読書マラソンWEB版

『愛なき世界』著:三浦しをん 出版社:中央公論新社

京都大学大学院
廣嵜 真由

表紙

『愛なき世界』著:三浦しをん 
出版社:中央公論新社

目的もなく立ち寄った本屋さんで「本屋大賞受賞!」の文字が目に入り、私はこの本を手に取りました。表紙の、キラキラ光るエッペンチューブを見たときにはもう、私はレジに並んでいました。表紙のデザインに一目惚れをして、いわば衝動買いをしたこの本は、作者が私の生活を覗き見たのかと疑うくらい、まるで私の研究生活の中での苦悩や喜びを表しているかのようでした。

主人公と私の共通点は、植物を愛する大学院生であること、大学院から外部進学をしていることのほか、驚くほどいくつもあり、主人公に自分を重ね合わせながら、なんとも不思議な気持ちで一気に読み切ってしまいました。最も印象的だったのは、主人公が実験を進めていく中で「失敗したかも」と不安になり、どんどん落ち込んでいくシーンです。たったひとつの工程でも、ミスをするとその前に多くの時間と労力をかけて行ったことが台無しになってしまう恐怖を、私は知っています。だからこそ、主人公の気持ちが痛いほど分かり、自分が同じ境遇にあったとき自分だったらどうするか、考えました。実際の院生生活に、実験を何度もやり直す余裕はありません。お金や時間を自由に使っているように見えて、実は、多くの制限の中で生活と研究を両立させなければいけない厳しさがあることを、改めて感じました。思い悩むことが多い毎日ですが、主人公が研究室のメンバーや植物に救われながら強くなっていく姿に、私も救われた気がしました。

共感できるポイントが多いだけでなく、文中で出てくる専門用語や実験の内容を理解できるだけで、読むのがこんなにも楽しいのかと、この本は読書の純粋な楽しさをも教えてくれました。『愛なき世界』というタイトルに反し、読了後にはあたたかい愛情で包まれていると感じられるような、そんな一冊でした。

京都大学大学院 廣嵜 真由