読書マラソンWEB版

『ジョーカー・ゲーム』著:柳 広司 出版社:角川文庫

大阪大学 秦 将也

表紙

『ジョーカー・ゲーム』著:柳 広司 出版社:角川文庫

かつてないジャンルのスパイミステリー。高度な心理戦、超人的で冷徹な行動、時折見せる人間としての情が魅惑の世界へと導きます。彼らのかっこよくもなんとなく儚いスパイとしての生き様をぜひ見てみてください。


時は大日本帝国時代。日本ではスパイというものは卑劣でゲスなものと蔑まれていた。そんななか、陸軍の上層部のみが知るところであるスパイ機関が設立された。通称「D機関」。その最高責任者として結城中佐という人物がいる。彼は独自の試験でスパイを選び、育成する。試験内容の一部として「今日ここにくるまで何歩歩いた?」や、机の上に地図を広げて「サイパン島を指させ。」といい、サイパン島がないことを指摘すると「地図を広げる前に机の上にあったものを答えろ。」などなど。並の人間ならこんなもの答えられない。だがスパイとして認められた者たちは、これらにも淡々と答える。それだけでなく、上った階段の数や窓のひび割れの数まで数えていたり、机の上にあった詰将棋の解答まで答えたりするのだ。そんな彼らは「こんなこと自分にしかできない」という自尊心だけで動いている。育成についても独特だ。語学や武術、ピッキングや盗聴、変装や女の口説き方など様々なことを、凶悪犯やオリンピック選手などを教師として育成している。そんな彼らが日本各地、世界各地で繰り広げる高度な心理戦。時にはピンチになるときもある。だが彼らはそれさえ計算の範囲内なのだ。誰も殺さず、誰にも殺されず、ただ黙々と任務をこなしていく。それだけなのにとてもハラハラドキドキしてしまう。彼らの人間性、そしてそれらをまとめる結城中佐の圧倒的リーダーシップにきっと惚れてしまう。短編なので気軽に読めるし一度見てしまえば一気に一話分見れてしまう。スパイミステリ―初心者でもさらっと読めるので是非おススメだ。

大阪大学 秦 将也