読書マラソンWEB版

森見登美彦 著『夜は短し歩けよ乙女』角川文庫

全国大学生協連 常勤学生委員 中島健太

 

著者:森見登美彦
出版社:角川文庫

この作品は、京都の大学に通う主人公である「私」が同じクラブの後輩である「黒髪の乙女」に恋をし、彼女との距離を縮めるために奮闘する過程を描いた物語です。
 個性あふれる登場人物たちと出会い、愉快かつ奇怪な出来事に巻き込まれながらも素直で前向きな性格で乗り切る「黒髪の乙女」。一方で、彼女との距離を縮めるために奮闘する「私」は、彼女の周りで起きる出来事に巻き込まれ、また時には自ら苦難の道のりを突き進むこととなります。終盤には「自分よ自分よ、なにゆえ不毛にご活躍?」と自信をなくす「私」ですが、彼の「できることからコツコツと」という、着実に外堀を埋める姿勢が最後には実を結びます。
 作品の構成として、「私」と「黒髪の乙女」が直面する出来事をそれぞれの視点から交互に描写しています。最初はなかなか「黒髪の乙女」との距離を縮められない「私」ですが、少しずつ努力が実り、「黒髪の乙女」の意識の中に「私」が現れ始めます。我が道を進み奇怪な出来事も楽しみながら乗り切る「黒髪の乙女」と苦難の道を歩む「私」のすれ違いと出会いが少し歯がゆく、それでいてとても微笑ましいです。
 また、この物語は京都の実在するまちを舞台に展開されています。とても詳細に情景が描写されており、一つひとつの場面が鮮明に浮かんできます。その一方で、とても非現実的な出来事が「私」と「黒髪の乙女」の周りで起きます。非現実的で奇怪な出来事なのに、どことなく現実の出来事のように思えて、読み進めていてとてもわくわくする作品です。

全国大学生協連 常勤学生委員
中島健太