やさしいものにだけ触れていたい。そんなヒリヒリした気持ちの時に、そっと寄り添ってくれる一冊です。
「やさしいものでできあがった本だ」
読み終わったあとに、そう感じる人は少なくないと思う。
そして私はこうも思った。
「これは、手に取るべくして、私のもとにきた本なのだなあ」と。
物語は主人公の幹が自分の生い立ちを語るところからはじまる。それは海辺でわかめにくるまっていたところを拾われた捨て子だったという、ちょっとありえなくて、少しだけ変な話だ。
幹はその後、血の繋がらない家族に愛されて育つ。そうして穏やかな日々を過ごしていたある日、家の裏にある廃墟のビルに明かりが点ってから、不可解な事件が起こり始める。それらを見つめながら、幹は、家族や様々な人との交流の中で少しずつ変わっていく。それは本当にちょっとした変化だ。劇的な成長なんてどこにもない。けれども読んでいくうちに、自分の中でも何かが確かに変わる。
大層な呪文を唱えたり、魔法陣を描いたりするわけではないけれど、この本はちょっとした魔法の本だと思う。やさしさと、ちょっとした魔法。ちょっとした気づき。それをぜひ読んで味わってみてほしい。
大阪樟蔭女子大学 南野六花