わが大学の先生と語る「平手先生の推薦図書」


『書物について』
清水徹
岩波書店/本体4,600円+税

書物とは何か。書物の誕生からマラルメの「書物」と電子書籍まで、さまざまなエピソードを織り込みながら書物とテクストについて語られる。書物の物質性に拘った日本人フランス文学者による魅力的な書物史。


『印刷という革命』
アンドルー・ペティグリー<桑木野幸司=訳>
白水社/本体4,800円+税
原題は『ルネサンス期における本』。1601年以前に出版された現存版本をデジタルアーカイブ化(USTC)した著者が最新の研究成果を網羅して印刷本を論じた。読みやすい訳文で、600頁の大著であることを忘れる。

『読むことの歴史』
ロジェ・シャルティエほか<田村毅=訳>
大修館書店/本体6,000円+税
テクストは読まれなければ存在しない。テクストの歴史は読むことの歴史でもある。本書は12名の研究者による古代から「未来」までの読書史。読み方、読む行為はそれぞれの社会でどのように機能し、影響を与えたのか。

『続明暗』
水村美苗
ちくま文庫/本体900円+税

漱石の模作のようでそうではない。読み進むうちに不思議に漱石を忘れ水村の世界になる。これは12歳から大学院まで英語で教育を受けた著者による、近代文学、漱石を読むことの答えでもある。まず『明暗』を読むべし。


『続 羊の歌』
加藤周一
岩波新書/本体840円+税
敗戦後、青年加藤は渡欧する。そこで文化とは「形」であることを発見した。しかし、それだけではない。ここには加藤の恋愛もあるし、日本文化の「今」と「ここ」の発見の旅の始まりもある。自ずと戦前の『羊の歌』にも遡りたくなる。

『生きることと考えること』
森有正
講談社現代新書/本体760円+税
加藤の1年前に渡欧した森は東大助教授の職を捨ててパリに留まった。パリの孤独な生活の中で感覚が目覚め、経験が思想となる。彼の「経験」とは何だったのか。独特な語り口で「生きること」は「考えること」であることが語られる。

『或る「小倉日記」伝』
松本清張
新潮文庫/本体710円+税

清張の魅力は短編にある。体が不自由な田上耕作は、美しい母ふじに支えられ、「今にみろ」と鴎外の「小倉日記」を必死に追う。その執念を簡潔な文体で見事に描く芥川賞受賞の表題作の後にはキレのある現代小説の傑作短編が続く。


 

『映画術 その演出はなぜ心をつかむのか』
塩田明彦
イースト・プレス/本体2,300円+税

映画監督塩田明彦による映像演出についての連続講義。それは観る側にはそのまま格好の映画論となる。古今東西の名作シーンの人物の動き、顔、視線、表情を鋭く分析して実に面白い。これを読めば映画の見方が変わる。






 
P r o f i l e

平手 友彦 (ひらて・ともひこ)
1960年生まれ、愛知県出身。広島大学大学院総合科学研究科教授。
1984年愛知県立大学外国語学部フランス科卒業、1988年岡山大学大学院文学研究科修士課程(仏文学)修了、1992年トゥール大学ルネサンス高等研究所DEA専門研究課程修了、1994年大阪大学大学院言語文化研究科博士後期課程(言語文化学)単位取得退学。1998年広島大学総合科学部助教授を経て2014年4月より現職。専門はフランスルネサンス文学・文化論、テクスト文化論。博士(言語文化学)。

■主な著書・共著・論文
「「グリセルダ物語」再考 ─Anthoine Vérardの出版戦略をめぐって─」(共著『シュンポシオン 高岡幸一教授退職記念論文集』朝日出版社、2006)、「テクストと読書の文化史」(共編著『21世紀の教養5 知の根源を問う』培風館、2008)、「エラスムス計画からボローニャ・プロセスあるいはエラスミスム─知識基盤経済の中の高等教育」(共編著『世界の高等教育の改革と教養教育─フンボルトの悪夢』丸善出版、2016)、論文「フランソワ1世治下のパリのブルジョワ日記(前・後)」(『欧米文化研究』、2009-2010)、映画論として「『二十四時間の情事』Hiroshima mon amourのトラベリング ─トポスとしてのヒロシマ、記憶と忘却 ─」(『フランス文学』、2017)。

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