米どころ出身の僕は、ついこの間まで朝から晩までお米お米お米。三食ずっとお米を口にする日も珍しくないくらいだ。そんな僕もたまに、ときどき、ごく稀に、パンに浮気をすることがある。食パンをこんがりと焼き、マーガリンを置く。じわーっと染み込んでいく様子がたまらない。あぁ、儚いなぁなんて思いながら見ていると、だいたい遅刻寸前に…。これが最近、僕の日常になりつつある。
この本は、一人の若い英国人デザイナーの物語。大学院の卒業制作として彼が選んだのは、「ゼロからトースターを作ってみる」ということだった。そのために彼は、自分の足で地球上のさまざまな土地に赴き、試行錯誤しながらも自分の手でトースターを組み立てていく。実際の写真が多く使われているし、さほど難しい言葉が出てこないこともあって、2時間程度あれば最後まで読めてしまうと思う。
読み終えたときの感想は「身の周りのものを、もっと注意深く、もっと想像力を働かせて見てみたいし考えてみたい」ということだった。正直最初はタイトルを見て、なんだかおもしろそうだと思った、ただそれだけで読んでみた本だ。自己啓発本でもなければ学習書でもない。トースターをゼロから作ってみた男の話を読んだだけのに、消費者としての在り方、現代の社会における生き方を問われているような気分になった。
僕がなぜそんな気分になったか。それは、ゼロからトースターを作る過程の中に、様々な要素が散りばめられているから。巻末の解説にもある通り、この本を読むと世界の見え方が変わるかもしれない。また、タイトルからは想像がつかないような感想を持つことがあるという点にも、本の面白さ、読書の楽しさがあると感じた。みなさんも、ぜひ。
2017年度全国学生委員会・執行役員 齋藤未樹也