読書マラソンWEB版

『いつも彼らはどこかに』著:小川洋子 出版社:新潮文庫

芝浦工業大学 斉藤由姫

表紙

『いつも彼らはどこかに』著:小川洋子 出版社:新潮文庫

この物語の主人公は、人なのか、動物なのか。
短編8話で構成されている、この本は不思議な感覚のまま物語が進んで行きます。一見ファンタジーかともおもいますが、物語はどことなく暗くて、ある種推理が必要な感覚にもなります。だからこそ読んでいると様々な感情が飛び込んできます。戸惑い、恐怖、嫉妬、好奇心、歓喜…そんな風に登場人物の感情をダイレクトに感じることができるのは、人の登場人物がみんな揃って地味で、なんだか自分にも通ずるものを感じてしまうからだと思います。

不思議な感覚で進む物語ですが、一話ごとに核となる動物がいます。しかし、物語はすべて人の視点で進みます。その視点の“どこかに"、“いつも"必ず動物がいるんです。登場する人や動物のどちらかが、主張しすぎるわけでなく、互いに程よい距離感で物語の中に存在しているのです。そう感じた時、タイトルの意味がストンと自分の中に落ちます。いつも、彼らはどこかにいるのです。目の前に存在していなくとも、もうこの世にはいないとしても、主人公の心の中、記憶の中にいつまでも寄り添って存在しているのです。そう感じることができるから、不思議な感覚で読み進めていっても、物語の最後にはどことなく心が温かくなるような感じがします。
8話それぞれが繋がっているようで繋がっていないところも、また読み手の想像を駆り立てるものがありました。

一貫していることは、人は1人じゃなく、何か寄り添うものやことが誰しもあるということです。ネットが発展し、リアルな人間関係が希薄になりがちですがそんな人にこそ、ふと立ち止まってこの本を読んでみることをオススメします!

芝浦工業大学 斉藤由姫