わが大学の先生と語る「大池先生の推薦図書」


『崩れゆく絆』
チヌア・アチェベ<粟飯原文子=訳>>
光文社古典新訳文庫/本体1,120円+税

アフリカ文学で1冊読むならこれを読め。植民化される過程をアフリカの側から描いた名作。アフリカ諸国では中高で読むことになっている(日本でいう『走れメロス』や『こころ』)。主人公は、ナイジェリアの村に住む壮年のリーダー。父を憎み、息子に裏切られ、、、ネタバレになるのでこれ以上は書けません。


『チョンキンマンションのボスは知っている──アングラ経済の人類学』
小川さやか
春秋社/本体2,000円+税

アフリカ研究者ならみなひしひしと感じているアフリカ独特の人間関係、ときに腹が立つがどうしても愛さずにいられないアフリカ的な人間関係を活写している。閉塞した日本社会に苦しんでいるあなたに薦めたい。


『精神の非植民地化──アフリカ文学における言語の政治学』
グギ・ワ・ジオンゴ<宮本正興・楠瀬佳子=訳>
第三書館/本体2,000円+税
ケニヤの作家がコロニアリズムと言語と文化について書いた理論書。彼はもともとは英語で書いていたが、この本以降、評論は英語で、小説は母語で書くようになった。村での参加型の演劇活動にも触れている。

『スピヴァク みずからを語る──家、サバルタン、知識人』
ガヤトリ・スピヴァク<大池真知子=訳>>
岩波書店/本体2,300円+税

著者はポストコロニアリズムとフェミニズムの重要な思想家だが、翻訳はどれも難解。この本はインタビュー集ということもあって、例外的に読みやすい。単純化されている部分もあるが、まずは入り口としておすすめ。これを読み終わったら、主著を原文でゆっくり読んでほしい。


『いのちの女たちへ──とり乱しウーマン・リブ論』
田中美津
パンドラ/本体3,200円+税
日本の現代のフェミニズムの原点。著者はウーマンリブのリーダーで、運動の言葉で思想を語る。その血肉化した言葉は、アカデミズムとは一線を画す。迫力満点。こういう書き方があったのか。ただし卒論ではまねしないでください。

『夜這いの民俗学・夜這いの性愛論』
赤松啓介
ちくま学芸文庫/本体1,200円+税
日本の近代以前の村では、ある一定の決まりの下、性行為が婚姻関係に限定されずに行われていた。「性の自己決定を性教育で育むべきだ」と主張する人は読んでほしい。これはあり? それともなし?

『13歳から知っておきたいLGBT+』
アシュリー・マーデル<須川綾子=訳>
ダイヤモンド社/本体1,500円+税

「13歳から」というからには、さすがに分かりやすく書かれている。ただ、いわゆるLGBT以上に深堀りしていて、基礎知識がすでにある人も十分楽しめる。個人のエピソードがたくさんあって、多様な性を身近に感じさせてくれる。文字通りカラフルな本。


『ジェンダー・トラブル──フェミニズムとアイデンティティの攪乱』
ジュデイス・バトラー<竹村和子=訳>
青土社/本体2,800円+税

著者はフェミニズム、クイアー理論、身体論の重要な思想家だが、翻訳はどれも難解。これが主著なのでおすすめしておくが、簡単ではない。The Judith Butler Reader の短い原文をゆっくり読むのが、理解への近道かもしれない。

P r o f i l e

大池 真知子(おおいけ・まちこ)
1967年生まれ、愛知県名古屋市出身。
広島大学ダイバーシティ研究センター長・教授。
1998年お茶の水女子大学人間文化研究科博士課程修了(博士〈人文科学〉)。1998年お茶の水女子大学人間文化研究科助手、1999年広島大学総合科学部講師、2017年広島大学ダイバーシティ研究センター教授を経て、2018年現職。

■著書・訳書
著書に『エイズと文学──アフリカの女たちが書く性、愛、死』(世界思想社、2013年)、訳書にガヤトリ・スピヴァク『スピヴァクみずからを語る──家・サバルタン・知識人』(岩波書店、2008年)がある。

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