わが大学の先生と語る「松嶋先生の推薦図書」


『文化人類学の思考法』
松村圭一郎・中川理・石井美保(編)
世界思想社/本体1,800円+税

いわゆる文化人類学入門ではなく、今の社会の「あたりまえ」の外に出ようと欲するすべての人に向けた文化人類学的思考の道具箱(玉手箱?)。「近さ」と「遠さ」を往還しながら考える人類学の醍醐味の一端を体験してほしい。


『分裂病と人類(新版)』
中井久夫
東京大学出版会/本体2,800円+税
かすかな兆候を捉え、先取り的に生きる微分的認知は統合失調症の特徴だが、それは狩猟採集民の認知特性でもある。「精神疾患」とされるものの人類史的な意味の考察を通して、現代社会の強迫的性格までも照射する人類学的精神病論。

『プシコ ナウティカ──イタリア精神医療の人類学』
松嶋健
世界思想社/本体5,800円+税

精神病院に凝縮された国家の統治と社会防衛の論理に代わり、ケアにもとづく直接的な関係性の場をどう開くのか。「精神病院なし」で生きることを選択したイタリアの地域精神保健から考える精神と社会のエコロジー。


『経験のための戦い──情報の生態学から社会哲学へ』
エドワード・S.リード<菅野盾樹=訳>
新曜社/本体2,800円+税

独力で世界を探索する丶丶丶丶丶丶丶丶丶丶手助けを、いまだにほとんど、あるいは全くしていない社会はどうかしている」。間接経験が直接経験に取って代わられていく現代世界に向けて、夭逝した生態心理学者が残した渾身のメッセージ。


『国家に抗する社会──政治人類学研究』
ピエール・クラストル<渡辺公三=訳>
水声社/本体3,500円+税
未開社会は国家なき社会ではなく、国家の出現に抗う社会である。それは、生を自らの手にするため、誰かのための余剰生産労働を拒否する社会でもある。南米先住民社会に「国家なし」の積極的意義を見出した人類学者による、それ自体預言のような著作。

『司法的同一性の誕生──市民社会における個体識別と登録』
渡辺公三
言叢社/本体3,800円+税
国家は個人を識別・同定・登録する。19 世紀フランス人類学の「人種」に関わる学知は、人類学の外で個人の身元(司法的同一性)を確定する技術に変貌する。指紋から生体認証へと技術が進化する現在、「文化」人類学が解放しようとするものは何か。

『海に生きる人びと』
宮本常一
河出文庫/本体760円+税

「西彼杵半島に家船の残ったのも政治的な義務や負担から逃れるために貧しくとも自由な世界を選んだ為と考える」。こうした一文に宮本の思いが垣間見える。移動する生から見た列島の民衆社会史の始まりを告げる名作。


『ルポ雇用なしで生きる──スペイン発「もうひとつの生き方」への挑戦』
工藤律子
岩波書店/本体2,000円+税

雇用されて賃金をもらう生き方しかないように思えるのはなぜなのだろう。スペインで金融危機を経て現行システムの陥穽に気づいた人々は、「雇用なし」で生きる方法を真剣に模索する。時間銀行や補完通貨など様々なヒントに満ちた試みの報告。



 
P r o f i l e

松嶋 健 (まつしま・たけし)
1969 年生まれ、大阪府出身。
広島大学大学院社会科学研究科 准教授。
2009 年、京都大学大学院人間・環境学研究科 博士後期課程 研究指導認定退学(博士<人間・環境学>)。京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科、京都大学人文科学研究所、成安造形大学附属芸術文化研究所、国立民族学博物館等の研究員を経て、2015 年より現職。専門は文化人類学、医療人類学。

■著書・論文
主な著書に、『プシコ ナウティカ─イタリア精神医療の人類学』(世界思想社、2014 年)、『トラウマを生きる─トラウマ研究1』(2018 年)『トラウマを共有する─トラウマ研究2』(2019年)(以上、ともに共編著、京都大学学術出版会)、『文化人類学の思考法』(共著、世界思想社、 2019 年)、『医療人類学を学ぶための 60 冊─医療を通して「当たり前」を問い直そう』(共著、明石書店、2018 年)、『世界の手触り─フィールド哲学入門』(2015 年)『動物と出会うI─出会いの相互行為』(2015 年)『自然学─来るべき美学のために』(2014 年)(以上、ともに共著、ナカニシヤ出版)、『身体化の人類学─認知・記憶・言語・他者』(共著、世界思想社、2013 年)。

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