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『檸檬』著:梶井基次郎 出版社:角川文庫

新潟大学 佐藤和輝

表紙

『檸檬』著:梶井基次郎 出版社:角川文庫

「丸善」「大爆発」、、、そして「檸檬」。これらのキーワードでピンと来る人もいるのではないだろうか。高校国語でも取り扱われることがある梶井基次郎の「檸檬」である。この作品には高校時代に出会ったが、その繊細さとエモーショナルな文章にひどく感動した覚えがある。この作品は彼が23、4歳の時に執筆したものであるが、今の自分と丁度同年代であることもあり、彼がいかなる想いでこの作品を手掛けたのか、想いを馳せることも楽しみ方の一つである。

 この作品の最も魅力的な部分は主人公の空想に基づく心理描写である。傍から見れば何気ない行動にも、作者の色彩が豊かに散りばめられた表現によって、場面情景に鮮やかさが生まれてくるのである。「無機質」と言われる現代に生きる私たちに不足しているのは、この繊細さであり鮮やかさではないか、と勝手に思わさせてくれる。この時代に生きている私たち若者は誰しも鬱蒼とした感情を持って生きていると考える。その感情は梶井氏が生きた時代にも同じように存在し、とりわけ若者には付き纏っていたはずだ。その感情を一瞬にして吹き飛ばし、快闊にさせてくれるのがこの作品である。梶井氏が30歳といくらかで亡くなってしまったが、すでにこの時の作品から彼の中で完成された人生観を見出すことができる、とも言える。

この「檸檬」は短編小説であり、他にも梶井氏は亡くなるまでに詩的作品を生み出した。感情の繊細さと鮮やかさを味わいたい人には是非読んでいただきたい。

新潟大学 佐藤和輝