすごく便利になりましたよね。今の子どもたちは遊ぶものもたくさんあって、正直うらやましいです。ただ、いざ便利さが失われたときには、すごく困るだろうし、もう少し危機感を持っておいた方がいいのではないかと思います。
山原
『マチトム』の中には、普段の生活では得られないような知識が楽しくちりばめられていて、大人に「覚えろ」と言われるよりも、自然と自分の中に入ってきます。「工夫次第でなんとかなる」ということを、私ははやみねさんの作品から教えてもらったので、これからも忘れずに生かしていきたいと思いました。
伊瀬知
便利な時代に生きる子どもたちに対して、これからどのように成長していってほしいと思われますか。
はやみね
便利な道具があるなら、それを使いこなせる人間になってほしいですね。いざ困った状況になったときには、周りを見回して、自分でなんとかできる、そんな知恵のある人間になってほしいです。
伊瀬知
以前インタビューで「困った状態が自分の知恵によって解決したら最高に楽しい」とおっしゃっていましたが、さまざまな道具がある今だからこそ、自分の知恵を上手に働かせることで、いろいろな楽しさを感じたり困難を乗り越えられたりするのではないかと思いました。
はやみね
知恵を身につける機会が、できるだけたくさん、子どもたちに訪れてほしいなと思います。
伊瀬知
子どもたちが知恵を上手に使えるようになるために、大人や私たち大学生、学校の先生にどう関わっていってほしいと思われますか。
はやみね
「手を出さない」ことですね。まず子どもたちが困らないことには、知恵も身につかないし、考えることもしません。基本的に大人は、子どもを困った状況に置くことが仕事だと思います。ただ、気持ちだけは、ずっと側に置いておかないといけない。よく先生をしていたころに言われたのは、「子どもが小さいうちは、手を離すな」。ある程度育ったら、「手を離してもいいが、目を離すな」。もっと大きくなったら、「目を離してもいいが、気持ちを離すな」と。
齊藤
作家生活を何十年も続けてこられて、ずっと子どもたちに向けた作品を作ってこられたと思います。先生という立場を離れて作家として仕事をするにあたって、最近の子どもの様子を知るために何か意識的にチェックしているのでしょうか。それとも、昔と同じ子ども像を描いて執筆されているのでしょうか。
はやみね
あえて今の子どもたちの様子を聞くことはしていないんですよ。小学校の先生を辞めてしばらくしたころに取材をしたこともありましたが、自分が小さかった頃と同じで、面白いことが好きという子どもの本質は変わっていないと思いました。変わったのは大人の方だと強く感じますね。
齊藤
大人は、どう変わったと思われますか。
はやみね
とにかくやかましい。子どもに対して手を焼きすぎです。昔の親は今のように過干渉ではなかった。もっと子どもを放っておいていい。そのうち親の方が大変な目に遭うと思いますね。
5.創造の行先
山原
ここ数年、はやみねさんの作品の中で人間の力を超えた何かの存在が描かれているように感じます。こうした不思議な存在は、最初から構想していたものなのでしょうか。
はやみね
自分が物語を書いていると、時々「あれ、なんでこんなことを書くのだろう」と思ったり、「こんなことを書くつもりはなかったのにな」ということを書いてしまうことがあります。これは何なのかと考えていくうちに、自分は何かに書かされているのではないかというイメージが浮かんできました。自分の意志で動いているのだろうか、もし自分の意志ではないのだとしたら、一体それは何なのか。いわゆる神様のような存在がいるのか、と考えるうちに、いろいろ妄想が広がっていったんです。たとえば、今書いている『怪盗クイーン』のヴェネチアの話では、時間と空間についてものすごい推論をしています。理系の学問を専門にされている人から見たら、頭がおかしいのではと言われるような発想かもしれませんが、それをもとに執筆しています。また書けたら、ぜひ読んでみてください。
齊藤
シリーズものを書くときと単行本を書くときで違いはありますか。キャラクターが生まれた段階でシリーズになると分かって書き始められるのか、それとも書き進めるなかでシリーズにしようと考えられるのでしょうか。
はやみね
例えば『マチトム』は1冊で終わるつもりでしたが、本になったときに背表紙を見たら「①」と書いてあって(笑)。なんだこの「①」は! と思いましたね。『怪盗クイーン』も、シリーズにするつもりはなかったのですが、クイーンが勝手にどんどん話を作るので、結果的にシリーズになってしまいましたね。「夢水清志郎」シリーズは、デビューして間もなかったこともあり、自分の中にストーリーがたくさんあって続けて書きたいと思っていました。ただ、当時の青い鳥文庫の部長から「読者が読みたいと言わなかったら書いてはいけない」と言われて。なのでこれは読者のおかげで2冊目が出たシリーズですね。結局シリーズになるかどうかは、時と場合によっていろいろです。
山原
「夢水清志郎」シリーズが大好きなので、当時の読者の方への感謝の気持ちでいっぱいです。
はやみね
そうか、皆さんは当時の読者さんではないのですね……。
山原
私が生まれる前に始まった作品ですが、普遍的に面白いものは、どの時代も読者の心に刺さるのだと思います。はやみねさんは小・中学生向けに作品を書いておられますが、私は今でもずっと読み続けていますし、私の周りでも大学生になっても読んでいる人がたくさんいます。人間の根底にあるワクワクが詰まっているから、どんな年代の人が読んでも面白いのだと思います。
はやみね
ありがとうございます。褒められすぎて恥ずかしいです。
齊藤
以前から引退についてのお話が出ていますが、引退するまでに、書いておきたいものや完成させたいものはありますか。
はやみね
ずっと65歳で引退と言っていましたが、いろいろな事情で、今は92歳で引退と言っています。65歳までに、今書いている「赤い夢」という物語の世界の全体をきちんと説明できるまで書きたいですね。65歳を過ぎてからは、シリーズにはせず、1年に1冊か2冊くらい書けたらいいなと思っています。
齊藤
「赤い夢」の構想は、書き始めたときからずっとあったのでしょうか。それともどこかのシリーズをきっかけに始まった世界観なのでしょうか。
はやみね
「赤い夢」という言葉は、小林信彦先生の書かれた『オヨヨ大統領』シリーズ(角川文庫)の中に出てきた言葉です。意味もよくわからないまま、「赤い夢」という言葉が自分の書くものに似合うなと思い、ずっと使わせてもらっています。もう35年以上書いていますが、だんだん自分の書いている「赤い夢」というものが見えてきました。その見えてきたことをきちんと伝えるために、広げていた風呂敷を畳んでいる途中です。
6.読者と育つ物語

