特別連載
編集者に訊きたい50のこと 第2回(全3回)

第2回 実業務&編集者になるには?

「第1回編集者とは?」が大好評だった本企画ですが、 第2回は「編集者の実際の業務」と「編集者になるために必要なこと」についてお訊ねしました。引き続き回答は文藝春秋の編集者のみなさん。今回も必読です!
 
 ■取材協力:ご回答いただいた編集者の皆さん
  • Aさん
    《編集者歴》
    「文春オンライン」→「Number」
    現、「オール讀物」編集部
  • Bさん
    《編集者歴》
    角川春樹事務所→幻冬舎
    現、文藝春秋文春文庫部
  • Cさん
    《編集者歴》
    純文学雑誌1年→週刊誌2年→現在、小説誌10年目
  • Dさん
    《編集者歴》
    「週刊文春」→「Number」→第一文藝→「TITLe」→「オール讀物」→第二文藝
    現、「オール讀物」編集部
  • Eさん
    《編集者歴》
    「週刊文春」→出版部→「オール讀物」→「別冊文藝春秋」→「オール讀物」→「週刊文春」→「月刊文藝春秋」
    現、「オール讀物」編集部

文藝春秋
大正12年、文藝春秋社創設。作家・菊池寛が雑誌「文藝春秋」を創刊。戦後株式会社文藝春秋社は解散するが、その後新会社設立、昭和41年に現在の社名に改められる。芥川賞・直木賞をはじめとする多くの文学賞を手がけ、雑誌「文藝春秋」「オール讀物」「文學界」「週刊文春」「別冊文藝春秋」「CREA」「CREA Traveller」「Sports Graphic Number」「Number PLUS」「Number Do」「週刊文春WOMAN」の発行、 単行本、文庫、新書、全集の刊行、「文春オンライン」等のウェブ・メディア配信、電子書籍事業などを展開する、日本を代表する出版社である。
 

 

実業務

現在どのくらいの作家さんを担当していらっしゃいますか

AさんEさん
 20名くらいです。

Bさん
 20〜30名(ピーク時は50名ほど)。

Cさん
 約30人でしょうか。。

Dさん
 おそらく30人くらいを「担当」するだけでなく、「動かしている」ので、相当多い方だと周りから言われますし、実際にそうだと思います。

作家さんとのエピソードの中で特に印象に残っていることはありますか。

Aさん
 各社の担当編集が集って旅行をしたり、カラオケ大会があったり、桃狩りをしたり、大人のサークル活動のような仕事があるのかと、はじめは驚きました。

Bさん
 怒られたり、語り合ったり、怒られたり、多すぎてお答えできません……。

Cさん
 ある賞を受賞した方がガッツポーズをしていたのを見た時は嬉しかったですね。

Dさん
 ここ数年、担当作家の方が急逝されることが多く、ご存命だった時に一緒に行った取材、最後に次作の構想を話したことなど、絶対に忘れられません。

売れる作家さんに共通点はありますか。

Aさん
 良い作品を書き続けている作家さんの努力というものは本当にすごいと思います。表立って言う作家さんはいませんが、滲み出るその姿勢に敬服します。

Bさん
 あるとすれば、人間的に本当に優しい方が多いです。

Cさん
 書かれたものを読者がどう受け取るかということを徹底的に考えているということでしょうか。やはりサービス精神に溢れる方は、多くの読者に支持されるのではないかと思います。

Dさん
 皆さんの日々の努力がすさまじい、と思います。

届いた原稿について、文章の修正(改善の提案)等をしますか。

Aさん
 する時と、しない時があります。できる限り、思ったことは素直にお伝えするようにしています。

Bさん
 もちろん思ったことは伝えます。

Cさん
 しますね。めちゃくちゃうるさい編集者だと思われていると思います(笑)。

Dさん
 する場合もありますが……「修正」「改善」というような感覚ではなく、よりよくする「改稿」という意識です。新人の方であっても、こちらからの一方的な押し付けにならないよう、作者に考えていただけるポイントを示すよう努めています。

締め切り日までに原稿が届かなかった場合、遅筆の作家さんに早く作品を仕上げてほしい時など、どのように対応していますか。

Aさん
 催促の仕方も作家さんによって違うので、探りながらです。こまめに連絡をする、原稿催促もかねてインタビューや会食をセッティングする、パーティーでは積極的に声をかける、などなどこまめにコミュニケーションをとるようにしています。締切日を、サバを読んでお伝えしたり、ギリギリのスケジュールの場合は具体的に、かつ真剣にお話したりします。とにかく誠意を伝えて頑張るしかないです(笑)。

