読書マラソンWEB版

『青の炎』著:貴志 祐介 出版社:角川書店

東京学芸大学 宮田 好未

表紙

『青の炎』著:貴志 祐介 出版社:角川書店

人が人を殺すときには、理由がある。他人から見ればくだらない理由のときもあるし、思わず犯人に同情してしまうような理由のときもあるだろう。本作の主人公であり犯人である櫛森秀一がどちらかといえば、圧倒的に後者であると思う。
「死んでもいい人間なんて、この世にはいない」という考え方がある。秀一はそうは思っていない。殺害対象である義理の父親・曾根に対して、秀一はたびたび「死んでいるあいつが一番まし」と語る。その通り、この曾根という男は、直接相対していない読者にすら不快感を抱かせる悪人だ。怒りが頂点に達した秀一は、彼を殺すための完全犯罪計画を企てる。実際、それは成功したかに思えたのだが…。

文庫版の解説にあるように、この小説は「倒叙ミステリ」に分類される。つまり、最初から犯人もトリックもわかっていて、そのうえで謎解きが行われるタイプのミステリだ。おそらく本来は、犯人とのぎりぎりの心理戦が倒叙ミステリの見せどころなのだろうと思う。しかし、この小説の見どころは、完全犯罪が暴かれる推理ショーではない。
ごく普通の、ロードバイクや絵を描くことが好きで、頭もよく、友人がいる17歳の少年が、一人の人間を「絶対に殺さなければならない」と考えるに至るまで、もがき葛藤し、家族や友人・恋人に対する嘘と裏切りに苦しみ、それでもなお家族のために殺人という悪行に手を染め隠し通そうとする。その心情をこそ、じっくり読んでほしいのだ。

最初に書いたように、この小説の犯人である秀一は、彼にとって切迫した、どうしようもない理由で殺人を犯す。そして殺してしまった後になって、秀一の知らなかったやるせない事実が次々と浮かび上がっていく。追い詰められた秀一が選んだ道は……その結末を、最後の一行まで見届けてほしい。



東京学芸大学 宮田 好未