わが大学の先生と語る「小倉先生の推薦図書」


『幸福論』
アラン<神谷幹夫=訳>
岩波文庫/本体900円+税
誰でも幸福を願っている。しかし巷に流布するお手軽な幸福のレシピが役立つとは思えない。西洋哲学の伝統を踏まえて展開される本書は幸福論の古典で、しばしば辛口の議論を展開し、読者に精神的な強靭さを求める。邦訳は数種類あり。

『歴史を読み替えるジェンダーから見た日本史』
久留島典子、長野ひろ子、長志珠絵
大月書店/本体2,800円+税

ジェンダー(社会的性差)は社会や文化を考えるうえで今や不可欠の要素である。本書は「歴史のなかで女性はどこにいるのか」という問いかけから出発して、日本の歴史をジェンダーの視点から読み直した通史。『ジェンダーから見た世界史』は姉妹編。


『苦海浄土』
石牟礼道子
講談社文庫/本体760円+税
水俣病はかつて人々を苦しめた典型的な公害病。水俣で暮らした著者が、その病を生きた住民たちの苦悩を語りつくした鎮魂の書である。方言を交えた独特の文体で、人間の尊厳を根本から問いかけた現代日本文学を代表する作品。

『オリエンタリズム 上・下』
エドワード・W.サイード<今沢紀子=訳>
平凡社ライブラリー/本体(各)1,553円+税

オリエンタリズムとは、西洋がみずからの東洋支配を正当化するために創出した概念である、という主張を展開した、いわゆるポストコロニアル批評の聖典。他者や異なる文明を理解することの難しさと必要性を教えてくれる。


『日本の近現代史をどう見るか』
岩波新書編集部=編
岩波新書/本体860円+税
社会史、民衆史、表象史などの成果にもとづいて書かれた新しい日本の通史。歴史は一つではない。研究方法の変化によって、明治以降の日本近現代史も読み替えが行なわれている。世界を理解するためにまず日本の歴史を知ってほしい。

『安楽死・尊厳死の現在』
松田純
中公新書/本体860円+税
世界には安楽死を合法化した国がいくつかあり、日本でも「終活ブーム」がある。人生の終局である死のあり方をめぐって医療、生命倫理、法などの観点から論じる。若い読者には縁遠い話かもしれないが、重要な問題だ。

『女ぎらい ニッポンのミソジニー』
上野千鶴子
朝日文庫/本体920円+税

数多い上野の著作の一つ。ミソジニー(女ぎらい)は、女性にとっては自己嫌悪の様態で、一見それと無関係と思われる言葉や態度にも潜んでいる。著者は児童への性虐待、母娘関係、女子校文化のなかにもミソジニーを見出す。


『死刑囚最後の日』
ユゴー<小倉孝誠=訳>
光文社古典新訳文庫/本体920円+税

『レ・ミゼラブル』の作者として有名なユゴーが、死刑反対を訴えるために書いた小説で、ある死刑囚の苦悶に満ちた最後の数日間が語られる。死刑制度を維持する数少ない民主主義国の一つである日本に住む皆さんに、ぜひ読んでほしい。

P r o f i l e

小倉 孝誠(おぐら・こうせい)
1956年生まれ、青森県出身。
慶應義塾大学文学部教授。
1988年、東京大学文学部助手。1989年、東京都立大学人文学部助教授。2003年、慶應義塾大学文学部教授、現在に至る。2011年日本翻訳出版文化賞、2018年福澤賞。専攻はフランスの文学と文化史。

■主な著書・共訳書
著書に『愛の情景』(中央公論新社、2011年)、『革命と反動の図像学』(白水社、2014年)、『写真家ナダール』(中央公論新社、2016年)、『ゾラと近代フランス』(白水社、2017年)、『逸脱の文化史』(慶應義塾大学出版会、2019年)など。翻訳にアラン・コルバンほか監修『身体の歴史』全3巻(監訳、藤原書店、2010年、日本翻訳出版文化賞)、フローベール『紋切型辞典』(岩波文庫、2000年)、ユゴー『死刑囚最後の日』(光文社古典新訳文庫、2018年)などがある。

「わが大学の先生と語る」記事一覧


ご意見・ご感想はこちらから

*本サイト記事・写真・イラストの無断転載を禁じます。

ページの先頭へ