Bさん
 ひたすら待ちます。

Cさん
 メール、電話でお願いします。

Dさん
 遅筆の方に早く仕上げてもらうのはなかなか難しいので、何枚まで書かれているか、何日でこちらに送られてくるか、こまめに連絡を取り合うしかありません。連載の場合、雑誌には全体の枚数があるので、それを確認しながら、ほかの作品やコラムなどで調整をデスクがしていきます。

Eさん
 何度も何度も催促します。

作家さんと意見が対立することもあると思いますが、そのような時はどう折り合いをつけるのですか。

Aさん
 まだ対立するほどの仕事はしていませんが……ゲラでご提案したものが、突き返されることはよくあります。「絶対に直して欲しい」と思ったところは直していただいていますが、ご指摘する際の言い方や言葉遣いに配慮しながら、やりとりしています。

Bさん
 心から語り合います。

Cさん
 話し合って落としどころを見つけます。なぜそのようにするのか、徹底的にお話を聞きます。

Dさん
 意見の対立の場合は、「話せばわかる」です。でもスタイルの対立の場合は、編集者は代わりがいますが作家さんは唯一無二の存在なので、自分が退けばいいと思っています。

Eさん
 最後は譲ります。作家さんは自分の名前でリスクをとって書いているので。

本の装丁はどのような段取りで決めたり、お願いしたりするのでしょうか。

Bさん
 その作品によってまちまちです。

Dさん
 だいたいの場合は原稿がすべて仕上がり、発売日も決まってからです。

Cさん
 著者、デザイナーと相談して、決めます。

Eさん
 ケースバイケースです。基本的にはデザイナーと相談して決めて、その後に著者にも見せますが、常に自分なりの意見をもつようにすることが大事かなとは思っています。

文芸誌に載せる記事、作家はどのように決めていますか。

Aさん
 基本的に編集長が決めます。提案は自由なので、会議で案を出します。

Cさん
 雑誌の種類にもよると思いますが、力作を発表したばかりの作家には頼みたくなります。

Eさん
 面白い原稿の書ける人か、売れている人、これから売れそうな人に依頼します。

Dさん
 企画会議ののち、最終的にはさまざまな状況も鑑み、ときには単行本や文庫担当の意見も聞きつつ、編集長の判断です。

記事のネタはどのような形で集めているのですか。

Dさん
 作家さんから伺ったり、書店さんから伺ったり。基本的には、作家や本のプロモーションにつながるか、あるいは記事自体が最終的に単行本になるのかを考えます。ただ単に「最近話題だから」というのは、あまり意味がありません。

Aさん
 普段の読書やネットサーフィン、知人との会話のなかで思いつくこともあります。

Bさん
 常にアンテナをはって歩いています。

編集をするにあたって、ルールや心構えみたいなのがあれば教えてください。

Aさん
 自分の「面白い」という感覚を信じすぎないようにしています。私自身が、結構ニッチなことが好きだったりもするので、自分の感覚と世間の感覚にはズレがあるという前提で、なるべく大衆に流行っているものには目を向けるよう意識はしています。

Eさん
 法律に違反しない。人権を侵害しない。

Bさん
 威張らないことだと、常に思います。自分が作ってやった、売ってやったという編集者にはならないこと。

Cさん
 一緒に仕事をする作家、小説のいいところを引き出したいな、という気持ちを常に持つようにしています。当然といえば当然ですが。

Dさん
 何か「決めつけ」ないこと、つねに丁寧に丁寧に、ということでしょうか。

「売れるもの」「評判の良いもの」には共通点はありますか?

