法学って何だか難しそう……こんな声をしばしば耳にします。六法をめくってはひたすら法律の条文と格闘し、絶えず新しく生み出される裁判事例を延々と学び……確かにこれでは明るい法学のイメージが生まれることもないでしょう。
そんな印象をいっぺんに覆してくれるのがこの『法窓夜話』。著者の穂積陳重は現代においてなお使われ続けている民法典を明示年間に起草した一人ですが、その彼が長年にわたって蓄積した古今東西に及ぶ法学うんちくを本書の中で100話紹介しています。
その法学うんちくは、はるかに時代をさかのぼって古代バビロニアのハンムラビ法典、古代ギリシャのソロンの立法、古代ローマの十二表法に始まり、中世・近代ヨーロッパにおける何ともユニークな裁判事例へ筆を進めるかと思いきや、場所を一転して江戸時代の日本の奉行たちの見事なお裁きを語り、あるいは明治当時の法学界での珍談奇談を実に生き生きと語ります。
そもそもこの作品は、著者が自身の息子である重遠と語り合った法学談笑をもとにして、「法学について多くの人に興味・関心を持ってもらいたい」との著者の熱い思いから編集されたものであり、また著者自身も出来るだけ平易な口語文を用いて書くよう努めていることと相まって、たいへん読みやすい文章となっています。
そういうわけで、わずか三百余ページの中に法学の長大な歴史が収められている本書は、まさに“奇跡”と言える一冊なのかもしれません。
一橋大学
佐藤一輝