読書マラソンWEB版

『ぬけがら』著:夏川椎菜 出版社:ひよこ文庫

和歌山大学大学院
佐々木 直人

表紙

『ぬけがら』著:夏川椎菜 
出版社:ひよこ文庫

普段は読書をしませんが、最近推しの声優さんが書かれた小説なので読みました。特に挫折からの成長を描く物語と、様々なチャレンジをしている本だという要素に惹かれました。約1時間半で読める連作短編小説ですが、濃密な体験ができました。

この小説は少女の成長と旅立ちがテーマで、主人公が経験した挫折をどう乗り越えていくかが綴られています。面白いのが、主人公の視点で物語が語られる場面がほとんどない点です。短編ごとに主人公と出会った人の視点で語られるので、主人公が読者である自分の近くにいるような感覚を持てました。その語り手も赤の他人や友人・家族なので、甘酸っぱさや、儚さ、身近な人の温かさが感じられて、心が揺さぶられ、ふるふるしました。自分も挫折の経験があるので、感情移入しながら読んでいました(特にタカビシャとパッチという短編がすごく泣けました)。ひよこ文庫さんの紹介でも書かれているのですが、主人公は物語の中で思い出の詰まった町を旅立っていきます。その旅立ちに対する解釈がエピローグでされていたのですが、とっても素敵だったので読んでほしーなと思いました。

またこの本は様々なチャレンジをしていて面白いと思いました。そもそも、この小説は著者自身がプロデュースした写真集がモチーフとなっています。「声優さんが小説書いた」の時点ですごいなぁと思うのですが、写真集の世界をまた文字で表現するのも面白いし、小説を読んだ後で写真集を見ると、繋がりが感じられて楽しめました。また紙媒体のデザインがオシャレです。短編ごとに紙袋的なものに閉じられていて、普通の本とは違った読む体験ができます。一風変わったような本を読みたい人にもおススメなのと、劣等感や挫折を拭えない人にとっても寄り添ってくれる優しい物語です。

和歌山大学大学院 佐々木 直人