読書マラソンWEB版

『海と毒薬』著:遠藤周作 出版社:角川文庫

2018年度全国学生委員会・理事(東洋大学卒) 宮永 聡太

表紙

『海と毒薬』著:遠藤周作 出版社:角川文庫

暗く、読んでいて苦しくなる、人間の倫理のあり方を問われる作品。
遠藤周作作品はエッセイをよく読んでいたが、小説は今回が3作目。買って積んだまま状態の本を減らそうと思い、一番薄いという理由で読み始めた。

本書のタイトルは「海と毒薬」である。屋上から眺める遠くの海や雲の描写から暗く禍々しい雰囲気、医療の専門用語が多く出てくることから薬品類のツンとした臭いを感じることができた。
物語はとある町医者の様子から始まり、彼が大学院時代に戦争中の生体解剖実験に関与した忌まわしい過去の話が展開される。そこでは、生きたままの人間を解剖するという非人道的な実験に関わる人々の苦悩が淡々と書かれている。

苦悩を抱えた人々は、誰もが好きでこの実験に参加したのではない。罪の意識は抱えていたのだが、医学の発展のためと唆されて罪の意識を無理やり抑え込んでしまう。「周囲から誘われて断る理由もなかった」、「秘匿性の高い仕事に関わることができるほど評価されていると感じた」など様々な理由が見えるが、それはどれも日本人の持っている集団心理によるものである。

遠藤周作作品の多くは日本人とキリスト教がテーマになっているが、本書でも神の存在を問うような描写がいくつか存在した。自分が出した決断を、どこかで神が止めてくれるのではないか、止めてくれなかったということは神は存在しないのか、と…

ひと言で言えば、周囲に合わせて流されやすい日本人は、神の存在に関係なく自分の意志や信念とは違う行動も許してしまうものだというメッセージを感じた。

私自身も、周囲の雰囲気に飲まれてしまいそうになる場面はよくある。自分の信念を曲げずに行動するのは大変だ。

2018年度全国学生委員会・理事(東洋大学卒) 宮永 聡太