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『Dの殺人事件、まことに恐ろしきは』著:歌野晶午 出版社:株式会社KADOKAWA

関西学院大学 宮岡知世

表紙

『Dの殺人事件、まことに恐ろしきは』著:歌野晶午 出版社:株式会社KADOKAWA

 時は現代。技術が発達し、簡単に人と接触を図れる時代。しかし人が抱く「執着」はかわらない。恨み、恋情…どれも度を超すと「狂気」に代わり、人を恐怖に陥れる。
  江戸川乱歩の作品に潜む「狂気」を現代に。


 みなさん、江戸川乱歩と聞くとどんなことを思いつくだろうか?代表作である「人間椅子」や「屋根裏の散歩者」を連想する人もいれば、かの有名な高校生探偵の名前を思いつく人もいるだろう。この作品は、そんな江戸川乱歩の作品を下敷きにして書かれた短編集である。

 と、ここまで語ってきたが私がこの本を読むことに決めた理由は表紙である。真っ赤なクロスのかかった丸テーブルの上には、手足を持つ椅子。その手には拳銃が握られている。この不思議で不気味な表紙に、ミステリ好きの血が騒いだのだ。
 中身はどうかというと、乱歩の作品特有の不気味さや大方の筋はそのままに、全く異なる物語に生まれ変わっているのだ。時代設定は現代に変更され、話によっては主人公の境遇も原作とは異なる。それでも登場人物の狂気、人が人に執着するときの不気味さが原作と同様に伝わってくる。ある人は恨み、ある人は恋情。人によって執着の仕方は様々だが、それも度が過ぎるとただただ不気味で恐ろしいものでしかないのだということを、読みながらひしひしと感じた。さらに、時代設定が現代になっていることによって原作を読むよりもさらに物語が身近さを増す。登場人物がスマホをきっかけに「狂気」を見せるさまは想像に難くない。とはいえ、乱歩の作品よりも結末がある程度はっきり示されているので、その後主人公がどうなったのかが分からない、といったモヤモヤやある意味での不気味さは解消されている。

 原作の不気味さはそのままに、異なった終わりを迎える物語たち。そこには時代に関係なくそこにある、ヒトの心の闇が描かれている。一歩間違えば誰もが踏み込む可能性を持った「狂気」に触れてみませんか?

関西学院大学 宮岡知世