いずみスタッフの 読書日記 172号 P2


レギュラー企画『読書のいずみ』読者スタッフの読書エッセイ。本と過ごす日々を綴ります。
 
  • 京都大学大学院
    徳岡 柚月
    M O R E
  • 東京工業大学2年
    中川 倫太郎
    M O R E
  • 千葉大学3年生
    古本 拓輝
    M O R E
  • 千葉大学2年
    高津 咲希
    M O R E

 

 

千葉大学3年生 古本拓輝

5月某日

 天気は快晴。私はるんるん気分。なぜって? だって今まで手に入らなかった本が、今! まさに! 私の手元に届こうとしているから!
 午前11:57。「ピンポーン」と音が部屋に響く。「はーい」玄関の鍵を開ける。配達員さんが手に持っている箱の引力に私の目は抗えない。いやそれしか見れない。受け取ってうやうやしくAmazonと書かれた箱を開けるその姿はさながら国宝を扱う学者さんのよう。指の間も洗って、爪を切りそろえた手でそっと本を持ち上げる。中古だからと心配したけれど、カバーの焼けなし! ヨレなし! 折り目なし! 三拍子そろった新品同然のライトノベル。新刊はもう手に入らない、けれどライトノベル史上の傑作と口伝てで聞いてきた。読みたいのに読めないもどかしさとさようなら。そしてこんにちは、『とある飛空士への追憶』(犬村小六/小学館ガガガ文庫)! それは大海の青と大空の青の境目がわからなくなるような、何もかもまっさらでどこまでも行けるような世界へ飛び立つ物語。 『とある飛空士への追憶』購入はこちら >
 

6月下旬 心模様/曇天

 世の中には読みたい本と、読まなきゃいけない本がある。机に積まれた12冊の本は後者だ。
 数日後、某出版社の面接がある。ESで、ある小説のフェア企画を書いたのだが、つっこまれること間違いなし。その小説はシリーズものなのだけど実は4巻までしか読んでいないのだ。「最新巻の設定を活かして〜」と企画欄に書いた私の浅慮! ウソをホントにするために私は今、超高速でページを捲っているのである。1巻から再読だ。私の焦りとウラハラに、鎌倉の古書堂を舞台にしたその小説はゆっくりと時間が流れる。それにつられて、私もシューカツという言葉を忘れられる。10年前に読んだ記憶が頭に流れてくる。『時計じかけのオレンジ』、『それから』、『落穂拾ひ』。これらのタイトルを私は片時も忘れたことはない。どの作品も私がいま読んでいる小説の中で取り上げられている。古書と人の出会いを紡ぐ『ビブリア古書堂の事件手帖』(三上延/メディアワークス文庫)だ。思い出した。この本が私に近代文学への道を拓いてくれたんだなあ。そうだ、鎌倉に行こう、現実逃避と聖地巡礼を兼ねて。 『ビブリア古書堂の事件手帖』購入はこちら >
 

7月上旬

 『トリリオンゲーム』(稲垣理一郎=原著、池上遼一=イラスト/小学館 ビッグコミックス スペリオール)最新巻(4巻)を購入。買うだけで読まない。これは破滅願望のある就活生が読むべきだ。今の私は読まないほうがいいだろう。 『トリリオンゲーム』購入はこちら >
 
 

 

千葉大学2年 高津咲希

4月下旬

 ゴールデンウィーク目前。待ちに待った連休の到来ということで、お気に入りの本をもう一度読み返してみた。『クララとお日さま』(カズオ・イシグロ〈土屋政雄=訳〉/早川書房)だ。この小説は架空の未来が舞台の小説だが、とてもリアルでなんだかドキリとさせられる。
 ジョジーという病弱な少女と少女型アンドロイドのクララが出会い、クララはジョジーの“人工親友”となる。AIには感情を理解するのは難しい、そう思っていた。しかし、この小説を読んでいるとジョジーとクララ、一体どちらが人間なのかわからなくなる。クララは人々の心の傷を癒し、前に進む勇気を与える。でも彼らが前を向いて歩み出した途端、クララは不要となり捨てられる。しかし、クララはそれでもなおジョジーの幸せを祈り続けるのだ。一方の人間は不安や恐怖、諦めを抱き、自分と闘い、回り道をしながらも不器用に人を愛していく。「人間とは?」「愛とは?」「幸せとは?」そんなことを考えながらゴールデンウィークはあっという間に終わってしまった。 『クララとお日さま』購入はこちら >
 

6月中旬

 あるニュース番組で紹介され、以前から気になっていた本を読んだ。『非色』(有吉佐和子/河出文庫)は、今から60年ほど前の1964年に書かれた小説であるが、今でも、いや、今だからこそ心に強く響く。時は終戦直後、黒人兵と結婚し幼い娘と共にアメリカに渡った日本人女性が数々の人種差別を経験する。なぜ人は差別するのか。そんな根源的な問いに主人公は向き合う。人間は人を愛する一方で攻撃的にもなる。ふと、4月に読んだ『クララとお日さま』を思い出した。 『非色』購入はこちら >
 

7月下旬

 夏休みに入り、最初に手に取ったのは、『さきちゃんたちの夜』(よしもとばなな/新潮文庫)。『izumi』171号の「読んで一言」で紹介されているのを見つけこれは読まなければという衝動に駆られた。何せ私の名前も「さき」なのだから。色んな「さきちゃん」の色んなエピソードにほっこりしたり、背中を押されたり、切なくなったり……。「さきちゃん」たちの人生に思いを巡らせる。印象的な一言がある。「それぞれに違いのない風景の一部みたいに人々を見ているけれどそれぞれがきっと同じでありながら全然違うのだ」名前は同じ「さき」だけど人生は人の数だけある。そんな当たり前のことを噛みしめながら今、この読書日記を書いている。 『さきちゃんたちの夜』購入はこちら >
 
 
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