学生・院生からのおすすめ本

宇宙は、特殊な環境です。そこで働く宇宙飛行士は、やはり特殊な仕事だと思います。けれども仕事の本質は、地球上と変わりません。
ISS（国際宇宙ステーション）は宇宙を高速で飛び回る逃げ場のない閉鎖空間なので、1つのトラブルが命取りとなります。本書は、そんな緊張感のあるISSを4度経験した若田光一さんによって書かれました。
ISSにおいて、機械の故障や火災など設備に起きる問題が重大であることは想像に難くありません。そこで若田さんは、自身の経験を交えながらいくつかの心掛けを紹介しています。機器の動作音や自身の体調などの物事の変化に注意を払い、その変化から今後の展開を予測すること。不確定要素や思い込みを排除し、優先順位を決めて取り組むこと。このようにトラブルに対して「どうやって予防するのか」「どうやって対処するのか」を掘り下げていくと、地球上の我々にも当てはまる普遍的なスキルが見えてきます。
しかし、トラブルが起こるのは設備だけとは限りません。ISSという特殊な環境で国も習慣も異なる6人の宇宙飛行士が過ごしていくには、セルフコントロールや対人スキルが不可欠です。また、宇宙開発はたくさんのステークホルダーを抱える巨大な事業でもあります。なので本書には人事評価への不満や本部と現場の対立のような”組織あるある”がたくさん登場してきます。これまでにISS運用部門の部長職やISSのコマンダー（船長）を務めてきた若田さんの失敗談は、私たちの世代には新鮮で価値のある学びを、ミドルエイジの方々には共感と勇気をもたらすことでしょう。
2022年9月、若田さんは5度目のISSへと出発しました。卓抜した能力と人格を持っていそうな宇宙飛行士は、今日も意外と人間らしく地球を周回しています。

岡山大学大学院 田島　響