第五回本屋大賞を受賞し、映画化もされたこの作品。もともと筆者の伊坂幸太郎が好きだったこともあり、手に取った。首相暗殺の犯人に仕立て上げられた主人公が追っ手から逃げ続けるという一見シンプルなあらすじだが、読んでみるとなかなかに複雑で読み応えがあった。
読み進めると、ただのミステリーではなく「冤罪」「情報操作」「監視社会」などの社会問題が垣間見え、そして「ジョン・F・ケネディ大統領暗殺事件」「オズワルド」「ザ・ビートルズ」たちがストーリーに深みを与えていた。
そして仲間の存在。疎遠となっていた学生時代の仲間たちがこの首相暗殺という大事件により過去の記憶を呼び起こしながら動き出す。「仲間の大切」さなんてクサイ言葉では言い表せない何かを感じさせられた。
この短い文でも様々な要素が出ているが、この要素をしっかりまとめているのが筆者・伊坂幸太郎。伊坂特有のニヤニヤさせるようなユーモア、知らぬ間に泣かされている予期できない感動。そしてなにより伊坂は伏線回収がうまいと評判だが、数ある彼の作品の中でも最も美しくまとまっていると感じた。読了後の余韻が心地よい、まさに伊坂ワールドの真骨頂といえる作品だった。
群馬大学
宇都木 聖哉