Bさん
 これも教えて欲しいですね(笑)。しかし、売れるタイミングはあるように感じます。

Dさん
 必ずしも共通点はないように思います。「評判が良いもの」でも売れなくて悔しい思いを何度もしてきました。「評判がよい」をどうやって、売ることに繋げるか本当に難しいです。

Eさん
 わかりやすいこと、サービス精神があることだと思います。

編集者はどこを見て、「小説の面白さ」を判断するのでしょうか。

Aさん
 感情を揺さぶられたか。笑うでも、怖いでも、泣くでも、自分の感情が動いたかどうかで判断することが多いです。その理由を考えたときに、表現力やキャラクターの作り込み、ストーリーの構成、といった要素が浮かび上がってくるのだと思います。

Dさん
 判断基準がリトマス紙のようにないから困ります。構成、キャラクター、描写はどれも大切ですが、それがよくても面白くないこともありえます。何か「芯」のきちんとあるものではないかと思うのですが、その正体が見えにくいですね。

Cさん
 「面白い」には結構階層があるので、判断が難しいですね。私はキャラクターが魅力的だと、面白いかどうかは別として、その小説が好きになります。

Bさん
 読んでいて感じるものなので、人それぞれかと思います。正解がないように思います。

Eさん
 初めて読む作家の場合、最初は文章だと思います。小説の面白さをどこに求めるか、大きくわけると、「描写だ」という派と、「筋だ」という派があるのですが、プロとして最低限必要な文章の技術力というのは存在します。それがあるかないかが第一歩かと。

編集者からみて、いま好まれる作品の傾向やそれについて思うことなどを教えて下さい。

Aさん
 これまでマイノリティだったものや人に上手く焦点が当たっている作品は、文芸ノンフィクション問わず、流行なのではないでしょうか。一方で、いわゆる胸キュン作品とか、一昔前に流行っていたものたちの波もまた来ているので、どちらかに偏りすぎずに多様な作品作りをしたいです。人々の潜在意識やもやもやした気持ちを言語化した作品は、いつの時代でも求められていると考えています。

Bさん
 コロナでどう変わるのか、これからもっと考える時期だと思います。

Dさん
 本屋大賞などでは、あまり辛いもの、硬派なものは好まれない気がします。また予想外の展開がもてはやされる一方、ジャンプ的王道ものも好まれる傾向にありますが、そこで本当に面白い鉱脈はやはり希少なので、人気作家に依頼が殺到してしまうのだとも思います。

 

編集者になるには?

学生時代に経験しておくと良いこと、ご自身が良かったと思う経験はありますか。

Aさん
 私は巨大サークルでイベント企画をしていたのですが、学生なりの政治的な動きとか(笑)、人間関係のいざこざにそれなりに巻き込まれ、気の合う人ともそうでない人とも行動をともにしながらイベントを作っていたのは、良い経験になりました。全く飲めない酒を前に、全く乗り気でない治安の悪い飲み会にも頑張って参加した時期もありました(ひととおり体験して行かなくなりましたが)。実務に直接的に役に立つなにかというよりも、精神的ななにかを得た感覚はあります。ただ個人的な経験なので、ご参考までに。

Bさん
 自分が学生時代にやったのは、編集者ごっこです。自分ならここをこう直して欲しいとか考えたり、装丁はこうしたとか、、、。生意気にもそんなことを考えていました。あとは、本は沢山読んでおくことです。

Dさん
 私自身は体育教員を目指して、しかも体育会に所属していたので、今の仕事にそれは1ミリも役立っていません。強いていえば、当時身体的にも精神的にもぎりぎりまで追い込まれた(と思っていた)ことが、たぶん、どんな環境に置かれていても仕事を続けていく上では活きていると思いたいです。

逆に、学生時代にやっておけば良かったと思うことはありますか。

Aさん
 バリバリの文学部でビジネスとは対極の位置にいたので、もう少し「お金を稼ぐ」という意識を持つ学生になれていたらと思います。社会人になって、仕事はビジネスであるという感覚を養うまでにかなり時間がかかっているので。あとは社会人と接点を持っておけば良かったなと思います。OB・OG訪問もまったくせず、好きな本や映画ばかりに触れて、社会人と話すことのない生活だったので、もっと広い視野を持っていれば、面白い人間になれたかもしれません(笑)。

Cさん
 もっとちゃんと勉強していればよかった。社会人になると次々にタスクが押し寄せてくるので、思考力が鍛えられるのは学生時代のような気がします。

Dさん
 本だけはもう少し読んでおくとよかったです。

Eさん
 たくさん勉強する、本を読む、映画を観る、旅行をする、など、当たり前のことが大事で、もっとやっておけばよかったと後悔しています。

理系学部出身の編集者はいらっしゃいますか。文系学部でなくても、編集者にはなれますか。

Aさん
 むしろ求められているのではないでしょうか。ITなどの理系的な能力と編集能力があれば怖いものはないのでは。理系、すごく良いと思います。文系人生の私からすれば、今からでも学びたいくらいです。是非弊社に入って私に教えて下さい(笑)。

