気持ちよく晴れた日の午後4時頃。スーパーへと出かける道すがら、最近見つけたお気に入りの本屋さんに立ち寄った。ゆっくり店内を見て回っていると、1冊の本が目にとまった。『わたしの名前は「本」』(ジョン・アガード=作、ニール・パッカー= 画〈金原瑞人=訳〉/フィルムアート社)『読書のいずみ』前号の「座・対談」に登場された金原さんが翻訳され、大好きな女優・エッセイストの美村里江さんが帯を書かれ、長年のお友達である「本」が語り手を務めるらしい。
空がきれいな水色で、自転車を漕いでいると少し暑いと感じる午後2時過ぎ。今日はバイトがある日。少し早めに家を出て、バイト先の少し向こうの、お気に入りの本屋さんへと向かう。
本屋の片隅で、窮屈そうに身を縮こませながら、じっと誰かの手が伸びてくるのを待っていたその本。『一億百万光年先に住むウサギ』(那須田淳/理論社)。私にとっては約10年ぶりの再会だった。小学生のわたしにその本は少し難しく、読み終えることができなかったが、表紙の自転車に乗ったウサギや、1度聞けば忘れない印象的なタイトルに彩られたその本は、記憶の片隅に残り続けた。迷わずその本を棚から引き抜いて、帰路を共にした。読み進めるうちに、初めて読んだ時との記憶違いの数々に驚いた。物語の舞台は横浜だと思っていたが実際は湘南だったし、穏やかな日常描写が多いと思っていたが、実際はサスペンス的な要素も多く、ドキドキしながら頁をめくった。読み終えてしばらく、その本の余韻、そしてその本を読まなかった日々の出来事が、さざ波のように押し寄せてくるのを感じていた。
なんとなく、その本のことはずっと覚えていた。その本のことをどこでいつ知ったのか、全く思い出せない。水中を涼やかに泳ぐ魚たちが映された表紙が美しかった。『パイロットフィッシュ』(大崎善生/角川文庫)。行きつけの古本屋で、ふとその本のことを思い出し、本棚から見つけ出し、電車移動のお供にした。電車に乗りながら見つめる景色と、本のなかの風景を重ね合わせることが、私はたまらなく好きだ。その際、電車で向かう場所が、初めて訪れるところであればなお良い。知らない人、知らない川、知らない店、知らない風。この場所で、その物語は生まれたのかもしれない。この地に、主人公が生きているのかもしれない。そんなことをとりとめもなく、考える。読む。「人は、一度巡り会った人と二度と別れることはできない。」物語の冒頭の一文が、何度も頭に浮かんでは消え、消えては浮かぶ。私の記憶と主人公の記憶が混じり合う。そして最後の一頁を読み終えた。もしも電車に乗っていなかったら、わたしはその場で声を上げて泣いていたかもしれない。それほどに胸に迫る、優しく切ない余韻で、心が満ちてゆく。気づけば車窓に映るのは、見慣れた景色、いつもの最寄駅。わたしの物語が、またここから始まってゆく。
春休み+帰省=時間の山。帰省中一気に本を読む。わーん幸せ。
実家から下宿に帰る。ちょっと寂しい。そうだ、宮下奈都さんを読もう。借りてきた、『誰かが足りない』(宮下奈都/双葉文庫)。本当に、なんて人なんだろう、この人は。前は、5話が大好きだったのは覚えているんだけど、他のはそんな光ってなかった。っていったら失礼ですね。……ええ、今回は、全話どきどきしました。でも、今回も5話が強烈。異彩を放っていた。最初の1文からもう好きだった。どきどきしっぱなし。あー、ほかの話もよかったなあ。失敗をかぎ取ってしまう女の子の話とか。ほほえましい。*本サイト記事・写真・イラストの無断転載を禁じます。