読書マラソンWEB版

『#名画で学ぶ主婦業』著:田中久美子(監修) 出版社:宝島社

三重大学 田中 利佳

表紙

『#名画で学ぶ主婦業』著:田中久美子(監修) 出版社:宝島社

大学で美術史を学び、「知識があると、絵はもっと面白くなる」と感じた。聖書を片手に宗教画での表現を探り、作者の随筆を読みながら風景画に想いを馳せ、作者と依頼主のいざこざを内に秘めた挿絵を楽しんだ。趣味として美術展に行くときも大学での学びはとても活きた。でも何かが物足りなくて、なんだか後に残らない。浅くて表面的な感覚がした。そこでふと気づいたことがあった。自分の鑑賞の中に、自分の感性はあるのか。美術史を学んだからこその視野に囚われていないか。はっとした。それ以来、知人を誘って美術展に行き、気づきを共有しながら鑑賞することを数回試みた。絵の趣旨を無視して楽しむのはあまり好かないが、どう感じるままに絵を楽しめるのか、探り続けている。

そんな中Twitterで見かけたのが「#名画で学ぶ主婦業」というハッシュタグのついたツイートだ。デヴィッドの≪マラーの死≫の画像とともにツイートされているのは、我が子にお弁当を持たせなければならないと当日の朝に知り絶望する主婦の姿。見たことのある名画でさえ、育児に仕事に家事に精いっぱいの主婦の心の叫びにしか見えなくなって惹き込まれた。このように想像力ひとつで絵の見え方は幾分でも変わるのだと、新たな気づきを与えてくれた。

とはいえ、その絵に何が描かれているのか、どんな背景があって社会にどのような影響を与えたのか、絵の趣旨を知る姿勢はやはり忘れたくない。『#名画で学ぶ主婦業』は名画の解説も添えられているのでとても嬉しい。近年美術展ブームが著しいが「どう絵を観たらいいのかわからない」と敷居の高さを感じる人もいるだろう。『#名画で学ぶ主婦業』は絵を楽しむ切り口を示してくれる。鑑賞の楽しさと絵画の奥深さをともに感じられる一石二鳥の一冊、ぜひ読んでほしい。



三重大学 田中利佳