山原
昔は小学校で直接作品を読んでもらい、子どもたちの反応をその場で受け取っていらしたと思いますが、最近では赤い夢学園(
ファンクラブサイト)で、読者との交流も続けていらっしゃいます。読者と交流することで得られるものはありますか。
はやみね
僕は男三兄弟の末っ子で、兄ちゃんを喜ばせたいと思っていつも過ごしていたので、人が喜んでくれると本当に嬉しいんです。ですから、読者の皆さんが作品を読んで喜んでくれるのは、やはりとても嬉しいですね。皆さんとても真剣に作品を読んでくださっていて、本当にありがたい存在です。
山原
読者との交流によって、キャラクターの見え方が変わることはありますか。
はやみね
たとえば「怪盗クイーン」シリーズに出てきたヴォルフというキャラクター。最初は武闘派でかっこいいキャラクターでしたが、読者の反応を見ているうちに、だんだんどうしようもない野良犬みたいなキャラクターに変わった気がします。やはり読者が喜んでくれるようなキャラクターを出したいなとも思いますね。
齊藤
はやみねさんの作品は、初めて作家の方の存在を感じた本でした。青い鳥文庫のあとがきで、どんなことを考えて書いているかが書かれていて、物語は人が一生懸命考えて書いているから面白いんだと気づきました。あとがきを書くときにどんなことを大切にされているのか教えてください。
はやみね
まずは読者に向けて、「最後まで読んでいただいて嬉しい、ありがとうね」という気持ちを伝えたいですね。それから、本ができるまでに関わってくれた家族、編集者さん、イラストレーターの先生、流通や書店の方々など、すべての人への感謝を、最後にきちんと伝えたいと思って書いています。
齊藤
はやみねさんのあとがきは本当にあたたかくて、人柄が伝わってくるところがすごく好きです。
7.「赤い夢」の先へ
齊藤
公私含めた先生の今後の目標を教えてください。
はやみね
まずは65歳までに「赤い夢」の風呂敷をたたむこと。それ以降は、今勉強している仕掛け絵本を作ってみたいなと思っています。今までやったことのない仕事をしてみたいですね。
齊藤
最後に、この記事を読む大学生に向けてメッセージをお願いします。
はやみね
進路などいろいろなことで悩むと思います。大学に行かずにゴロゴロしていた人間が言うのもなんですが、人生なんとかなります。とにかく毎日一生懸命過ごしていたらなんとかなるので、諦めずに毎日楽しく過ごしてください。
齊藤
お忙しい中、どうもありがとうございました。
(取材日:2026年1月16日 リモートにて)
はやみねかおるさんからのメッセージ