Bさん
 文系じゃない作家さんも多いので、もちろん文系理系は関係ないと思います。

CさんEさん
 あまり多くはないけれどもいらっしゃいます。もちろんなれます。むしろ歓迎されるのではないでしょうか。

Dさん
 理系の編集者にはあったことがありますし、獣医学部だった方も! ただ私のように体育学部出身、という文芸編集者には会ったことがありません(笑)。

編集者にはどのような性格の人が向いていると思いますか。

Aさん
 社交的な人。話が上手い人。人懐っこい人。……羨ましいですね(笑)。好奇心旺盛というのもいいと思います。

Dさん
 色んな作家の方がいますので、どのような性格でも大丈夫だと思います。ただし、基本的に時間にルーズだったり、生活が怠惰な人は、実は苦労すると思います。

Bさん
 いろいろな性格の人がいていいのだと思います。向いているのか、いないのかは個人で決めることです。

Cさん
 何かをやりたくて絶えずうずうずしている人がいいのではないでしょうか。そういう心を持ちたいです。

Eさん
 真面目な人、誠実な人、柔軟な人、ストレスを感じない人。

編集者には、どのようなスキルや心構えが必要だと思いますか。

Aさん
 人に強くなることでしょうか……。編集者になった以上は、年次に関係なく、興味を持った人に会いに行くことが求められます。そんなときに萎縮せずに会いに行ける度胸が必要かもしれません。
 文章力は会社に入ってから嫌でも書くので、最低限書ければ大丈夫ではないでしょうか。むしろ、入社直後は真っ赤になるまでよく直されるので(笑)、自分流のこだわりが強すぎるよりも、修正を素直に受け入れる柔軟さがあるくらいのほうが楽なのかも?

Bさん
 作品を愛することのみだと思います。

Cさん
 人に何かをしてあげたいな、という気持ちがあるといいと思います。そういう心構えでいたいなと反省する日々です。

Dさん
 文章は自分が名文を書いても仕方がないので、それよりもパワーポイントやエクセルが使えた方が……英語も得意な方が今後はいいと思いますが、それよりも自分が話したいことがなければ会話は成立しないので、色んなものを見て、聞いて、それを自分がどう感じ、どう伝えるか表現力が大事だと思います。

Eさん
 読解力と文章力と行動力が必要だと思います。

大学時代にどれくらい本を読んでいましたか。また、その頃に読んで心に残っている本は何ですか。

Aさん
 好きなときに好きなだけ、という感じでしょうか。川上弘美さんの『センセイの鞄』は、たくさん小説を読み始めるきっかけになりました。江國香織さんの作品は好きすぎてお守りみたいな感じです、今も変わらず。寺山修司や三島由紀夫の言葉選びにも感銘を受けました。学生時代は、ストーリー展開よりも“表現力“に惹かれていたと思います。

Cさん
 3か月かけて『失われた時を求めて』(プルースト)を読んだことが印象に残っています。こんな贅沢な時間の使い方をして読書をできたのが懐かしいです。

Bさん
 毎日読んでいたと思います。

Dさん
 大学時代は前出のような理由で、中学時代、高校時代と比べてまったく本を読んでいません。よく文藝春秋に入れたと……。全部、高校までに読んでいた本の話をしていて、面接を逃げ切りました。その時に話したのは、
  植村直己 『青春を山に賭けて』
  パール・バック『大地』
  柳田邦男 『犠牲(サクリファイス)』
でした。いま読んでもこの3冊は名著だと思います。

Eさん
 1日1〜2冊くらいでしょうか。心に残っている本はたくさんありますが、エラリー・クイーン『九尾の猫』と、法月綸太郎『一の悲劇』を挙げます。

 
第1回 編集者とは
● 予 告 ●
本企画は連載企画です(全3回)。
次回の予定はこちら
 
第3回(165号)
作家になるには and more 篇

質問者:『読書のいずみ』委員、読者スタッフ(総勢20名)
【在籍大学】
北海道大学(2名)、津田塾大学、千葉大学、横浜国立大学、お茶の水女子大学(3名)、東京大学、名古屋大学、京都大学(2名)、奈良女子大学、金沢大学(2名)、大阪府立大学、同志社大学、立命館大学、岡山大学、愛媛大学


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