『ファストフードが世界を食い尽くす』
エリック・シュローサー<楡井浩一=訳>
草思社文庫/定価1,320円(税込)
敬愛してやまないジャーナリストの第一作。大量、安価、低質な食べものを売るための企業の涙ぐましい努力と、ドラッグ以上に危険な食べものの攻撃性と、嗅覚で味覚を操作される子どもたちの悲しさと、食肉工場でぼろぼろに働かされて、組合を作ることさえできない労働者たちの悲惨さを、教養として知っておきたい。
『植物と帝国』
ロンダ・シービンガー<小川眞里子、弓削尚子=訳>
工作舎/定価4,180円(税込)
フェミニズムや科学史に関心のある人に、シービンガーのファンは多い。たしかに私も、本書によって、奴隷制、女性支配、植民地主義、科学の体制という歴史的に最重要な事象が、シームレスにつながったイメージを持っている。
『雑食動物のジレンマ 上・下』
マイケル・ポーラン<ヒデコ・ラッセル=訳>
東洋経済新報社/定価(各)1,980円(税込)
糖分も炭水化物も家畜のエサもトウモロコシ。広告のいうとおりにしかモノを食べられない私たち。その画一化する世界から脱することが、どれほど困難で、しかしカッコいいことか。キノコを選び、イノシシを撃つ。
『核は暴走する 上・下』
エリック・シュローサー<布施由紀子=訳>
河出書房新社/定価(各)4,290円(税込)
1980年に、アメリカのミサイル基地で起こった核ミサイルの暴発事故を信じられないほど精密な調査によって明らかにする。核兵器の恐ろしさは、その使用だけではない。暴発、誤爆、そして管理者の精神的破壊など、保持すること自体がもたらす危険である。シュローサーが挙げる多数の核兵器事故の多くは、ほとんど偶然によって大惨事を免れていることに戦慄を覚える。
『性食考』
赤坂憲雄
岩波書店/定価2,970円(税込)
一度読んでしまうと頭からこのテーマが離れなくなるので要注意。芥川の「食べちゃいたい」という言葉がどうにも離れなくなる。マルサス『人口論』が問題とした性欲と食欲の問題を、思想的課題として引き受けた冒険の書。
『ニュルンベルク合流』
フィリップ・サンズ<園部哲=訳>
白水社/定価5,720円(税込)
読んですぐにこれは映画になると思った本。「人道に対する罪」という言葉を国際裁判で初めて用いた国際法学者と、「ジェノサイド」という概念を作った法学者、そして、ナチスのポーランド総督の三人に、著者の祖父の人生が絡みあいながら、現代史の心臓部へ迫るダイナミックな歴史叙述。
P r o f i l e
藤原 辰史(ふじはら・たつし)
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略歴
1976年生まれ、北海道生まれ、島根育ち。
京都大学 人文科学研究所 准教授。
1999年、京都大学総合人間学部卒業。2002年、京都大学人間・環境学研究科中退。同年、京都大学人文科学研究所助手(2002.11-2009.5)、東京大学農学生命科学研究科講師(2009.6-2013.3)を経て、現在、京都大学人文科学研究所准教授。博士(人間・環境学)。2019年2月に、第15回日本学術振興会賞受賞。
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■著書
『ナチス・ドイツの有機農業
―― 「自然との共生」が生んだ「民族の絶滅」』(柏書房 2005年)、『カブラの冬
―― 第一次世界大戦期の飢饉と民衆』(人文書院 2011年)、『稲の大東亜共栄圏
―― 帝国日本の<緑の革命>』(吉川弘文館 2012年)、『ナチスのキッチン
―― 「食べること」の環境史』(水声社→決定版=共和国 2012年→2016年)、『食べること考えること』(共和国 2014年)、『トラクターの世界史
―― 人類の歴史を変えた「鉄の馬」たち』(中公新書 2017年)、『戦争と農業』(インターナショナル新書2017年)、『給食の歴史』(岩波新書 2018年)、『食べるとはどういうことか』(農文協 2019年)、『分解の哲学
―― 腐敗と発酵をめぐる思考』(青土社 2019年)、『縁食論
―― 孤食と共食のあいだ』(ミシマ社、2019年)、『農の原理の史的研究
―― 「農学栄えて農業亡ぶ」再考』(創元社 2020年)、『歴史の屑拾い』(講談社 2022年)、『植物考』(生きのびるブックス 2022年)。