サイン本プレゼント!
講談社青い鳥文庫
はやみねかおるさんのお話はいかがでしたか。
はやみねさんの著書『怪盗クイーン 陽炎村クロニクル』(講談社青い鳥文庫)のサイン本を5名の方にプレゼントします。
下記Webサイトから感想と必要事項をご記入の上、ご応募ください。
応募締め切りは
2026年5月31日まで。
当選の発表はサイン本の発送をもってかえさせていただきます。
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対談を終えて

齊藤ゆずか
初めて小学校の図書館で「夢水清志郎」シリーズを手に取ったときのことを、いまでも覚えています。クリスマスや誕生日には決まってはやみねさんの本を買ってもらい、パーティそっちのけで読みふけり怒られたことも。初めてその生き方にあこがれ、ファンになった作家さんで、取材できて本当にうれしかったです。作品のあとがきににじみ出ていたお人柄そのまま、わたしたちの質問に真剣に丁寧に答えてくださり、ありがとうございました。

山原和葉
小学生の時にはやみねさんの作品を初めて読み、自分の人生にとても大きな影響を受けてきましたので、はやみねさんとお話しできた時間は夢のようでした! ずっと読み続けてきて良かったと思いました。今後の展望など貴重なお話を伺うことができて、ファンとしてこれからの作品への期待がますます高まりました! いつまでもはやみねさんのように楽しむ心を忘れずに、はやみねさんの本を読み続けていきたいと思います。

伊瀬知美央
様々な意味で私にとって始まりの物語を描いてくださったはやみねさん。作品を読む中で感じる、秘密基地を組み立てていく時に感じるようなワクワク感の背景には、子どもを厳しくも真剣に見守る姿勢があったような気がした。環境が変わっても意外と子どもは変わっていない。複雑で解決困難な課題が多い今を子どもが少しずつ、自分の知恵で乗り越えていけるように、支える大人になりたい。
P r o f i l e

はやみね・かおる
1964年、三重県に生まれる。三重大学教育学部を卒業後、小学校の教師となり、クラスの本ぎらいの子どもたちを夢中にさせる本をさがすうちに、みずから書きはじめる。「怪盗道化師」で第30回講談社児童文学新人賞に入選。
「名探偵夢水清志郎事件ノート」「怪盗クイーン」「都会のトム&ソーヤ」「少年名探偵虹北恭助の冒険」などのシリーズのほか、『バイバイ スクール』『オタカラウォーズ』『ぼくと未来屋の夏』『令夢の世界はスリップする』(以上、すべて講談社)『モナミシリーズ』(角川つばさ文庫)『奇譚ルーム』(朝日新聞出版)など著書多数。子ども自身が選ぶ、うつのみやこども賞を4回受賞。漫画版「名探偵夢水清志郎事件ノート」(原作/はやみねかおる、漫画/えぬえけい 講談社)で第33回講談社漫画賞(児童部門)受賞。第61回野間児童文芸賞特別賞受賞。
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