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『いなくなれ、群青』著:河野裕 出版社:新潮文庫

山形大学大学院
田端 恵介

表紙

『いなくなれ、群青』
著:河野裕 
出版社:新潮文庫

ISBN
9784101800042

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「ここは捨てられて人たちの島だ。この島を出るには、あなたが失くしたものをみつけなければならない」

階段島という、魔女が創った島に訪れた人は必ずこう告げられる。

島の住人は、なぜ自分が島にいるのかわからず、島に来たときに記憶をなくしている。現実世界から切り離され、不自由ではあるけれど平穏な島の中で暮らしながら、失くしたものを探すのだ。

そんな島に少し前から暮らし始めた七草という少年。そして、そんな彼の目の前に、彼の友人である真辺という少女が姿を現すところから物語は始まる。

階段島という現実離れした設定の中で、七草と真辺が、階段島から現実世界に戻る方法や、自分たちがなぜ階段島に来たのかを明らかにしていく様子が描かている、SF要素がある物語です。物語の終盤では、七草が階段島の謎にたどり着きますが、そこからまた新たな問題に直面し、物語が続いていきます。しかし注目すべきは、奇妙な出来事に巻き込まれていく七草と真辺の「考え方の違い」です。理想主義の真辺と悲観主義な七草。問題を解決しようと正面からぶつかっていく真辺と、解決しなくてもいい諦め方を知る七草。この考え方の違いこそこの物語の重要なポイントであり、さらに、自身や周囲の人間の考え方について、俯瞰的な立場で考えるきっかけにもなり、物語を楽しみながらも学べる作品です。表紙のイラストの雰囲気に惹かれて買った、いわゆる表紙買いでしたが、その世界観にのめり込める作品でした。

全6巻の第1巻目ですが、この1巻だけでも十分に楽しめる作品です。ちなみに、各巻のタイトルには「色」に関する言葉が入っており、これが物語とどう繋がるのか、注目です。昨年には映画化もされているので、映画・小説両方ともチェックしてみてください!

山形大学大学院 田端 恵介

表紙