わが大学の先生と語る「上山先生の推薦図書」


『サリン事件死刑囚 中川智正との対話』
アンソニー・トゥー
角川書店/本体1,400円+税

サリン事件の実行犯の一人と接見を重ねる中で得られた話が、科学者らしい淡々とした表現で記述されているなかに、事件の解明という作業、犯罪者の責任、そして刑罰(死刑)を科すことなどについて深く考えさせられるものが滲み出ている。


『「ぐずぐず」の理由』
鷲田清一
角川学芸出版/本体1,600円+税
身の丈にあった実感を語る言葉を獲得したいと思っている人には、この著者の著作はどれもとても刺激的だろうと思う。「耳を傾ける」「待つ」といった自律を大切にする哲学を展開している著者が、擬態語についての考察を展開している本である。

『介護士からプロ棋士へ 大器じゃないけど、晩成しました』
今泉健司
講談社/本体1,400円+税
人生をかけてプロを目指したが通常のルートではプロ資格を得ることができず挫折した著者が、そこから針の穴ほどの可能性しかないプロ資格への道を切り開いた話。読むと心が前向きになる本。あわせて大崎善生『将棋の子』(講談社文庫)を読むとよい。

『現代かたぎ考』
福田定良
法政大学出版局/本体2,400円+税
高校を卒業して大都会に出て面食らった自分が何に面食らったのか腑に落ちる感触があった。「堅気」が隠れ持つ怖さに戸惑ったのであった。哲学は、体験したことを経験へと昇華してくれることもある。

『人工知能はどのようにして 「名人」を超えたのか?』
山本一成
ダイヤモンド社/本体1,500円+税

将棋の名人を越える技量をもった将棋プログラムを開発した著者が、AI の特色をわかりやすく書いている本。人工知能と人間知能の違い、そして「知能」と「知性」の違いなどを考えさせられる本。


『江夏の21球』
山際淳司
角川新書/本体840円+税
賛美または批判する意見の是非を過度に意識したようなスポーツエッセイも少なからず見受けられる中で、この著者はスポーツ選手、そして選手を選手たらしめているスポーツ競技そのものへの愛情が満ちあふれているエッセイを書いている。

『考える力をつける本』
畑村洋太郎
講談社+ α 新書/本体800円+税

著者は機械工学者であり、現実に根ざしたプラグマティックな視点が生み出す発想を持っている。その哲学は魅力的でしかも現実性がある。単なるハウツー本ではないが、ハウツー的な助言も盛り込まれていて、その点でも有益である。


『私的所有論』
立岩真也
勁草書房/本体6,000円+税

概念的な理論整理では拾いきれないものを言葉にして伝達しようとしている。自分の中にある社会常識的固定観念と現実に直面したときに感じるであろう実感のズレを意識化することができる。真剣に読めば内省的な視野が広まる。


P r o f i l e

上山 友一(うえやま・ゆういち)
■略歴
1960 年生まれ、鳥取県出身。
愛媛大学法文学部 准教授。
大阪大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学(修士法学)。平成元年、愛媛大学教養部の法学担当教員として採用され、その後愛媛大学法文学部に法情報論担当として配置換え、現在に至る。法理学、法思想史、法情報論などを担当。専攻は法哲学。
■著書・訳書
『情報化社会のリテラシー 改訂版』(共著、晃洋書房、2010年)、『法学・哲学論集』(共訳< H.L.A ハート= 著>、みすず書房、2019 年)。

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